【とんま村の物語】🌻第16話:解説「地域通貨型ベーシックインカムは、どうすれば回り続けるのかー地域で使い、円が必要な支払いへつなぐ仕組みー」
🍃物語本文
第16話:安心のぷるり~ん、挑戦のチャ~リン~二つのお金の役割と、アリクイ総裁の新しい役目~
はじめに

前回の解説記事は、地域で安心して暮らすためのお金を、
ベーシックインカムとして、すべての個人へ毎月届ける構想を示しました。
たとえば、北海道であれば、毎月10万ドサンコ。
個人が日々の暮らしに使い、地域事業者が受け取り、次の仕入れや支払いへ回す。
円で営んでいる今の経済に、地域で回る新しい循環を重ねる。
負債に紐づくお金だけに生存を委ねず、地域の中に「生活の床」をつくる仕組みです。
ただし、地域通貨としてベーシックインカムを届けるだけでは、仕組みは完成しません。
給与、税、社会保険料、地域外からの仕入れなど、円で支払う必要がある取引は残ります。
さらに、地方で生まれた円建ての売上や利益は、本社の集中決済や金融市場の構造によって、都市部へ流れやすい。
地域の中に生活の床をつくること。
地域間で偏る円の流れを整えること。
この二つは、セットで考える必要があります。
多段階ベーシックインカム(MBI)は、既存の円と併存しながら、地域、国内、国家間という異なる階層で、お金の循環と偏在を整える構想です。

その中で、個人へ毎月届き、地域の暮らしと仕事を支える地域通貨が、地域循環層(L1)。
国内で偏る円の流れを、地域間で調整する仕組みが、円の地域間調整層(L2)です。

さらに上には、国家間の偏りを整える層(L3)があります。
今回は、この全体構造のうち、日本国内の仕組みに焦点を当てます。
L1で、足元の暮らしと仕事を支える。
L2で、地域間の円の偏りをならす。
そのうえで、地域通貨を実際に回すための条件、円への接続、地域金融機関の役割、中央銀行と一般政府による全体調整を順番に見ていきます。
生活の床を、負債に紐づくお金だけに背負わせない。
そのとき、円、融資、税、国債、財政、金融政策、資本市場の役割は、どのように置き直されるのか。
以下の地図に沿って、具体的に確認していきます。
※このnoteでは、円、地域通貨、民間銀行の信用創造によって供給される購買力の総体を、便宜上「総基礎流動性」と呼びます。

今回の記事の地図
・本稿では、地域循環層(L1)と円の地域間調整層(L2)の導入によって、社会がどう変わるのかを以下の地図に沿って具体的に検証する。

第1章 地域循環層(L1)と円の調整層(L2)の構造対比

1-1. 地域通貨を動かすプレーヤー
・地域通貨の仕組みを安定して動かすためには、複数の主体が連携し、それぞれの階層で役割を果たす必要があります。

ポイント
・広域公共主体は地域ごとの具体的な運営条件を、中央銀行は国全体の基礎流動性に対する供給条件を決め、異なる階層で接続します。
1-2. 既存システムの再位置づけ
・生活のための地域通貨が加わることで、既存のお金の仕組みもその役割を大きく変えることになります。

ポイント
・地域通貨は、食費、日用品、交通、医療、ケアなど、暮らしを続けるために必要なお金として、すべての個人へ毎月届ける。
・円、民間銀行の融資、国債、税、財政支出、金融政策、資本市場は、それぞれの役割を引き続き担う。
・暮らしに必要な購買力まで、融資や国債など負債に紐づくお金だけに依存させない。地域通貨を加えることで、暮らしを支えるお金と、投資・挑戦・景気調整を担うお金の役割を分ける。
桃の介:
地域通貨が増えたら、私たちが普段使っている円や民間銀行からの融資は、もう使わなくなってしまうのですか?
ゆん吉:
円も融資も引き続き使うよ。役割をきれいに分けることで、円や融資という仕組み自体も、投資や挑戦を支えるという本来の役割に純化できるんだ。
次章へ
・プレイヤーと既存システムの新しい位置づけを確認しました。
・次章では、最も基礎となる地域循環層(L1)において、実際に地域通貨をどのように使い、地域の中で回し続けていくのか、ミクロな循環の条件を見ていきます。
第2章 地域通貨(L1)の流通管理

2-1. 地域の暮らしと仕事に使える利用範囲を置く
・個人向けの決済(B to C)と地域事業者間の決済(B to B)を一つの利用網としてつなぐことで、地域通貨を地域内で回り続けさせます。

