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月10万円のベーシックインカムを、地域通貨で実現できるのか―円、複数の地域通貨、信用創造をつなぎ、段階導入を検証する30年シナリオ・シミュレーション

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月10万円相当のベーシックインカムを、地域通貨で毎月届けられるのか―30年間のシミュレーションで見えたこと

要旨

このnoteでは、これまで、多段階ベーシックインカム(Multi-layered Basic Income、MBI)という構想を提案してきた。

MBIは、生活の土台を支えるお金を、一つの給付制度だけで考えるものではない。
個人へ毎月届ける複数の地域通貨(L1)
地域間の円の不均衡を均す層(L2)
国家間の不均衡を均す層(L3)
を組み合わせ、三つの層で設計する。

このうち、個人へ毎月届けるベーシックインカムを担うのは、複数の地域通貨(L1)である。地域間の円の不均衡を均す層(L2)と、国家間の不均衡を均す層(L3)は、個人へお金を配る仕組みではなく、その持続性を支える調整層として置く。

今回の論考では、この三層構造のうち、複数の地域通貨(L1)を中心に扱う。

現行の円を日本全体の共通通貨として残したまま、全国を9つ程度の広域圏に分け、それぞれの地域に、その地域の中で幅広く使える地域通貨を置く。各地域の住民には、居住する地域の地域通貨を、ベーシックインカムとして毎月届ける。

たとえば、北海道に住む人には北海道の地域通貨「ドサンコ」、北陸に住む人には北陸の地域通貨「ホクリ」、関西に住む人には関西の地域通貨「オオキニ」を届ける。名称は例示である。

重要なのは、全国共通の新しい通貨を一律に配ることではない。地域ごとに異なる地域通貨を、それぞれの地域の住民へ毎月届け、その地域内の暮らしと仕事の中で循環させることである。

地域外仕入れ、輸入、円建て支払い等に必要な部分だけは、現行の円へ換える。地域ごとに生じる円需要の偏りは、地域間の円の不均衡を均す層(L2)で調整する。国家間の不均衡を均す層(L3)は、MBIの三層構造の全体像を構成するが、今回の30年間のシナリオ・シミュレーションでは直接の検証対象としない。

今回の論考では、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を毎月届ける構想が、現実の制度設計として検討対象に置けるかを、30年間のシナリオ・シミュレーションで確認する。


要旨①:最終的に、誰へ、いくら相当の地域通貨を届けるのか

生活の土台を支える最終的な給付水準として、次の金額相当の地域通貨を仮に置く。

月10万円相当の地域通貨は、生活費の全額を賄う水準ではない。
最低生活費の厳密な推計値でもない。
食料、日用品、交通、光熱費、子どもの生活費、地域サービス等を継続的に下支えし、生活者が既存の円収入だけに全面的に依存しなくてもよい状態を、一定程度つくるための水準である。
同時に、制度全体が持続できるかを確かめる、最終的な検証水準でもある。


要旨②:実現に向けた、30年間のロードマップ

全国規模の制度を、最初から最終形で導入するわけではない。
複数の地域通貨によるベーシックインカムは、地域内循環、円への換金、地域間清算、供給力への影響を確認しながら、段階的に広げる。
成人・現役層へ毎月届ける地域通貨は、月1万円相当から始める。
子どもと高齢者へ毎月届ける地域通貨は、各段階で、成人・現役層へ届ける地域通貨の半額とする。
その後、限定的な試行や、各段階の導入後に得られる観測データを確認し、最終的に、2056年に成人・現役層で月10万円相当、子どもと高齢者で月5万円相当へ到達する。
この論考では、その実現に向けた30年間のロードマップを、シナリオ・シミュレーションとして置く。


要旨③:結論

CASE① 基準では、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を毎月届ける構想について、暫定仮定のもとで、財政フローと通貨フローが長期にわたって持続する可能性を確認できる。

現行の円と、各地域通貨の価値維持についても、事前判定に用いた一次的な指標は想定範囲に収まる。

ただし、実際に価値を維持できるかは、限定的な試行と段階導入を通じて、物価、供給制約、円への換金需要、価格差、受取拒否等の実績データを確認しながら判断する。

少なくとも今回のシナリオ・シミュレーション上、この構想は、規模だけを理由に排除されるものではない。

理念にとどめず、現実の制度設計として具体的に検討できる。

<シミュレーション結果>

2056年に、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨まで広げた場合、CASE① 基準では、次の形になる。

個人へ届ける地域通貨の総額は、約91.4兆円相当になる。
ただし、約91.4兆円相当を、毎年新たに追加発行するわけではない。
税、公共料金等の支払いを通じて専用会計へ移り、再利用対象として管理する地域通貨は、翌期の給付等に再利用する。
そのため、新たに追加発行する必要がある地域通貨は、約43.7兆円相当になる。
また、事業者が受け取った地域通貨のすべてを、円へ換えるわけでもない。
地域内の仕入れ、物流、業務委託、給与、公共料金等に使える部分は、地域通貨のまま循環する。
地域外仕入れ、輸入、円建て支払い等のために円へ換える必要がある地域通貨は、約37.9兆円相当になる。

