『水曜どうでしょう』鈴井貴之と藤村忠寿、正反対の二人が作った面白さ|第23夜
前回は、放送開始前に作られた『水曜どうでしょう』の企画書から、番組の原点について考えました。
そこにあったのは、完璧に計算された人気番組の設計図ではありませんでした。何をするかよりも、誰がするか。企画そのものではなく、その中で起きる人間の面白さを大切にする考え方でした。
では、その考え方はどのように番組の形になっていったのでしょうか。
そこには、二人のまったく違う作り手の存在がありました。鈴井貴之さんと藤村忠寿ディレクターです。

後の「ミスター」を形作る原点が語られている
今では『水曜どうでしょう』を語る上で欠かせない二人ですが、最初から同じ方向を向いていたわけではありませんでした。
藤村Dは、初期の鈴井さんについて少し距離感があったと振り返っています。大泉さんや嬉野Dとは自然に話せた一方で、鈴井さんには少し気を遣う存在だった。
今の4人の関係性を知っていると少し意外ですが、考えてみると当然だったのかもしれません。
当時の鈴井さんは、北海道で劇団を主宰し、脚本を書き、演出をする人でした。自分の頭の中にある世界を形にする。
つまり、作りたいものを持っているクリエイターでした。
『ドラバラ鈴井の巣』や『雅楽戦隊ホワイトストーンズ』を見ても、その特徴はよく分かります。
設定を作り、物語を考え、出演者を動かして、自分の表現したい世界を完成させる。
鈴井さんは、自分の中にある面白さを作品として外に出すタイプだったのだと思います。

『雅楽戦隊ホワイトストーンズ』
自分の世界を形にするミスターらしさが詰まった作品
一方で、藤村Dの作り方は少し違いました。
藤村Dは、最初から完成された形を作るより、出てきたものを面白い方向へ持っていくことが好きだと語っています。
これは『水曜どうでしょう』を見ると、とても納得できます。
例えば、サイコロの旅。
タイトルだけ聞くと、ただサイコロを振って移動するだけです。でも藤村Dが見ていたのは、移動そのものではありませんでした。
深夜バスを引いた時の絶望、帰れない大泉さんのぼやき、疲れて壊れていく人間関係。
藤村Dが見ていたのは、予定通りに進まない時間の中で、人がどう変わっていくのかだったのだと思います。
だから藤村Dの企画には、細かい台本が必要なかったのかもしれません。
全部決めてしまえば、予定外の面白さが消えてしまう。
目的地よりも、そこへ向かう途中。完成した作品よりも、生まれてくる瞬間。
藤村Dは、そこを撮ろうとしていたのだと思います。
考えてみると、二人は正反対でした。
鈴井さんは、自分の中にあるものを形にしたい人。藤村Dは、その場で生まれるものを拾いたい人。
でも、この違いこそが『水曜どうでしょう』には必要だったのかもしれません。
もし藤村Dだけなら、ただ自由なだけの番組になっていたかもしれません。
もし鈴井さんだけなら、もっと完成された別の作品になっていたかもしれません。
違う考え方を持つ二人が同じ場所にいたから、あの不思議なバランスが生まれました。

その柔軟な発想や仕事観に触れられるエッセイ
『水曜どうでしょう』が30年愛され続ける理由。
それは、完璧に作り込まれた番組ではなかったからなのかもしれません。
企画を考える人がいて、その企画を壊してしまう人がいて、その予定外を笑って残す人がいる。
普通なら失敗として消される部分が、『水曜どうでしょう』では一番面白い場面になりました。
人は、完成されたものだけを好きになるわけではありません。
迷ったり、間違えたり、予想外のことに巻き込まれる姿に魅力を感じることがあります。
鈴井貴之さんと藤村忠寿さん。
作りたいものを持っていた人と、生まれるものを信じた人。
その二人の違いがあったからこそ、『水曜どうでしょう』はただの旅番組ではなく、30年後も見続けたくなる「4人の時間」になったのだと思います。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回(第24夜)は、「なぜ4人の旅を見続けてしまうのか」について考えていきます。
特別な事件が起きるわけでもない。絶景ばかりが映るわけでもない。それでもなぜ、私たちは4人が旅する姿を何度も見返してしまうのかを読み解いていきます。
※この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
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