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『水曜どうでしょう』深夜バスで壊れていく大泉洋はなぜ面白いのか|第12夜

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前回は「サイコロ2〜西日本完全制覇〜」の前半を通して、サイコロという仕組みがなぜ大泉洋さんの魅力を引き出すのかについて考えました。

行き先を自分で決められない。予定を立てることもできない。普通なら不自由でしかない状況ですが、『水曜どうでしょう』では、その不自由さこそが出演者の素の反応を生み出していました。

東京から始まった旅は、新神戸へ。そして、そこで振ったサイコロによって出てしまったのが、熊本行きの深夜バス「レッツ号」でした。

今回はその続き、「サイコロ2」の後半です。

移動中、時間が全然進まないことに苦しむお二人
(引用元:DVD「サイコロ2~西日本完全制覇~」より)

普通の旅番組にとって、移動時間とは目的地へ行くための途中経過です。移動している姿を少し映すことはあっても、メインになるのは到着してから。

観光地、美味しい料理、そこで起こる出来事が番組の中心になります。でも、『水曜どうでしょう』は違いました。

目的地に着いてからではなく、目的地へ向かう途中で人間がどう変わっていくのかを見せた番組でした。

サイコロ2では、新神戸から熊本へ向かう深夜バス「レッツ号」に乗ることになります。夜通しバスに揺られ、十分に眠れないまま朝を迎える。

普通なら、これは撮影と撮影の間にある「休憩時間」だったはずです。しかし、どうでしょうでは違います。

疲れている時間も、眠そうな表情も、機嫌が悪くなる瞬間も、そのまま番組になっていきました。

なぜなら、そこに一番その人らしさが出るからです。

快適な状態では、人はある程度自分を作ることができます。カメラの前だから明るくしよう。面白いことを言おう。そう意識することができます。

でも、長時間移動して、眠れなくて、疲れ切った状態では、それができなくなる。

その時に出てくる言葉こそ、本当の反応だったのだと思います。

そして、その象徴となったのが、壇ノ浦サービスエリアでの名シーンでした。

水曜どうでしょうを代表する大泉さんの名セリフ
「寝れないんだよ」
(デアゴスティーニ 第2号の表紙より)

深夜バスで移動を続け、疲労が限界に近づいていく大泉さんとミスター。普通の番組なら、出演者がここまで疲れた姿を見せることは少ないと思います。

元気なところ、楽しそうなところ、格好良いところを映す。それが一般的なテレビの作り方です。

でも『水曜どうでしょう』では、むしろ逆でした。眠れない。疲れている。もう帰りたい。そんな状態だからこそカメラを回しました。

そして、その状態だからこそ大泉洋さんのボヤキが生まれました。

大泉さんのすごいところは、ただ文句を言っているだけではないところです。自分たちが置かれている理不尽な状況を瞬時に理解して、それを言葉に変えてしまう。

なぜ自分たちはこんなことになっているのか。なぜこんなにつらい思いをして移動しているのか。

その怒りや疲労を、見ている人が笑えるものに変換してしまう力がありました。

だから、大泉さんのボヤキは不快にならないのだと思います。本当に疲れている。

本当に嫌がっている。でも、その言葉の奥には、どこかこの状況を楽しんでいるような空気もある。

その絶妙なバランスが『水曜どうでしょう』のおもしろさでした。


そして、ここでも重要なのは藤村Dとの関係です。普通なら出演者が疲れて文句を言えば、スタッフは気を使うかもしれません。

「申し訳ない」「少し休ませよう」と考えるかもしれない。でも藤村Dは違いました。

大泉さんが追い込まれる。ボヤく。それを聞いて藤村Dが笑う。

一見するとひどい関係に見えます。でも、それが成立したのは、大泉洋という人の魅力を藤村Dが誰より理解していたからだと思います。

第8夜でも触れましたが、藤村Dは「番組」ではなく「おもしろいもの」を作っていた。

深夜バスも同じです。深夜バス自体が面白いわけではありません。ただ座って移動しているだけです。

でも、その環境に4人を置くことで、自然とおもしろいことが起きる。余計な演出を加えるのではなく、人が面白く見える状況を作る。

これが、どうでしょうの仕組みだったのだと思います。


さらに、それを支えていたのが嬉野Dのカメラでした。どうでしょう中盤以降、嬉野Dは「いつおもしろいことが起こるか分からないから」という理由で、オンオフを決めずにカメラを回していたそうです。

大きな出来事だけを撮るのではなく、何も起きていないように見える移動時間も撮る。疲れている時間も撮る。だからこそ、普通なら消えてしまう瞬間が残りました。

深夜バスで壊れていく姿が面白いのは、苦しんでいるからではありません。

その人らしさが隠せなくなるから。作られた姿ではなく、本当の反応が出てくるからです。

サイコロは行き先を決める道具でした。でも結果的には、大泉洋という人を引き出す装置になりました。

そして深夜バスは、その魅力をさらに浮かび上がらせる場所になった。

だから私たちは、ただ疲れて移動しているだけの映像を、何度見ても笑ってしまうのだと思います。


(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)


次回(第13夜)は、「どうでしょうはなぜ全国へ広がったのか」について、もう少し掘り下げてみたいと思います。

※この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」や「👤フォロー」をして、続きを読んでいただけると励みになります。


📌皆さんは、『水曜どうでしょう』で好きな深夜バスのシーンはありますか?

印象に残っている移動シーンや大泉さんのボヤキなどあれば、ぜひコメントで教えてください。
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