『水曜どうでしょう』失敗だらけの旅が、なぜ名場面になるのか|第10夜
前回は「闘痔の旅」前半を通して、『水曜どうでしょう』が普通の旅番組とは違う理由について考えてみました。
温泉そのものではなく、温泉へ向かう4人を見る番組。目的地よりも、そこへ向かう途中で起こる出来事や人間の反応を楽しむ番組。その形は、闘痔の旅の後半になるほど、さらに強く表れていきます。
なぜなら、この旅は本当に予定通りに進まないからです。

(引用元:DVD「闘痔の旅」より)
最初から象徴的だったのが、平田内温泉での出来事です。ここは自然の中にある野湯。そのため到着した時には、すでに一般の方が入浴されていました。
普通のテレビ番組なら、この時点でかなり困った状況です。撮影できない。予定していた映像が撮れない。スケジュールも変わってしまう。しかし、ここからが『水曜どうでしょう』でした。顔を映さなければ撮影できるかもしれない。そう考えて交渉を試みますが、結果はうまくいきません。
仕方なく温泉卵を作りながら待つことになります。しかし、待っても待ってもなかなか出てこない。そこで再度、大泉さんが交渉へ向かうものの、さらに厳しい展開が待っていました。
この交渉の様子は、実際の映像としては残っていません。でも、ここで終わらないのが大泉洋さんでした。
戻ってきた大泉さんが、その一連のやり取りを再現する。相手の口調や雰囲気まで含めて、まるでその場を見てきたかのように話す。
本来なら「撮影できませんでした」で終わる出来事です。でも、大泉さんが話すことで、撮れなかった場面まで面白いシーンになってしまう。ここに大泉洋という人の大きな魅力があると思います。
普通、テレビは映像が撮れたものを使います。でも『水曜どうでしょう』は違う。撮れなかったこと、失敗したこと、予定通りいかなかったこと。
そこから生まれる会話まで番組になってしまう。そして、この交渉で疲れ果てた大泉さんとミスターは、移動中の車内で眠ってしまいます。
本来なら、そこも使わない時間かもしれません。でも、どうでしょうでは違います。目的地だけではなく、疲れている姿も含めて旅になる。
だから見ている側も、一緒に移動しているような感覚になるのだと思います。

(引用元:DVD「闘痔の旅」より)
そして、闘痔の旅を代表する名場面が椴法華村の水無海浜温泉です。ここは海のすぐ近くにある露天風呂。しかし待っていたのは、癒やしの温泉とは少し違う光景でした。
波が容赦なく入り込んでくる。ゆっくり体を休める場所というより、自然と戦うような場所になっていました。当然、大泉さんはボヤきます。「こんなところ入れるか」と。
普通なら、そこで終わりかもしれません。でも、大泉さんの面白いところは違います。文句は言う。納得はしない。でも、最終的にはやる。
裸になり、自分の胸をたたいて心臓マッサージをしながら温泉へ向かう。この姿は、後にDVDの表紙にもなるほど印象的なシーンになりました。
そして入浴中、大きな波を頭からかぶる。それを見て藤村Dが大笑いする。この瞬間に、どうでしょうらしさが全部詰まっている気がします。
大泉さんは、ただ嫌がる人ではありません。嫌だと言いながらも挑戦する。藤村Dは、それを無理に格好よく見せようとしない。
むしろ、その人間らしい姿を一番面白がる。だから見ている側も笑ってしまうのだと思います。
さらに面白いのは、このシーンが完全な偶然だけではないところです。後に藤村Dは、この波の場面について、大きな波が来るタイミングを待って撮影したという話をしています。
ここが『水曜どうでしょう』のすごいところだと思います。自然に起きたように見える。でも、ただカメラを向けているだけではない。「おもしろい」が起こる瞬間を待っている。
第8夜で考えた「計算された自然体」。まさにその形です。
作り込んだ笑いではない。でも、偶然任せでもない。人がおもしろく見える瞬間を、藤村Dと嬉野Dが待っていた。だから自然なのに面白い映像になったのだと思います。
そして最後に向かったのが青森県の恐山でした。
闘痔の旅の締めくくりとして向かった場所。しかし、そこでも予定通りにはいきません。10月末。すでに閉山。結局、入ることすらできませんでした。
痔を治すために始まった旅。各地の温泉を巡るはずだった旅。でも最後まで、思ったようには進まない。
普通に考えれば失敗です。しかし、不思議なことに『水曜どうでしょう』では、その失敗こそが完成形になっていました。
なぜなら、私たちが見ていたのは「温泉に入れるかどうか」ではなかったからです。
入れない時に、大泉さんが何と言うのか。予定が崩れた時に、藤村Dがどう笑うのか。ミスターがどう巻き込まれていくのか。嬉野Dがその空気をどう残すのか。そこを見ていた。
考えてみれば、人生も予定通りにいかないことばかりです。準備したのに失敗する。期待した結果にならない。思い通りに進まない。
でも、後から振り返った時に思い出になるのは、案外そういう出来事だったりします。完璧だった日より、何かが起きた日の方が覚えている。
『水曜どうでしょう』は、それをテレビで見せていたのかもしれません。
失敗を消すのではなく、残す。予定外を直すのではなく、楽しむ。
闘痔の旅は、温泉を巡る企画でした。でも本当に映していたのは、予定通りにいかない状況の中で見えてくる4人の姿だったのだと思います。
「痔、エンド」。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回(第11夜)は、「大泉洋はなぜサイコロに振り回されるほど輝くのか」について、もう少し掘り下げてみたいと思います。
※この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」や「👤フォロー」をして、続きを読んでいただけると励みになります。
📌皆さんは、失敗した出来事の方が、後から良い思い出になった経験はありますか?
予定外だったけれど楽しかった出来事などあれば、ぜひコメントで教えてください。
(コメントにはできる限りご返信させていただきます)
--
■運営者(ユウナ)について
このnoteでは『水曜どうでしょう』をテーマに執筆しています。以下の別アカウントでは、普通の会社員だった私が、FIREを達成するまでの資産形成の実体験を記録しています。