そのうえで、地域間清算率を70%と仮置きした場合、清算後にも残る円需要は、約11.4兆円となる。

実際に地域間で清算できる額は、地域別の円流入額と円流出額を把握し、円が余る地域と不足する地域の間で相殺できる額を積み上げて確認する必要がある。


この論考の位置づけ:ストックとフローを接続した一次的なシナリオ分析

今回行うのは、公表統計と暫定仮定を用いた、一次的なシナリオ・シミュレーションである。
個人へ届ける地域通貨の総額だけを見るのではない。
・専用会計からの再利用後に、新たに追加発行する地域通貨
・円へ換える必要がある地域通貨
・地域間清算後にも残る円需要
・円のマネーストック
・複数の地域通貨の有効残高
・円と地域通貨を合わせた基礎流動性
・給付水準を一段階引き上げる際に、国内で新たに必要となる追加提供
を分けて確認する。
そのうえで、どの条件なら成立可能性を検討対象に置けるかを、CASE別に比較する。

この論考で確認すること

まず、現行の円、複数の地域通貨、地域間の円の不均衡を均す層を分ける。
次に、個人へ届けた地域通貨が、地域内でどのように循環し、専用会計へ還流し、翌期の給付等へ再利用されるかを整理する。
そのうえで、円へ換える必要がある部分を切り出し、地域間で清算し、それでも残る円需要を確認する。
第3章では、ここまで整理した制度全体の流れを数式でつなぐ。
第4章以降では、第3章で置いた数式を使い、
・財政フローと通貨フローが、30年間の段階導入を通じて持続するか
・給付水準を一段階引き上げる際に、現行の円と各地域通貨の価値を維持できるか
・条件が変化した場合にも、成立可能性が残るか
・限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを見ながら、次の給付水準へ進めるか
を順番に確認する。


目次



第1章:シナリオ・シミュレーションの対象と、月10万円相当の地域通貨という最終目標

この章では、今回シナリオ・シミュレーションする制度の全体像を定義する。
まず、現行の円、複数の地域通貨、地域間の円の不均衡を均す層を分ける。
そのうえで、各地域の住民へ、その地域の地域通貨をベーシックインカムとして毎月届け、成人・現役層で月10万円相当の地域通貨まで段階的に広げる構想を置く。

ショートサマリー

この章で確認すること

1-1. 複数の地域通貨、地域間調整、現行の円を分ける

複数の地域通貨は、たとえば、次のような9つ程度の広域圏ごとに発行する。

名称は例示である。
北海道に住む人には、北海道の地域通貨「ドサンコ」。
北陸に住む人には、北陸の地域通貨「ホクリ」。
関西に住む人には、関西の地域通貨「オオキニ」。
それぞれの地域通貨を、それぞれの地域の中で循環させる。

1-2. 地域内では、幅広い商品・サービスに使える

地域通貨は、広域圏内で、原則として幅広い商品・サービスに使えるようにする。

ポイント
地域通貨は、生活必需品だけに使う限定ポイントではない。
・食料、日用品
・衣料、飲食
・交通、医療、介護、教育
・娯楽、文化、地域サービス
・地域内、広域圏内の事業者間決済
・税、公共料金等
に使える設計を基本に置く。

利用可能な対象を細かく列挙する方式ではなく、一部の禁止対象だけを制限する。

1-3. 月10万円相当の地域通貨へ、段階的に広げる

最終的な政策目標は、次の水準である。

ポイント
成人・現役層へ届ける月10万円相当の地域通貨は、
・生活費全額を賄う水準ではない
・最低生活費の厳密な推計値でもない
・日常生活を支える支出の一部を継続的に下支えする最終目標である
・制度全体が持続できるかを確かめる最終的な検証水準でもある

モデル上は、人口統計と接続するため、15〜64歳人口を成人・現役層の近似値として扱う。
15歳未満人口と65歳以上人口には、各段階で、成人・現役層の半額相当の地域通貨を届ける。
人口には、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(令和5年推計)』の出生中位・死亡中位推計を使う。
同推計は、2020年国勢調査の確定数を出発点として、出生、死亡、国際人口移動について仮定を置き、将来の人口規模と年齢構成を推計している。
給付水準は、段階的に引き上げる。

人口減少を反映すると、2056年に最終段階へ到達した時点では、年間に個人へ届ける地域通貨の総額は約91.4兆円相当になる。


第2章:地域通貨を、現行の円への単純な上乗せにしない構造

第1章では、現行の円、複数の地域通貨、地域間調整の役割を分けた。
この章では、個人へ届けた地域通貨が、どのように地域内で循環し、どの段階で現行の円と接続するかを整理する。

