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論考:税収でも国債でもないマネーの入口をつくれるか-公共通貨を、法律の内側で制度化する条件

🍃物語本文

第13話:「それ、村のモノです。〜チャ~リン発行益と運用益の持ち主〜

🍃関連解説
第13話解説①:「通貨発行権とは何か?―基本編
第13話解説②:「通貨発行の仕組みが格差の“種”を生む?ー通貨発行権(応用編)
第13話解説③:「税収でも国債でもない入口はつくれるか-公共通貨を、法律の内側で制度化する条件



第1章 グランドデザイン:公共目的のお金の入口を二つにできないか

1-1. 第2回からの接続:公共支出の価値と、国債利息の問題

公共目的のお金には、社会にとって必要な支出が多く含まれます。

  • 道路を直す。

  • 災害に備える。

  • 医療を支える。

  • 教育を整える。

  • 子育てを支える。

  • 地域の生活圏を守る。

これらは、社会にとって必要な支出です。
しかし、その公共目的のお金が税収だけでは足りないとき、多くの場合、国債という借金の入口を通ります。

  • そこでは、公共支出の恩恵とは別に、国債利息が発生します。

  • その利息は、国債を保有する主体への所得移転になります。

  • さらに、将来の返済、税、歳出抑制、物価上昇、財政余地の制約などを通じて、負担は広く社会に広がっていきます。

ここで整理しておきたいのは、公共支出の価値と、そのお金を用意する入口は別の問題だということです。
この切り分けを前提に、今回の問いへ進みます。

1-2. 今回の問い:税収か国債に限られてよいのか

今回の問いは、次の通りです。

・公共目的のお金の入口は、税収として先に集めるか、国債として借りるか
 にほぼ限られてよいのか。
・国債市場を維持したまま、生活の土台に関わる一部の公共目的について、
 借金に紐づかない別の入口を法律の内側に設けられないか。

ここでいう「生活の土台」とは、働けるか、競争に勝てるか、資産を持っているかにかかわらず、人が最低限の生活を維持し、地域の生活圏が崩れないための基礎的な条件を指します。

  • 生活保障、防災、医療、教育、子育て、地域循環。

  • これらは、市場で採算が合うかどうかだけでは測れない公共目的です。

今回考えるのは、その一部について、税収として先に集める入口、国債として借りる入口とは別に、借金に紐づかない入口を制度として置けないか、という問いです。

1-3. 二つの入口:既存の入口と、追加的に検討する入口

公共目的のお金の入口を、次のように整理します。

この二つの入口は、対立させるものではありません。
役割を分けて併存させるものです。

  • 既存の入口は、金融市場や財政運営を支える入口として維持する。

  • 追加的な入口は、生活の土台に関わる一部の公共目的について、厳格な統治条件のもとで設ける。

本稿では、既存の国債に紐づいた入口を維持したまま、公共目的に限って、借金に紐づかないもう一つの入口を追加することを、以下では「入口の複線化」または「二つの入口の併存」と呼びます。
この役割分担が、本稿の基本構想です。

1-4. 公共通貨とは何か:借金に紐づかない制度的入口

本稿でいう公共通貨とは、一般政府、つまり国や地方自治体が、公共目的に限って、借金に紐づかない形でお金を社会に出すための、法律上の制度的入口を指します。
ここで重要なのは、公共通貨を単なる「財源」として見ないことです。

公共通貨とは、一般政府が公共目的を設定し、議会が承認し、中央銀行または独立機関が通貨価値と金融安定の観点から審査する。
そのうえで、発行・管理・停止までを制度として扱う入口です。

1-5. 統治構造:一般政府・議会・中央銀行の役割分担

国債に紐づかない入口を設ける場合、統治機能を分けて考える必要があります。

公共通貨の要点は、発行主体を増やすこと自体ではありません。
公共目的、議会承認、独立審査、会計分離、停止権限を組み合わせ、一般政府・議会・中央銀行または独立機関の三者で統治することです。