桃の介:
利用できる先が広がるほど、個人としては日々の生活で使いやすくなりますね。配置換えでも、なぜ店舗だけでなく、事業者同士の仕入れや業務委託まで利用範囲を広げる必要があるのですか?
ゆん吉:
店が受け取った地域通貨を、次の支払いへ回しやすくするためだよ。
個人向け決済と事業者間決済を一つの網でつなぐからこそ、円に換えなくてもお金が地域を回り続けるんだ。
2-2. 個人残高と事業者残高に、異なる時間軸を置く
・地域通貨は貯蓄ではなく流通のためのお金であり、利用されずに眠ることを防ぐ一定の時限性を置きます。
・ただし、個人と地域事業者では使う目的も必要となる時間軸も異なります。

桃の介:
地域通貨に有効期限(時限性)を設ける理由は分かります。
でも、期限があると、受け取る側の地域事業者が「使い切れなかったら損をしてしまう」と困りませんか?
ゆん吉:
だから、残高の性質に合わせて時間軸を分けるんだ。
個人と店で一律に同じ期限を当てるのではなく、店には次の仕入れや精算へ回せるだけの十分な期間を確保する。
これが店が安心して受け取るための条件だよ。
2-3. 使われなかった価値を、公共へ戻す
・一定期間を過ぎても使われなかった地域通貨は、失効、段階的な減価、公共還流を組み合わせて処理し、他の財政と混ざらないよう会計上切り分けます。

桃の介:
発行益、換金調整分、失効に伴う効果を、公共へ戻すのはなぜですか?
ゆん吉:
使われなかった価値を眠らせず、次の給付や、地域の交通、物流、介護などへ戻すためだよ。
税収や国債とは別に、地域の中で循環する新しい還流の入口をつくるんだ。これによって、既存の仕組みが抱えている「円」の地域間格差を平準化するための、国全体の調整レイヤー(L2)へも原資が接続されることになる。
桃の介:
なるほど。表にある「換金調整分」ということは、地域事業者が地域通貨を円に換えるときには、一定のルールや調整が入るということですか?
ゆん吉:
その通り。
受け取った地域通貨がすべて右から左へ円に換金されてしまったら、地域の中で回る循環そのものが育たなくなってしまうからね。
事業者の安心のために円への出口は用意しつつも、地域で回す分と円へ換える分をどう分けるか、という「換金条件」の設計がとても重要になってくるんだ。
次章へ
・暮らしと仕事の双方に使える利用範囲、異なる時間軸、使われなかった価値や換金調整分を公共へ戻す仕組みが不可欠です。
・次章では、地域金融機関などの運営主体が、この地域通貨を円が必要な支払いへどのように滑らかに接続し(条件付き換金)、利用実績をどう把握していくのかを見ていきます。
第3章 地域通貨(L1)と円の換金性

3-1. 地域で回す支払いと、円へつなぐ支払いを分ける
・すべてを受け取った直後に円へ換えてしまっては地域内循環は育たないが、円への接続通路が狭すぎると事業者は資金繰りに窮することになります。
・そのため支払いの性質に応じた「条件付き換金」ルールを置く必要があります。

桃の介:
地域で回せるものは地域通貨のまま払い、どうしても円が必要なものは、ルールを設けて円へ換金できるように、あらかじめルートを分けておくのですね。
ゆん吉:
そう。何でもかんでも等価で円に換えられたら地域通貨の意味がないけれど、全く円に換えられないとなったら店が潰れてしまうからね。
この出し入れを、地元の金融機関の仕組みを使ってきれいにコントロールするんだ。
3-2. 給与原資を、円へ滑らかにつなぐ
・地域事業者には、地域通貨だけでは支払えない経費があります。
・その中でも、特に重要なのが給与です。
・給与は、これまで通り円で支払います。
・そこで、地域事業者が売上として受け取った地域通貨のうち、給与支払いに必要な分だけを、自動的に円へ換える仕組みを置きます。
・地域金融機関が持つ既存の給与振込データと連動させれば、事業者が毎月手作業で換金申請を行う必要はありません。