ショートサマリー

この章で確認すること

2-1. 個人へ届けた地域通貨は、地域内で繰り返し使われる

各地域の住民には、居住する地域の地域通貨を、ベーシックインカムとして毎月届ける。
個人は、地域内の店舗や事業者で、商品やサービスの購入に使う。
地域通貨は、一度の買い物で役割を終えない。
・地域内の事業者間取引へ回る
・地域内の仕入れ、物流、修理、清掃、業務委託へ使われる
・給与や所得として家計へ戻る
・税、公共料金等として専用会計へ移る
・専用会計へ移った地域通貨は、翌期の給付等へ再利用される

個人残高には、利用を促すための時限性を置く。
事業者残高には、短い期限を原則として置かない。
仕入れ、給与、設備、資金繰りのタイミングを安定させるためである。

2-2. 税・公共料金による還流と、個人残高の失効を分ける

専用会計への還流(この論考における定義)
個人や事業者が、税、公共料金等を地域通貨で支払うことによって、地域通貨が地方公共団体等の専用会計へ移ること。
専用会計へ移り、再利用対象として確定した地域通貨は、翌期の給付等に再利用する。

税、公共料金等による還流と、個人残高の失効は分けて扱う。
税、公共料金等として支払われた地域通貨は、専用会計へ移る。
一方、有効期限を過ぎた個人残高は失効する。
失効相当額を専用会計へ振り替えて再利用するか、有効残高から除いて消滅させるかは、制度設計として分けて考える。

ポイント
・税、公共料金等として支払われた地域通貨は、専用会計へ移る
・専用会計へ移った地域通貨は、翌期の給付等に再利用する
・有効期限を過ぎた個人残高は失効する
・失効相当額を再利用するか、消滅させるかは、制度設計として分けて扱う
・税、公共料金等による還流と、個人残高の失効は、同じ処理ではない

2-3. 必要な分だけ円へ換え、地域間で清算する

地域通貨のまま使える部分は、地域内で回す。
地域外仕入れ、輸入、円建て支払い等に必要な分だけを、現行の円へ換える。
円へ換える必要がある額を、そのまま最終的な円需要と見るわけではない。
地域ごとに、円が余る地域と不足する地域がある。
そのため、まず地域間で相殺できる部分を清算する。
そのうえで、地域間清算を行っても、なお現行の円へ換える必要がある額を確認する。

地域間清算後にも残る円需要(この論考における定義)
地域通貨を受け取った事業者が、地域間清算を行った後でも、なお現行の円へ換える必要がある額。

川上の取引まで含めて、円換金需要を確認する

地域通貨が、末端の店舗やサービス事業者だけで使われても、地域内循環は十分には広がらない。
たとえば、地域内の飲食店が地域通貨を受け取っても、食材を供給する卸売業者が、域外の商社や海外から円で仕入れていれば、飲食店や卸売業者には円への換金需要が生じる。
同じ問題は、
・卸売
・製造
・物流
・業務委託
・エネルギー
・輸入
・域外調達
にも生じる。
そのため、確認する必要があるのは、小売段階の利用率だけではない。
川上の取引まで含め、地域通貨のまま支払える範囲と、現行の円へ換える必要がある範囲を分けて確認する。

ポイント
・地域通貨のまま使える部分は、地域内で回す
・地域外仕入れ、輸入、円建て支払い等に必要な分だけ、円へ換える
・末端の小売だけでなく、卸売、製造、物流、エネルギー、輸入まで確認する
・地域ごとの円需要は、まず地域間で清算する
・それでも残る額を、地域間清算後にも残る円需要として確認する

2-4. 地域通貨が増えると、円建て信用創造の増え方も変わる

地域通貨が増えると、円建て融資が一律に減るわけではない。
生活費不足を補う借入、慢性的な運転資金不足を補う借入、地域内決済を円だけでつなぐための借入は、減る可能性がある。
一方、住宅取得、設備投資、新規事業、地域内需要の増加を見込んだ投資に向かう融資は、増える可能性がある。
金融機関が、減少した貸出需要を別の円建て融資で補おうとする可能性もある。

ポイント
減る可能性があるもの
・生活費不足を補う借入
・慢性的な運転資金不足を補う借入
・地域内決済を、円だけでつなぐための借入
増える可能性があるもの
・住宅取得
・設備投資
・新規事業
・地域内需要の増加を見込んだ投資
・不動産や金融資産等に向かう円建て与信

円だけを見ても、地域通貨を含む全体量は分からない。
地域通貨だけを見ても、円建て信用創造との関係は分からない。
そのため、この論考では、円のマネーストックと、複数の地域通貨の有効残高を合わせて確認する。

基礎流動性(この論考における定義)
円のマネーストックと、複数の地域通貨の有効残高を合わせたもの。
円と地域通貨の合計残高を把握するために、この論考で便宜上置く一次的な監視指標である。
地域通貨には、域内利用、個人残高の時限性、事業者残高、円換金条件という独自の性質がある。
そのため、基礎流動性は、標準的なマネーストック指標や、物価圧力を直接表す指標ではない。
物価、貸出、換金需要、供給制約と併せて確認する。