1-6. 本稿の立場:壊さないもの、問い直すもの、設計するもの

本稿は、現行制度が守ろうとしてきた防御線を踏まえたうえで、それでも残る「公共目的のお金の入口」の問題を考えます。

この表で示した通り、本稿の中心は、既存制度の破壊ではなく、入口の追加と統治条件の設計です。

1-7. この記事の進み方:ここから何を順に確認するのか

ここまで、本稿の基本的な問いと、公共通貨という追加的な入口の概要を整理しました。
ここからは、次の順番で確認していきます。

  1. まず、現行制度では公共目的のお金の入口がどのように用意されているのかを見る。

  2. 次に、一般政府に追加的な入口を認める場合に必要となる防御線を確認する。

  3. さらに、主たる通貨発行権を担う日本銀行の最終帰属を整理する。

  4. そのうえで、公共通貨を法律の内側に置く制度条件を考える。

第1部 公共通貨を考える前に、何を整理すべきか

1-8. 本稿が踏まえる制度原理

本稿では、次の制度原理を土台にします。

公共通貨を考えるとは、現行制度が守ろうとしてきたものを踏まえたうえで、それでもなお残る「公共目的のお金の入口」の問題を考えることです。

第2章 問題の切り分け:現行制度には、どのようなお金の入口があるのか

第1章では、公共目的のお金の入口を二つに分けて考える本稿の基本構想を整理しました。
ここからは、公共通貨を考える前提として、現行制度では公共目的のお金がどのような入口から用意されているのかを確認します。
第2章で確認したいことは、国債市場の役割を改めて詳しく説明することではありません。
焦点は、公共目的のお金の入口が、どのような性格を持つ入口に偏りやすいのかを整理することです。

2-1. 現行制度の入口:集め直す、配分を変える、借りる

国の支出は、予算と国会の議決に基づいて行われます。
まず基本にあるのは、税収です。すでに社会の中にあるお金を集め、それを公共目的に使う。これが財政の中心です。
しかし、公共目的の支出が税収だけで賄えない場合、現行制度にはいくつかの対応があります。

このように見ると、現行制度の入口は、大きく次のように整理できます。

  • 既存のお金を集め直す。

  • すでにある予算の配分を変える。

  • 限定的な収入を使う。

  • 将来の返済を約束して借りる。

ここで問題にしたいのは、公共支出そのものの価値ではありません。
問題は、公共目的のお金を用意する入口の性格です。
生活保障、防災、医療、教育、子育て、地域循環のような公共目的のお金であっても、税収で足りなければ、現行制度では国債による資金調達が中心的な入口になります。
国債を入口にするということは、将来の返済約束をつくり、国債利息を発生させ、国債保有者への所得移転を生むということです。

📌 小結論
現行制度には、公共目的のお金を用意する入口として、税収、増税、歳出組み替え、税外収入、国債があります。
しかし、それらの多くは、既存のお金を集め直す、配分を変える、限定的な収入を使う、または借金として調達する入口です。

🔍 次の問い

では、公共目的のお金を、税収として先に集めるのでもなく、国債として借りるのでもなく、法律の内側から社会に出す入口はあるのでしょうか。

2-2. 借金に紐づかない公共目的のお金の入口は、どこにあるのか

公共目的のお金を、税収として先に集めるのでもなく、国債として借りるのでもなく、公共目的に限って、法律の内側から社会に出す入口はあるのか。
この問いに対して、現行制度では、本格的な入口はほとんどありません。
政府貨幣や日銀納付金のように、国債とは異なる性格を持つ収入や制度は存在します。
しかし、それらは通常、生活保障、防災、医療、教育、子育て、地域循環のような公共目的のお金を、安定的・継続的に、借金に紐づかない形で社会に出す本格的な入口として設計されているわけではありません。
つまり、現行制度には、公共目的のお金を既存のお金の再配分として用意する入口や、国債によって借金として調達する入口はあります。
しかし、公共目的に限って、借金に紐づかない形でお金を社会に出す本格的な制度的入口は、ほとんどありません。
ここで必要なのは、国債市場の役割と、公共目的のお金の入口を分けて考えることです。
国債市場は、安全資産、基準金利、金融政策、年金・保険運用、財政運営を支える入口として機能しています。
その役割を前提にしたうえで、生活の土台に関わる一部の公共目的については、別の入口を検討できないか。
これが、本稿で公共通貨を考える理由です。

📌 小結論
現行制度には、公共目的のお金を既存のお金の再配分として用意する入口や、国債によって借金として調達する入口はあります。
しかし、生活の土台に関わる一部の公共目的について、借金に紐づかない本格的な制度的入口はほとんどありません。

