ハラハラするんですけど──私のお気に入り|アマノ文筆クラブ
甘野充さんの「アマノ文筆クラブ」に、初めて参加します。
タイトル:ハラハラするんですけど
応募期限:8月10日 18時00分
条件:記事にこの記事のリンクを貼ってください。
#アマノ文筆クラブ とハッシュタグをつけてください。
※タイトルの変更はできません。
──猛暑日、嫌になっちゃいますよね。
インターンの安城くんには、決まったデスクがない。
でも、Excelのマクロくらいなら、するする組んでしまえる。だから、パソコンは支給されている。
ということは、勤務時間中、安城くんは社内のどこかで作業をしているということだ。
オフィスの端の作業机だったり、誰かが休んだり外出していたりする隙に、その人の机を借りていたり、ときには会議室だったりする。
彼が会議室にいるときに、コーヒーを持って行ってあげるのは、正直、ていのいいサボりの口実にもなっていた。
──このあいだの、猛暑日のことだ。
よりによってそんな日に、ビルに緊急の電気工事が入った。
200ボルトがしばらく止まるとかで、エアコンが使えなくなった。
サーバールームにはスポットクーラーが運び込まれたけれど、人間にはなんの手当てもされない。
それどころか、クーラーから伸びた排熱ダクトは、オフィスにそのまま向けられている。
営業とかで外回りに行ける人はもちろん、なにか口実を見つけられる人は、とっとと外出していった。
──ごく控えめに言って、ものすごく暑い。
早々にノー残業デーになることが決まったけれど、やっと昼休みが終わったばかりだ。
ランチは、もちろん外で食べた。
選んだのは、普段は敬遠している、いつでも冷房が効きすぎの蕎麦屋だ。
──先輩と二人で、無言で冷やしたぬきを手繰った。
「原ちゃんさあ、私、午後はストッキング脱いでもいい?」
「……一応まずくないですか?」
「だって今日はもう誰も来ないよお」
「まあそうですよね。来社のアポ、基本的にペンディングにしてもらってるし」
「ずるいよ、自分だけチノパン履いてて」
「今朝パンツを選んだ自分を、褒めてあげたいです」
「もうキャミソール脱いじゃおうかな」
「いいじゃないですか、女子高生みたいで」
「そこまでできないなー」
コンビニでアイスクリームと、ブロックアイスを買った。
ジャンケンで負けてお留守番になっていた課長には、ガリガリ君をお土産にすることにした。
オフィスに戻ると、スポットクーラーの排熱が一層ねっとりと渦を巻いている。
ビルの窓が開かない設計にした奴を、排熱ダクトの一番そばの席に縛りつけてやりたい。
もうひとつ買ってきたガリガリ君は、私のお気に入りの安城くんの分だ。
このフロアに見当たらないということは、会議室だろうか。
いつもは良い眺めの廊下も、今日は日当たりが良すぎて温室だ。
ガラス張りの会議室も、きっと暑いだろう。
「──っていうか、なんで?」
「あ、この格好ですか? 昨日遅くまで仕事してたら、工事のお知らせがあったから用意しといたんです」
安城くんは、上はシャツを脱いだタンクトップ姿。
下はなんと、色こそ地味ではあるけれど、ハーフのカーゴパンツだった。
「いやそれ、社会人としてどうなの?」
「えー、一応課長にはオッケーもらったんだけどなあ」
そういって屈託なく笑う安城くんの上半身は、なにかスポーツでもしていそうな感じの日焼けをしていて、意外と筋肉質なのが──目に毒だ。
額に浮いた汗を、無造作に腕で拭う。
こぼれた雫が、テーブルに落ちた。
つい、組み敷かれた私の身体に、安城くんの額から汗の雫が落ちてくるところを想像してしまった。
多分──暑さのせいだ。
「でもさあ、そんなセクシーな格好されてたら、お姉さんハラハラするんですけど」
「これも、脱ぎます?」
「もう、からかわないの!」
──仕事が終わったら、涼しいところに行こうか?
そんなこと、言えないし、言わない。
熱暴走なんて、しないしない。
たとえ、どんなに暑くてもね。(了)
📚 これまで、文芸部の活動に参加した作品をまとめています(マガジン)
📚 もう少し長い物語を読んでみたい方へ──現在連載中の長編三部作です。
私には、「選ばなかった人生」と「なれなかった自分」をめぐる物語があります。
🗒️ 匿名で届けたいご感想などがありましたら、質問箱からお気軽にお寄せください。
いいなと思ったら応援しよう!
もし作品がお気に召しましたら、一杯のお茶をご馳走していただけるようなお気持ちで、応援いただけたらうれしいです。
そのお心遣いが、次の一作になります。