第3章:制度全体の流れを数式でつなぐ

給付、再利用、円換金、地域間清算、価値維持を分けて確認する

第1章では、現行の円、複数の地域通貨、地域間の円の不均衡を均す層を分けた。
第2章では、個人へ届けた地域通貨が、地域内でどのように循環し、どの段階で現行の円と接続するかを整理した。
この章では、ここまで整理した制度全体の流れを、数式でつなぐ。
重要なのは、式を並べることではない。
何を確認するために、どの要素を分けて計算するのかを明確にする。

ショートサマリー

この章で確認すること

3-1. 毎年、個人へいくら相当の地域通貨を届けるか

3-2. 再利用後に、いくら新たに発行する必要があるか

3-3. 地域通貨のうち、いくらを円へ換える必要があるか

円換金率は、固定的な値ではない。
地域別・業種別・取引段階別の調達構造を確認し、限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを使って見直す。

3-4. 地域間清算後にも、どれだけ円需要が残るか

地域間清算率 λ t ​ は、全国の円需要を機械的に減らす係数ではない。
円が余る地域と不足する地域の間で相殺できる部分を表す。
本稿では一次的なシナリオ分析のために暫定値を置く。
実装時には、地域別の円流入額と円流出額を用いて、実際に清算できる額を積み上げる。

3-5. 円のマネーストックは、どう変わるか

信用創造置換係数(この論考の定義)
地域通貨の新規発行によって、円建て信用創造の増加圧力がどの程度変化するかを表す割合。
生活費不足、慢性的な運転資金不足、地域内決済を円だけでつなぐための借入が、どの程度減少するかをモデル化するために置く。
固定的な実績値ではない。
限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを使い、借入目的別に見直す。

信用創造置換係数は、地域通貨の導入によって円建て信用創造が必ず減少することを意味しない。

生活費を補うための借り入れや、一部の短期運転資金需要が減る可能性がある一方、設備投資、物流、人材確保、新規事業、地域外仕入れ等に必要な円建て貸出が増える可能性もある。

この論考では、影響の方向と大きさを確認するための暫定的な係数として置く。
実装後は、貸出目的別の実績データを用いて更新する。

3-6. 円と地域通貨を合わせた全体量は、どう変わるか

3-7. 地域通貨の利用額のうち、どれだけが新たな需要になるか

追加需要化率(この論考の定義)
地域通貨で支払われた額のうち、既存の円支出の置換ではなく、新たな購買需要になる割合。

3-8. 一段階引き上げたとき、新たな需要はどれだけ増えるか

3-9. 国内で追加的に必要となる商品やサービスは、いくらか

国内で必要な追加提供(この論考の定義)
新たに増える購買需要のうち、輸入や域外調達へ流れる部分を除き、国内で追加的に提供する必要がある商品やサービスの額。

この論考で置く主な定義のまとめ

数式モデルの射程

この論考で本文に示す式は、制度全体の流れを確認するための背骨である。
給付、専用会計への還流、翌期の再利用、追加発行、円換金、地域間清算、円のマネーストック、基礎流動性、追加需要、国内追加提供を分けて確認する。
一方、第三者が同じ結果を完全に再計算できるモデルへ進めるためには、
・専用会計残高
・地域通貨の有効残高
・地域通貨利用額
・業種別・取引段階別の円換金額
・失効額
・円側の流動性調整
・地域別の累積不均衡
について、年次の状態遷移式を明示する必要がある。
これらは、実際の計算処理と対応させたうえで、再現用の計算ファイル、年次パラメータ表、コードとともに整理する。


第4章:成立可能性の一次検証①財政フローと通貨フローは、30年間の段階導入を通じて持続するか

第3章では、制度全体の流れを数式でつないだ。
この章では、第3章で置いた式を使い、成人・現役層へ毎月届ける地域通貨を、月1万円相当から月10万円相当まで段階的に広げる30年間をシミュレーションする。
確認したいのは、単に「最終的にいくら相当の地域通貨を届けるか」ではない。
給付額、再利用後の新規追加発行額、円換金額、地域間清算後にも残る円需要、円と地域通貨を合わせた全体量を分けて見る。
そのうえで、
地域通貨を毎月届ける仕組みが、30年間の移行過程で途中で詰まらず、長期にわたって回り続けるか
を確認する。

ショートサマリー

この章で確認すること

4-1. まず、毎年いくら相当の地域通貨を届けるのかを見る

成人・現役層へ毎月届ける地域通貨は、月1万円相当から始め、段階的に月10万円相当まで引き上げる。
子どもと高齢者へ毎月届ける地域通貨は、各段階で、その半額とする。
人口減少も反映する。