🔍 次の問い
では、そのような入口を設けるなら、どのような制度条件を満たす必要があるのでしょうか。

2-3. 公共目的のお金の入口をどう分けるか

ここまでの整理を踏まえると、本稿の争点は明確です。
現行制度には、公共目的のお金を用意する入口として、税収、歳出組み替え、税外収入、国債があります。
それらは、大きく見ると、次の性格を持っています。

一方で、生活の土台に関わる一部の公共目的について、借金に紐づかない形でお金を社会に出す本格的な制度的入口は、現行制度ではほとんどありません。
だからこそ、本稿では、公共目的のお金の入口を次のように分けて考えます。

この整理の核心は、既存の入口を消すことではなく、役割を分けて併存させることです。

  • 税収として先に集める入口。

  • 国債として借りる入口。

  • そして、公共目的に限って、借金に紐づかない形で法律の内側に置く入口。

この三つをどう整理し、どこまで制度として併存させられるのか。
ここが、公共通貨を考えるうえでの本題です。
ただし、新しい入口を設けるなら、同時に次の問いに答えなければなりません。

この表は、公共通貨に反対するための表ではありません。
むしろ、公共通貨を制度として成立させるために、必ず解かなければならない問いの一覧です。

  • 誰が決めるのか。

  • 何の目的に限るのか。

  • どれだけ出せるのか。

  • 誰が止めるのか。

  • 誰が説明するのか。

これらの問いに答えられない入口は、公共通貨ではなく、単なる財政ファイナンスに近づきます。
逆に、これらの問いに制度として答えることができるなら、公共目的のお金の新しい入口を、法律の内側で検討する余地が生まれます。

📌 章の結論
現行制度には、公共目的のお金を既存のお金の再配分として用意する入口や、国債によって借金として調達する入口があります。
そのうえで、生活の土台に関わる一部の公共目的について、借金に紐づかない別の入口を検討するなら、誰が決め、何に限り、どれだけ出し、誰が止め、誰が説明するのかを制度として設計しなければなりません。

🔍 次章への視点
次章からは、この問いを順に確認していきます。
まず第3章では、現行制度が一般政府の自由な通貨発行をどのように防いでいるのかを確認します。

第3章 現行制度の防御線:一般政府の自由な通貨発行を何が防いでいるのか

第2章では、公共目的のお金の入口を二つに分けて併存させるためには、誰が決め、何に限り、どれだけ出し、誰が止め、誰が説明するのかを制度として設計する必要があることを確認しました。
次に確認すべきなのは、一般政府に追加的な入口を認める場合、現行制度がどのような防御線を置いているかです。
本章では、財政民主主義、財政法第5条、中央銀行独立性を確認します。

3-1. 国の財政処理は、なぜ国会の議決に基づかなければならないのか

予算は単なる収支表ではなく、国会の議決を通じて民主的正当性を与えられた統治プログラムでもあります。
同じように、公共通貨も単なる財源ではなく、議会承認、目的限定、透明性に裏付けられた統治プログラムの一部として扱う必要があります。
公共目的に限って新しいお金の入口を設けるなら、それは議会承認と透明性に裏付けられた統治プログラムとして扱う必要があります。

📌 小結論
公共目的のお金の使途は、民主的統制のもとに置く必要があります。

🔍 次の問い
では、政府が日本銀行を直接の資金源にすることは、どう抑えられているのでしょうか。

3-2. 政府が日本銀行を直接の財布にすることを、財政法第5条はなぜ原則禁止しているのか

財政法第5条が警戒しているのは、政府支出が中央銀行通貨の発行に直結し、財政規律が失われることです。
公共通貨を考える場合にも、この遮断線の趣旨を引き継ぎ、目的、上限、審査、会計、停止権限を法律の内側に置く必要があります。

📌 小結論
公共通貨には、財政法第5条が守ろうとしてきた財政節度と過剰発行防止の考え方を、別の形で組み込む必要があります。

🔍 次の問い
では、日本銀行自身の金融政策判断は、なぜ短期政治から離される必要があるのでしょうか。

3-3. 日本銀行の金融政策判断は、なぜ短期政治から独立していなければならないのか

中央銀行独立性は、短期的な政治都合から金融政策判断を切り離し、その判断過程を国民に明らかにするための考え方です。
公共目的のお金の入口を再設計する場合、中央銀行には、通貨価値と金融安定の観点から、発行余地や停止条件を審査する役割必要になります。