桃の介:
これなら、お店側は「売上が地域通貨ばかりになったら、従業員に給料が払えなくなるのでは」という心配をしなくて済みますね。
ゆん吉:
そう、給与振込データと連携して、必要な分だけを銀行のシステムが自動で円に換えてくれるからね。
店側の手作業の手間も一切ない。
従業員も従来通り円で確実に給与を受け取れるし、地域内で回す分と円へつなぐ分が、地域金融機関の既存インフラの裏側できれいに切り分けられるんだ。
桃の介:
でも、売上が「円」と「地域通貨」に分かれて、さらに期限の管理や換金のルールまで加わったら、お店の毎日の経理や会計処理がものすごく複雑になってしまいませんか?
ゆん吉:
店側の実務負担を増やさないことが重要だ。給与振込データ、POS、会計ソフトと連携し、換金や期限管理をできる限り自動化する。
具体的な実装条件は、次回、詳しく見るよ。
3-3. 地域通貨の使われ方を把握する
地域通貨は、配って終わりではありません。
・実際に生活のためのお金として使われているか。
・地域の中で、次の取引へ回っているか。
・円への換金が、必要な範囲に収まっているか。
日々の利用実績を確認しながら、より使いやすく、より循環する仕組みへ見直していく必要があります。

地域金融機関と決済事業者・IT事業者は、日々の決済、事業者間取引、円への換金実績を通じて、お金の流れを把握します。
数字だけでは捉えきれない地域課題は、広域公共主体が、現場の関係主体と連携しながら確認します。
次章へ
・地域金融機関などの運営主体が、地域通貨と円を接続し、日々の利用実績を蓄積していきます。
・次章では、その情報をもとに、広域公共主体、中央銀行、一般政府が、どのように全体のバランスを調整するのかを見ていきます。
第4章 マクロガバナンスの統括

4-1. 中央銀行が、国全体のお金の供給条件を決める
地域通貨は、広域圏ごとに発行されます。
ただし、それぞれの地域が、地域の事情だけを見て発行量を決めればよいわけではありません。
地域通貨が増えすぎれば、地域の供給力を超えて購買力が増え、物価が上がります。
円への換金が急増すれば、円側の金融システムにも負荷がかかります。
だから、地域通貨の運営には、二つの視点が必要です。
一つは、地域ごとの視点です。
どれだけ使われたか。どれだけ滞留したか。物価や供給力に無理が出ていないか。
これは、広域公共主体が中心となって見ます。
もう一つは、国全体の視点です。
円、地域通貨、民間銀行の信用創造によって生まれる購買力を合わせたとき、国全体で多すぎないか。不足していないか。
これは、中央銀行が見る領域です。
ここでは、この全体を、便宜上「総基礎流動性」と呼びます。
広域公共主体は、各地域の運営条件を決める。
中央銀行は、国全体のお金の供給条件を決める。
この役割分担によって、地域ごとの柔軟な運営と、国全体の安定を両立させます。

桃の介:
広域公共主体と中央銀行は、どちらも地域通貨の量に関わりますが、役割は衝突しませんか?
ゆん吉:
見る範囲が違うんだ。広域公共主体は、地域の利用実績や物価、供給力を見て、具体的な運営条件を決める。中央銀行は、円、地域通貨、融資を合わせた国全体の量を見ながら、全体のブレーキとアクセルを管理するんだよ。
桃の介:
地域と国全体で、二つの階層から調整するんですね。
ゆん吉:
そう。地域の事情に合わせながら、国全体では購買力が供給力を超えないようにする。その二階建ての管理が必要なんだ。
ただし、国全体のお金の量を見るだけでは、まだ足りません。
円は、地域ごとに均等に流れているわけではありません。
地方で生まれた円建ての売上や利益が、本社の集中決済や金融市場の構造を通じて、大都市へ偏ることがあります。
そこで次に必要になるのが、円の地域間調整層(L2)です。
L2は、現行の円の地域間の偏りをならし、地域通貨による生活の床が持続するための土台を支える仕組みです。
4-2. 広域公共主体が、地域ごとの具体的な運営条件を決める
広域公共主体は、地域金融機関、決済事業者、IT事業者から連携される利用実績を見ながら、地域通貨の運営条件を見直します。

地域通貨は、一度設計して終わりではありません。
利用実績を確認しながら、より使いやすく、より循環する仕組みへ育てていきます。
地域通貨の公共性を守る共通ルールを置く
地域ごとに柔軟に運営する一方で、地域通貨が公共のお金であることを守る共通ルールも必要です。