Gₜ = 12[Pₜ¹⁵⁻⁶⁴ aₜ +(Pₜ⁰⁻¹⁴ + Pₜ⁶⁵⁺)bₜ]

bₜ = aₜ ÷ 2

4-2. 次に、毎年いくら新たに発行する必要があるかを見る

個人へ届ける地域通貨の総額と、毎年新たに追加発行する地域通貨の額は異なる。
税、公共料金等として専用会計へ還流した地域通貨は、翌期の給付等へ再利用する。

Iₜ = Gₜ − ρQₜ₋₁

4-3. 地域通貨のうち、どれだけを円へ換える必要があるかを見る

地域通貨は、すべて円へ換わるわけではない。
地域内の仕入れ、物流、業務委託、給与、税、公共料金等に使える部分は、地域通貨のまま回る。
一方、地域外仕入れ、輸入、円建て支払い等には、現行の円が必要になる。
円へ換える必要がある地域通貨を、Xₜ とする。
円換金額 Xₜ は、末端の小売店やサービス事業者だけでなく、卸売、製造、物流、エネルギー、輸入、域外調達まで含む取引構造によって変化する。
そのため、事業者が円へ換える割合は、固定的な値ではない。
地域別・業種別・取引段階別の調達構造を確認し、限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを使って見直す。

4-4. 地域間で清算した後にも、どれだけ円需要が残るかを見る

円へ換える必要がある額を、そのまま最終的な円需要と見るわけではない。
地域ごとに、円が余る地域と不足する地域がある。
そのため、まず地域間で相殺できる部分を清算する。

Zₜ =(1 − λₜ)Xₜ

4-5. 円と地域通貨を合わせた全体量が、過度に膨張しないかを見る

地域通貨が増えても、円建て信用創造が同じペースで増え続ければ、全体量が過度に膨張する可能性がある。
一方、生活費不足や慢性的な運転資金不足を補う借入が減れば、円建て信用創造の増加圧力は一部減る可能性がある。

Mₜ = Mₜ₋₁ + ΔMₜᵇᵃˢᵉ − βIₜ + Aₜ

Lₜ = Mₜ + Sₜ

4-6. 30年間のシミュレーション結果

ここまで、制度が30年間回り続けるかを見るために、
・毎年、個人へ届ける地域通貨の総額
・再利用後に、新たに追加発行する地域通貨
・川上の取引まで含め、円へ換える必要がある地域通貨
・地域間清算後にも残る円需要
・円のマネーストック
・円と地域通貨を合わせた基礎流動性
を分けて計算した。

CASE① 基準では、成人・現役層へ届ける地域通貨を、月1万円相当から月10万円相当まで段階的に広げても、財政フローと通貨フローは、30年間のシナリオ・シミュレーション上で途中で途切れない。

<最初に押さえる数字
・個人へ届ける地域通貨        
 :約91.4兆円相当
・再利用後に新たに追加発行する地域通貨
 :約43.7兆円相当
・円へ換える必要がある地域通貨    
 :約37.9兆円相当
・地域間清算後にも残る円需要     
 :約11.4兆円

2056年の円への換金と地域間清算は、次の形になる。

基礎流動性は、次の形になる。

基礎流動性は、単独で安全性を判断する指標ではない。
物価、貸出、換金需要、供給制約と併せて確認する。

この章の結論

CASE① 基準では、財政フローと通貨フローが、30年間のシナリオ・シミュレーション上で途中で途切れない。

少なくとも今回の暫定仮定のもとでは、成人・現役層へ月10万円相当まで段階的に広げる場合にも、発行、還流、再利用、円への換金、地域間清算、円のマネーストックを、年次モデルとして数式上接続できる。

ただし、実際に次の給付水準へ進めるかは、第4章以降で確認する価値維持の条件と、導入後の実績データを踏まえて判断する。


第5章:成立可能性の一次検証②現行の円と、各地域通貨の価値を維持できるか

第4章では、第3章で置いた式を使い、財政フローと通貨フローの30年間の動きをシミュレーションした。
この章では、第3章で置いた判定式を使い、現行の円と各地域通貨の価値を維持できるかを確認する。
確認したいのは、地域通貨が回るかだけではない。
地域通貨による支払いのうち、どの程度が新たな需要になるのか。
給付水準を一段階引き上げると、国内でどの程度の商品やサービスを追加的に用意する必要があるのか。
その負荷を、経済全体と、医療、介護、物流、交通等の各分野が受け止められるのか。
川上の事業者まで、地域通貨のまま取引へ参加できるのか。
地域間の円需要の偏りが、累積しないか。
円建て信用創造が、別の貸出によって拡大しないか。
そのうえで、
制度が回り続けても、現行の円、各地域通貨、1地域通貨=1円相当という関係を維持できるか
を確認する。

ショートサマリー

この章で確認すること

5-1. まず、価値維持を何で判断するかを定義する

価値維持は、一つの数字だけでは判断できない。
確認する必要があるのは、次の4点である。
・現行の円の価値
・各地域通貨の価値
・1地域通貨=1円相当という関係
・円と地域通貨を合わせた基礎流動性