📌 小結論
現行制度は、財政は議会へ、金融政策判断は短期政治から独立へ、という二つの原理を持っています。

🔍 次の問い
では、公共通貨を考える場合、この現行制度の防御線をどう扱うべきでしょうか。

3-4. 公共通貨を考えるなら、現行制度の防御線をどう組み込むべきか

現行制度は、政府が自由にお金を作ることを認めていません。
財政は議会の統制に置かれ、日本銀行による国債引受は原則として禁止され、日本銀行の金融政策判断には自主性と透明性が求められています。

一般政府に公共目的限定の新しい入口を認めるなら、これらの防御線を壊すのではなく、制度条件として組み込む必要があります。

📌 章の結論
現行制度は、財政民主主義、財政法第5条、中央銀行独立性という防御線を持っています。
公共通貨を考える場合も、この防御線を前提に制度を組む必要があります。

🔍 次章への問い
では、その防御線を前提に、現在の主たる通貨発行権は、誰のものとして制度化されているのでしょうか。

第4章 主たる通貨発行権は、誰のものとして制度化されているのか

第3章では、公共通貨を考える場合に踏まえるべき現行制度の防御線を確認しました。
次に確認すべきなのは、主たる通貨発行権を担う日本銀行が、制度上、誰のものとして置かれているのかです。
ここで問いたいのは、日本銀行が民間に支配されているという話ではありません。
主たる通貨発行権という国家的権限について、そこから生じる利益、損失、リスク、責任が、最終的に誰に帰属するのか。
それが、国民に対して説明可能な制度構造になっているのか。
ここで日本銀行の資本関係を論じるのは、公共通貨そのものを日本銀行に発行させるためではありません。
入口の複線化を考えるなら、まず主たる入口である日本銀行の権限・利益・損失・責任の帰属を、制度全体の前提として確認しておく必要があるからです。
すなわち、日本銀行が担う通貨発行権について、権限、利益、リスク、責任の最終帰属がどこにあるのかを整理する必要があります。

4-1. 日本銀行が担う通貨発行権は、なぜ単なる資金調達ではなく国家的権限なのか

通貨発行は、単なる資金調達ではありません。
物価、購買力、資産価格、所得分配、金融市場に影響を与える国家的権限です。

📌 小結論
日本銀行が担う通貨発行権は、利益だけでなく、損失、リスク、責任を伴う国家的権限です。

🔍 次の問い
では、その日本銀行は、どのような資本関係と権限制限のもとに置かれているのでしょうか。

4-2. 日本銀行の現行制度では、出資者の経営参加権はどこまで制限されているのか

日本銀行の出資制度は、通常の株式会社における株主制度とは異なります。
出資者には経営参加権が認められておらず、配当にも制限があります。

📌 小結論
日本銀行の現行制度では、出資者の権限は大きく制限されています。
問題は、民間支配ではなく、通貨発行権の最終的な帰属が制度上どこまで明確化されているかです。

🔍 次の問い
では、出資者権限が制限されているにもかかわらず、なぜ日本銀行が国家100%資本ではないことが制度上の論点になるのでしょうか。

4-3. 現行制度は、通貨発行権の公共性をどのように運用でカバーしているのか

日本銀行は、現行制度上、国家100%資本ではありません。
出資者権限は制限され、配当も制限され、利益の大部分は国庫納付金として政府に戻ります。
現行制度は、複数の制度装置によって公共性を実務上支えています。
この点を、法律・学説上の考え方、現行制度の状態、現行制度が置いているカバーという観点から整理すると、次のようになります。

現行制度は、財政法第5条、中央銀行独立性、出資者権限の制限、国庫納付金といった制度装置によって、公共性を支えています。
ただし、公共通貨の入口を一般政府に認めるなら、入口の複線化を伴います。
その場合、主たる通貨発行機関である日本銀行についても、利益、損失、リスク、責任の最終帰属を、国民に対して説明可能な形で整理しておくことが、制度整合性の観点から望ましいと考えます。
その一つの制度案が、日本銀行の国家100%資本化です。