桃の介:
毎月生活できるだけの地域通貨が届いたら、農業、介護、物流などの仕事をする人がいなくなりませんか?
ゆん吉:
過酷な条件のままでは、人が集まりにくくなるだろうね。だからこそ、社会に欠かせない仕事ほど、賃金や働き方を見直す必要が出てくる。生存の不安だけで働かせるのではなく、必要な仕事に、正当な対価と環境を整える社会へ変えていくんだ。
4-3. 税、国債、財政、民間融資、円、資本市場の役割を置き直す
生活の床を支える地域通貨が加わることで、既存のお金の仕組みは不要になるわけではありません。
それぞれが、より適した役割を担えるようになります。

地域通貨は、経済の床。
円、融資、税、国債、財政、金融政策、資本市場は、経済全体を動かし、調整するための仕組みです。
生活の床まで、負債に紐づくお金だけに背負わせない。
それぞれが担う役割を、分けて考えます。
おわりに
地域で安心して暮らすためのお金を、ベーシックインカムとして、すべての個人へ毎月届ける。
個人が使う。
地域事業者が受け取り、地域内の次の取引へ回す。
円が必要な支払いには、地域金融機関が必要な分だけを接続する。
広域公共主体は、地域ごとの具体的な運営条件を決める。
中央銀行は、円、地域通貨、民間信用創造を含む総基礎流動性を見ながら、国全体の供給条件を決める。
地域通貨は、経済の床。
負債に紐づくお金は、経済のハンドル。
生活の床を、借金に紐づくお金だけに背負わせない。
安心して暮らせることが、人間の自由な選択を支える。
働く。
休む。
学び直す。
家族との時間を持つ。
小さな挑戦を始める。
競争が、生存のための義務から、人生の選択肢へ変わる。
次回は、この仕組みを現実の社会に置けるのかを確かめます。
技術。
法制度。
地域通貨を、構想から実装へ進めるための条件を見ていきます。
参考文献
1. ベーシックインカム・所得保障
Basic Income Earth Network(BIEN) “About Basic Income”
Philippe Van Parijs and Yannick Vanderborght, Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy, Harvard University Press, 2017.
Guy Standing, Basic Income: And How We Can Make It Happen, Pelican, 2017.
Annie Lowrey, Give People Money: How a Universal Basic Income Would End Poverty, Revolutionize Work, and Remake the World, Crown, 2018.
2. 地域通貨・コミュニティ通貨
Silvio Gesell, The Natural Economic Order, 1916.
Bernard Lietaer, The Future of Money, Century, 2001.
Jérôme Blanc, “Community and Complementary Currencies,” in various writings on monetary plurality and local exchange systems.
Carolina E. S. Mattsson, Teodoro Criscione and Frank W. Takes, “Circulation of a Digital Community Currency,” 2022.
山静怡・小野浩幸・高澤由美「地域経済活性化を目的とする電子地域通貨の普及に関する研究」
春日部市・かすかべ未来研究所『デジタル地域通貨の活用に関する調査研究』
3. 地域経済循環・地域内再投資
岡田知弘「地域経済の『活性化』と地域内再投資力・地域内経済循環」
中村良平「地域における循環型経済と地域経済構造分析」
経済産業省・内閣官房「地域経済分析システム(RESAS)」
環境省「地域経済循環分析」
地域経済循環分析自動作成ツール関連資料
4. 決済システム・ステーブルコイン・デジタル通貨
資金決済に関する法律
金融庁「電子決済手段等取引業・ステーブルコイン関連制度」関連資料
日本銀行「中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する取り組み」
日本銀行「決済システムレポート」
Bank for International Settlements, papers on CBDC, stablecoins, tokenised deposits and payment systems.
5. 中央銀行・金融政策・金融システム安定
日本銀行「金融政策の概要」
日本銀行「物価安定の目標」
日本銀行「日本銀行の目的」
日本銀行法
Bank for International Settlements, Central Bank Digital Currencies: Foundational Principles and Core Features, 2020.
International Monetary Fund, materials on monetary policy, financial stability and public debt management.
6. 財政法・国債・中央銀行による国債引受
財政法
財務省「財政法関係法令」
日本銀行「日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?」
日本銀行「日本銀行の対政府取引について」
財務省『債務管理リポート』
参議院「財政法第五条及び日本銀行法に関する質問に対する答弁書」
7. 地域間・国家間の決済インバランス
European Central Bank, “TARGET balances”
European Central Bank, “TARGET balances and monetary policy operations,” Monthly Bulletin, 2013.
Keynes, J. M., “Proposals for an International Clearing Union,” 1943.
Robert Triffin, Gold and the Dollar Crisis, Yale University Press, 1960.
Barry Eichengreen, Globalizing Capital: A History of the International Monetary System, Princeton University Press.