1地域通貨=1円相当という関係を維持するには、残余円換金需要を円のマネーストック全体と比較するだけでは足りない。

実際に換金を担う主体が、どの程度の円準備を持つか。
換金需要が一時的に集中した場合にも、どの範囲まで額面換金を維持できるか。

これらを、制度設計と実績データの両面から確認する必要がある。

5-2. 地域通貨のうち、どれだけが新しい需要になるかを見る

地域通貨による支払いのすべてが、新しい需要になるわけではない。
これまで円で支払っていた支出を、地域通貨へ置き換える部分がある。
一方で、生活に余裕が生まれたことで、新たに増える支出もある。

Dₜᵃᵈᵈ = Uₜ ηₜ

5-3. 給付水準を一段階引き上げると、新たな需要はどれだけ増えるか

この論考では、最初から成人・現役層へ月10万円相当の地域通貨を届けるわけではない。
月1万円相当から始め、限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを確認しながら、段階的に引き上げる。
そのため、確認するべきなのは、累積的な追加需要だけではない。
次の給付水準へ進んだとき、前段階から新たに増える需要を見る。

ΔDₜᵃᵈᵈ = Dₜᵃᵈᵈ − Dₜ₋₁ᵃᵈᵈ

5-4. 国内で新たに用意する必要がある商品やサービスは、どれだけ増えるか

新たに増える需要のすべてを、国内で供給する必要があるわけではない。
一部は、輸入や域外調達へ流れる。
その部分を除き、国内で新たに追加的に用意する必要がある商品やサービスを確認する。

ΔQₜᵈᵒᵐ = ΔDₜᵃᵈᵈ(1 − mₜ)

5-5. 消費分野ごとに異なる供給制約を確認する

マクロ全体で見た国内追加提供率が小さくても、すべての分野で余力があるとは限らない。
医療、介護、物流、交通等では、需要が集中し、供給制約が表面化する可能性がある。
そのため、価格だけでなく、
・欠品
・混雑
・待機時間
・人員不足
・受入停止
・設備稼働率
を確認する。
本論考では、内閣府の2024年度国民経済計算年次推計を参照し、2024年の家計最終消費支出を約331.0兆円として扱う。

同じ追加需要でも、影響の現れ方は分野ごとに異なる。

5-6. 価値維持のための4つの防衛線

ここまで、価値維持のために確認する指標と、供給制約を整理した。
想定が崩れた場合に備え、4つの防衛線を置く。

① 円建て信用創造が想定ほど減らない場合

円側の流動性調整を、独立した調整弁として置く

地域通貨を発行しても、家計や事業者の円建て借入が想定どおりに減らない可能性がある。
生活の安定や、地域内需要の増加が、住宅取得、設備投資、新規事業等に向かう円建て融資を増やす可能性もある。
金融機関が、生活資金や運転資金の減少を、別の貸出によって補おうとする可能性もある。
その場合、円と地域通貨を合わせた基礎流動性が、想定を超えて増える。
確認する指標は、次のとおりである。
・円のマネーストック
・円建て貸出
・貸出目的
・不動産向け貸出
・金融資産価格
・基礎流動性
・物価
・輸入価格
・為替
・金利
必要に応じて、円側の流動性調整 Aₜ を検討する。

現行の準備預金制度は、対象となる金融機関に対し、受け入れている預金等の一定比率以上の金額を日本銀行へ預け入れることを義務付ける制度である。
自己資本比率規制、流動性比率規制等のバーゼル規制は、銀行等の経営の健全性を判断するための基準である。
いずれも、地域通貨の流通量に応じて、個別金融機関の円建て貸出枠を直接決める制度ではない。
新たな調整ルールを置く場合には、法的根拠、規制主体、対象金融機関、対象貸出、地域差の扱い、金融仲介への影響を別途整理する。

② 特定分野へ需要が集中する場合

利用禁止ではなく、供給力を増やす方向へ誘導する

マクロ全体で見た国内追加提供率が小さくても、すべての分野で余力があるとは限らない。
供給制約が表面化しやすい分野には、たとえば、次のものがある。
・医療
・介護
・物流
・交通
・一部の日用品
・住宅関連サービス
供給上限へ近づくと、影響が非線形に大きくなる可能性がある。
価格だけでなく、
・欠品
・混雑
・待機時間
・人員不足
・受入停止
・設備稼働率
を確認する。

供給力の強化と、需要の緩やかな分散を促す。

③ 1地域通貨=1円相当という関係が崩れる場合

法的ルールと、経済的合理性を組み合わせる

実質的な二重価格が生じていないか、次の兆候を確認する。
・表示価格の差
・換金所要時間
・実質換金コスト
・受取拒否
・非公式な割引
・ポイント還元率の差
・抱き合わせ販売
・特定業種での上乗せ要求
共通の決済基盤では、円建て価格と地域通貨による引落額を、原則として1対1で処理する。

円への換金性も確保する。
そのうえで、地域通貨のまま使う方が、わずかに合理的になる環境をつくる。
・地域内の仕入れ
・物流
・業務委託
・給与
・税
・公共料金
へ使える範囲を広げる。
小売だけでなく、卸売、製造、物流等の川上事業者にも、地域通貨を使える経路を広げる。