📌 小結論
現行制度は、出資者権限の制限、国庫納付金、中央銀行独立性、財政法第5条によって、通貨発行権の公共性を実務上カバーしています。

しかし、公共通貨の入口を一般政府に認めるなら、制度整合性の観点から、主たる通貨発行機関である日本銀行の最終帰属についても、整理しておくことが望ましいと考えます。

4-4. 国家100%資本化は、どこまで必要条件なのか

ここで、想定される批判や疑問を先に整理しておきます。
日本銀行の国家100%資本化は、公共通貨を制度化するための絶対条件ではありません。
しかし、公共通貨によって入口の複線化を考えるなら、主たる通貨発行機関の最終帰属についても、国民に対して説明可能な形で整理しておくことが、制度整合性の観点から望ましいと考えます。
その観点から、本稿では次のように整理します。

したがって、本稿の立場は、国家100%資本化を唯一の答えとして提示することではありません。
むしろ、国庫納付や出資者権限の制限だけでは、通貨発行権の利益・損失・リスク・責任の最終帰属を十分に説明しきれないという点を確認することにあります。
国家100%資本化は、その最終帰属を明確にする有力な制度案として位置づけられます。

📌 章の結論
日本銀行の国家100%資本化は、公共通貨を制度化するための論理的な絶対条件ではありません。
しかし、公共通貨によって入口の複線化を考えるなら、主たる通貨発行機関である日本銀行の最終帰属についても、国民に対して説明可能な形で整理しておくことが、制度整合性の観点から望ましいと考えます。

国庫納付は利益の還流として重要ですが、権限、損失、リスク、責任の最終帰属を制度構造として完全に明確化するものではありません。

出資者権限が制限されている以上、問題は民間支配ではなく、主たる通貨発行権の公共的帰属をどこまで制度として明瞭にするかです。

その意味で、国家100%資本化は、必要条件というより、制度整合性と説明可能性を高める有力な選択肢として位置づけるべきです。

🔍 次の問い
では、日本銀行の最終帰属を明確化するとして、中央銀行独立性はどう守るのでしょうか。

第5章 独立性との両立:日本銀行の最終帰属を明確化しても、中央銀行独立性をどう守るのか

第4章では、日本銀行の最終帰属を、国民に対して説明可能な形で明確化することが、制度整合性と説明可能性を高める有力な選択肢であると整理しました。
ここで重要なのは、主たる通貨発行機関について、利益、損失、リスク、責任の最終帰属を、国民に対して説明可能な制度構造にすることです。
それは一般政府が日本銀行を自由に使えるようにすることとは違います。
この章では、日本銀行の最終帰属と政府支配を切り分けるために、所有、判断、人事、会計を分けて考えます。

5-1. 所有・判断・人事・会計を分けて考える

日本銀行の最終帰属を明確化することと、金融政策判断を一般政府に従属させることは同じではありません。

  • 所有は国民・公共へ。

  • 判断は独立へ。

  • 人事は制度的に距離を置く。

  • 会計は透明にする。

この分離が、最終帰属の明確化と中央銀行独立性を両立させるための基本線です。

5-2. 国家100%資本化は、中央銀行独立性とどう両立するのか

国家100%資本化は、主たる通貨発行権の最終帰属を明確化しつつ、判断、人事、会計の独立性と透明性を制度化することです。

📌 小結論
日本銀行の最終帰属の明確化と中央銀行独立性は、所有・判断・人事・会計を分けることで両立できます。

🔍 次の問い
では、その前提のうえで、公共通貨をどのように法律の内側に置くのでしょうか。

第6章 公共通貨をどう制度化するか:公共目的限定の入口を法律の内側に置く

第5章では、主たる通貨発行機関の最終帰属と中央銀行独立性を両立させる考え方を整理しました。
ここからは、公共通貨そのものの制度設計に進みます。
公共通貨は、公共目的に限って、借金に紐づかないお金の入口を法律の内側に置く構想です。
そのためには、目的、主体、上限、会計、審査、停止権限をあらかじめ制度化する必要があります。

6-1. 公共通貨の対象をどこまで限定するか

公共通貨の対象は、公共目的の中でも、生活の土台に関わる領域に限定する必要があります。
ここで重要なのは、対象を広げすぎないことです。
すべての政策支出を公共通貨で賄うのではなく、社会の基礎条件に関わる支出に限定する。
この限定が、公共通貨を制度として成立させるための第一条件です。