④ 地域間の不均衡が累積する場合

単年度の清算と、構造的な不均衡の調整を分ける

地域ごとの経済構造は異なる。
・域外へ多くの商品やサービスを供給し、円が流入しやすい地域
・輸入、域外仕入れが多く、円が流出しやすい地域
・医療、介護、物流等の域外依存が高い地域
がある。
地域間の偏りは、次の4つに分けて扱う。
・一時的な円需要の偏り
・一定期間内に解消できる偏り
・構造的に続く偏り
・許容上限を超える偏り

ユーロ圏のTARGET残高は、TARGETを通じた銀行間のクロスボーダー決済によって生じる、各国中央銀行等のバランスシート上のポジションである。
本論考の地域間清算は、現行の円を日本全体の共通通貨として残す点で異なる。
TARGET残高を、危機そのものの原因とみなすわけではない。
ただし、単年度の相殺と、累積する偏りを分けて扱う必要性を確認するうえで、参照例となる。

構造的な不均衡には、地域間投資を組み合わせる

単年度の地域間清算だけでは、構造的な偏りは解消しない。
同じ地域で、輸入や域外調達に伴う円需要が継続的に超過する場合、清算後にも残る円需要は累積する。
そのため、地域間清算では、
・単年度の清算額
・清算後にも残る円需要
・地域別の累積残高
・偏りが継続する期間
を分けて確認する。
累積不均衡が一定範囲を超える場合には、
・地域間の信用枠
・基金
・財政移転
・地域間投資
・供給力強化
・域内調達率の引き上げ
・域外販売力の強化
を組み合わせる。
地域間投資は、単に不足額を補填するために行うものではない。
円不足が継続する地域の供給力と調達力を高め、構造的な不均衡そのものを小さくするために行う。

5-7. 価値維持に関わる試算結果

ここまで、現行の円と各地域通貨の価値を維持できるかを見るために、
・地域通貨による利用額のうち、新たな需要となる部分
・給付水準を一段階引き上げたとき、新たに増える需要
・そのうち、国内で新たに必要となる追加提供
・円と地域通貨を合わせた基礎流動性
・川上の取引まで含む円換金需要
・地域間清算後にも残る円需要
・分野別の供給制約
・地域間の累積不均衡
を分けて確認した。
CASE① 基準では、給付水準を一段階引き上げる際に、新たに増える需要と、国内で必要になる追加提供は、次のようになる。

ポイント
・成人・現役層へ月10万円相当の地域通貨を、一度に追加するモデルではない
・子どもと高齢者へ届ける地域通貨も、各段階で半額ずつ引き上げる
・各段階で、前の段階から新たに増える需要を見る
・CASE① 基準では、国内で新たに必要となる追加提供率は、最大でも年率約0.58%
・地域間清算後にも残る円需要は、円のマネーストックに対して1%未満
・円換金率、信用創造置換係数、地域間累積不均衡は、観測データで継続的に見直す

この章の結論

CASE① 基準では、現行の円と各地域通貨の価値維持に用いる事前判定指標は、想定範囲に収まる。
ただし、川上の円換金需要、円建て信用創造の組替え、地域間の累積不均衡が、想定を超えないことを継続的に確認する必要がある。

少なくとも今回の暫定仮定のもとでは、現行の円と各地域通貨の価値を維持しながら、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届ける構想を、現実の制度設計として検討する余地がある。


第6章:条件変化への耐性と、段階導入における運用判断

条件が変わった場合にも、成立可能性は残るか

第4章では、CASE① 基準における財政フローと通貨フローをシミュレーションした。
第5章では、CASE① 基準における価値維持に関わる指標を確認した。
この章では、第3章で置いた主要な係数を変え、条件が変化した場合にも成立可能性が残るかを確認する。
比較するのは、次の条件である。
・追加需要化率 ηₜ
・事業者が円へ換える割合
・地域間で清算できる割合 λₜ
・信用創造置換係数 β
・政策対応による年次の追加的な供給余地
CASE① 基準、CASE② 楽観、CASE③ 慎重、CASE④ 複合ストレスを比較し、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届ける構想を検討対象に置ける条件と、そのままでは進めない条件を分ける。
そのうえで、限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを確認し、次の給付水準への移行、据え置き、縮小を判断する。

ショートサマリー

この章で確認すること

6-1. 4つのCASEの定義、位置づけ、条件差

主な暫定仮定は、次のとおりである。

6-2. CASE別に、最終的な給付水準を検討対象に置けるかを判断する

6-3. CASE③ 慎重では、円への換金需要を構造的に減らす

必要になるのは、地域通貨のまま使える経路を、末端から川上まで広げることである。
・事業者間決済を広げる
・卸売、製造、物流等の川上事業者を巻き込む
・地域内、広域圏内の調達を広げる
・税、公共料金等への利用を広げる
・給与、所得等として家計へ戻す
・地域間清算を強化する
・累積不均衡を把握する
・地域間投資へつなげる