6-2. 国と地方の一般政府に、どのような入口を認めるのか

公共通貨は、国だけで完結する構想ではありません。
生活の土台は、地域ごとに異なります。
そのため、国の入口と地方の入口を分け、必要に応じて広域調整の仕組みを組み合わせる必要があります。
これは、後に本連載で展開していく 多段階ベーシックインカム(Multi-layered Basic Income:MBI) につながる論点です。
MBIとは、単なる給付制度ではなく、地域・国家・広域調整という複数の層に公共目的のお金の入口を設け、生活の土台を支える通貨制度として再設計する構想です。
ここでは、その前提として、公共目的のお金の入口をどのように法律の内側に置くかを考えます。

6-3. 法律の内側に置くための制度条件

公共通貨を法律の内側に置くには、次の条件が必要です。

公共通貨は、公共目的のお金の入口を増やすだけでは成立しません。
入口を増やすなら、同時に止める仕組み、縮小する仕組み、説明する仕組みを持たなければなりません。

📌 章の結論
公共通貨は、公共目的に限った入口を法律の内側に置く構想です。
その入口には、目的限定、議会承認、独立審査、発行上限、会計分離、停止・回収権限が必要です。

🔍 次章への問い
では、この入口が財政ファイナンス化しないためには、どのような内在的規律が必要なのでしょうか。

第7章 暴走防止の規律:公共通貨を財政ファイナンス化させないために

第6章では、公共通貨を法律の内側に置くための制度条件を整理しました。
次に必要なのは、その入口が際限なく広がらないための内在的規律です。
国債市場には、市場金利、償還負担、投資家評価といった外在的な規律があります。
公共通貨は、国債とは別の入口である以上、別の形の規律を必要とします。

7-1. 公共通貨に必要な内在的規律

とくに重要なのが、供給力の範囲を超えないという規律です。
その中心になるのが、停止条件を誰が、どの基準で判断するかという問題です。

公共通貨は、財政規律を不要にする制度ではありません。
国債市場による外在的な規律とは別に、法律、会計、審査、停止権限による内在的な規律を必要とします。

7-2. 中央銀行または独立機関の役割

公共通貨における中央銀行または独立機関の役割は、一般政府の判断を追認することではありません。

停止条件の判断は以下に詳細を記載します。

中央銀行または独立機関は、公共通貨のブレーキとして機能します。
その役割は、通貨価値と金融安定を守ることです。

7-3. 公共通貨と財政ファイナンスの境界線

公共通貨が財政ファイナンス化するかどうかは、次の境界線で決まります。

これらがなければ、公共通貨は単なる財政ファイナンスに近づきます。
逆に、これらが法律上明確に制度化されていれば、公共通貨は「政府が自由にお金を作る制度」ではなく、公共目的限定の統治された入口として位置づけられます。

📌 章の結論
公共通貨は、国債市場による外在的規律とは別に、目的限定、議会承認、独立審査、発行上限、会計分離、停止・回収権限という内在的規律を必要とします。

🔍 次章への問い
では、公共通貨とは何か。
そして、それはMBIとどのように接続するのでしょうか。

第8章 結論:公共通貨とは、公共目的のお金の入口を多層化するための制度である

ここまで見てきたように、公共通貨とは、公共目的のお金を国債と利息だけに依存させないための制度的入口です。
現行制度には、税収として先に集める入口があります。
また、国債として借りる入口があります。
しかし、生活の土台に関わる一部の公共目的について、税収として先に集めるのでも、国債として借りるのでもない、借金に紐づかない入口を法律の内側に置けないか。
これが、本稿で考えてきた公共通貨の核心です。

8-1. 公共通貨の定義

公共通貨とは、一般政府が公共目的に限って、借金に紐づかない形でお金を社会に出すための、法律上の制度的入口です。
ただし、それは、公共目的、議会承認、独立審査、発行上限、会計分離、停止・回収権限を備えた入口です。
短く言えば、こう整理できます。

公共通貨とは、公共目的のお金を、国債と利息だけに依存させないための制度的入口である。

8-2. MBIとの接続

本連載で今後提唱する多段階ベーシックインカム(MBI、Multi-layered Basic Income) は、この公共通貨の入口を、地域・国家・広域調整へと多層化する構想です。

MBIは、単に毎月一定額を配る制度ではありません。
公共目的のお金の入口を多層化し、生活の床を支える通貨制度として再設計する構想です。

8-3. 最終結論

今回見てきた制度再設計は、今後このnoteで展開していく多段階ベーシックインカム、つまりMBIの前提になります。

  • 公共通貨とは、公共目的のお金を、国債と利息だけに依存させないための制度的入口である。

  • MBIとは、その入口を地域・国家・広域調整へと多層化し、生活の床を支える通貨制度として再設計する構想である。

公共目的のお金の入口を、税収か国債だけに閉じるのではなく、法律の内側で、民主的に、独立審査を伴って、必要な範囲で併存させる。
そこに、公共通貨の意味があります。

【本稿の制度設計が実務上もたらす調和(補足)】
最後に、本稿が提案する「入口の複線化」が、既存の国債市場における長期金利の形成を歪めないための金融実務上の調和について付記します。

公共通貨の発行による国債発行残高の相対的な変化は、中央銀行の伝統的な公開市場操作(買いオペ・売りオペ等)の対象に公共通貨建ての決済基盤を含めることで吸収されます。
一般政府が生活の土台に流す公共通貨の流通速度と総量を、中央銀行がマクロなマネタリーベースの調節メカニズムと100%シンクロ(統合)させることにより、市場における金利形成の羅針盤を狂わせないように設計する必要があります。

すなわち、本稿のガバナンスは、マクロ経済の「アクセル」と「ブレーキ」を分離するだけでなく、既存の「金融政策」と新設される「通貨制度」を法律の内側で高度に調和させるシステムデザインなのです。

参考補足:この議論が接続する世界的な論点

公共通貨は、中央銀行デジタル通貨、いわゆるCBDCとは別の制度構想です。
ただし、どちらも「公的なお金を、誰が管理し、どの範囲で使えるようにし、民間金融システムや金融政策とどう整合させるのか」という統治の問いに関わっています。

また、MIT Digital Currency Initiative や各国中央銀行が進めるデジタル通貨・決済基盤の研究は、将来の公的マネーを、どのような技術的・制度的条件のもとで設計するかという問題を扱っています。

公共通貨で重要なのは、発行条件、発行上限、会計分離、停止、回収といった統治条件を、法律と制度の内側にあらかじめ組み込むことです。
その意味で、公共通貨は、未来のデジタル通貨インフラをめぐる プログラマブルな通貨統治 の問題圏にあります。

さらに、この構想は、貨幣を単なる市場の交換手段ではなく、法律によって構成される統治制度として捉える “Law and Money” の潮流とも接続します。

公共通貨とは、単なる財源ではありません。
公共目的のお金を、誰が、どの条件で、どの範囲まで、どのように社会へ出すのかを、法律・議会承認・独立審査・会計分離・停止権限の内側に置くための制度設計です。

短く言えば、公共通貨は、CBDC、デジタル決済基盤、貨幣法学がそれぞれ問うている 「公的なお金をどう統治するか」 という世界的な論点と深くつながっています。

参考文献・参照資料

・日本国憲法 第83条、第84条、第85条、第86条
・財政法 第5条
・日本銀行法 第3条、第4条、第5条、第8条
・芦部信喜『憲法』岩波書店
・高橋和之『立憲主義と日本国憲法』有斐閣
・佐藤幸治『日本国憲法論』成文堂
・長谷部恭男『憲法』新世社
・櫻井敬子「予算制度の法的考察」
・櫻井敬子『財政の法学的研究』有斐閣
・小栗誠治「日本銀行の独立性再考」
・日本銀行「日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?」
・日本銀行「日本銀行の独立性とは何ですか?」
・日本銀行「日本銀行の『独立性』と『透明性』――新日本銀行法の概要」
・翁邦雄『日本銀行』ちくま新書
・白川方明『中央銀行』東洋経済新報社
・Bank of England, “Money creation in the modern economy”, Quarterly Bulletin 2014 Q1.
・Adair Turner, Between Debt and the Devil: Money, Credit, and Fixing Global Finance, Princeton University Press, 2015.
・Wynne Godley and Marc Lavoie, Monetary Economics: An Integrated Approach to Credit, Money, Income, Production and Wealth, Palgrave Macmillan.
・Philippe Van Parijs and Yannick Vanderborght, Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy, Harvard University Press.
・Guy Standing, Basic Income: And How We Can Make It Happen, Penguin.
・Bernard Lietaer, The Future of Money.


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