6-4. 段階導入における運用判断

段階導入を行う場合には、現在の給付水準を維持できるか、次の給付水準へ進めるか、拡大を止めるかを分けて判断する。

継続条件:現在の給付水準を維持できるか

現在の給付水準を維持するために、限定的な試行や各段階の導入後に得られる観測データを確認する。

移行条件:次の給付水準へ進めるか

現在の給付水準で、
・地域内循環
・川上事業者の参加
・専用会計への還流
・円換金
・地域間清算
・累積不均衡
・円建て貸出の変化
・基礎流動性
・供給制約
・等価性
を確認する。
そのうえで、次の給付水準へ進んでも、財政フローと通貨フローが途切れず、価値維持に必要な調整が可能かを判断する。

停止・縮小条件:拡大を止めるか、前の段階へ戻すか

次のような兆候が続く場合には、給付水準の引き上げを止める。
必要に応じて、現在の給付水準を据え置くか、前の段階へ戻す。

段階導入を採用する場合には、たとえば、
・成人・現役層へ月1万円相当、子どもと高齢者へ月5,000円相当
・成人・現役層へ月3万円相当、子どもと高齢者へ月1.5万円相当
・成人・現役層へ月5万円相当、子どもと高齢者へ月2.5万円相当
・成人・現役層へ月7万円相当、子どもと高齢者へ月3.5万円相当
・成人・現役層へ月9万円相当、子どもと高齢者へ月4.5万円相当
・成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当
という水準を置く。

各水準で、一定期間の観測データを確認する。
そのうえで、次の給付水準へ進むか、現在の水準を維持するか、前の段階へ戻すかを判断する。


おわりに:複数の地域通貨によるベーシックインカムは、理念にとどまらない

この論考では、複数の地域通貨によるベーシックインカムが成立可能性を持つかを、順番に確認した。

第一に、現行の円、複数の地域通貨、地域間調整を組み合わせた通貨体制を定義した。
第二に、地域通貨を、地域内の暮らしと仕事の中で循環させる構造を整理した。
第三に、制度全体の流れを数式でつないだ。
第四に、財政フローと通貨フローが、30年間の段階導入を通じて持続する可能性を確認した。
第五に、現行の円と、各地域通貨の価値を維持するための条件と、防衛線を確認した。
第六に、CASE別に条件変化への耐性を比較し、段階導入における運用判断の枠組みを整理した。

今回確認したことは、次のとおりである

・個人へ届ける額と、新たに追加発行する額は異なる
・地域通貨の全額を、円へ換えるわけではない
・円換金需要は、末端の小売だけでなく、卸売、製造、物流、エネルギー、輸入、域外調達まで含む取引構造によって変化する
・地域間清算後にも残る円需要を、切り分けて確認できる
・単年度の地域間清算だけでなく、地域別の累積不均衡を確認する必要がある
・円建て信用創造は、自動的に減るとは限らない
・円と地域通貨を合わせた基礎流動性を、一次的な監視指標として確認できる
・CASE① 基準では、最終的な給付水準を現実の制度設計として検討対象に置ける
・CASE③ 慎重でも、追加対策を前提に検討対象として残る
・CASE④ 複合ストレスでは、その条件のまま進めない

さらに、価値維持のために、4つの防衛線を置いた。

・円側の流動性調整
・分野別の需給調整と、川上の事業者を巻き込む循環設計
・二重価格、受取拒否、非公式レートへの対応
・地域間の累積不均衡への対応

地域内循環が末端から川上まで一定程度定着し、価値維持のための調整弁が機能するならば、それぞれの地域通貨をベーシックインカムとして毎月届ける仕組みは、成立可能性を持つ。

成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届ける構想は、理念にとどまらない。

現実の制度設計として、具体的に検討できる。


補論:全国総量の一次検証から、地域別・業種別の再現モデルへ進める

補論で整理すること

1. モデル上の暫定仮定

公表データから直接導いた数字と、条件比較のために置く仮定を分ける

以下の数字は、公表データから一意に導かれるものではない。
複数の地域通貨によるベーシックインカムが、どのような条件のもとで成立可能性を持つかを確認するために置いた、モデル上の暫定仮定である。
現時点で、すべての仮定を公表統計から直接導くことはできない。
そのため、
・既存統計から直接設定できる数字
・既存統計や既存事例を参考にして初期値を置く数字
・現段階では感度分析として置き、限定的な試行や段階導入後の観測データで更新する数字
を分けて扱う。

本文中の試算値は、公表統計と、これらの暫定仮定を組み合わせた30年シナリオ・シミュレーションの結果である。

2. 次段階で追加する遷移式

今回示した数式は、制度全体の流れを確認するための背骨である。
第三者が同じ結果を再計算できるモデルへ進めるためには、主要なストックとフローを接続する遷移式を追加する。

業種別・取引段階別の円換金額は、次の形で整理できる。

Xₜ = Σᵢ Xᵢ,ₜ
Xᵢ,ₜ = Rᵢ,ₜ κᵢ,ₜ

地域別累積不均衡は、次の形で整理できる。

Bᵣ,ₜ = Bᵣ,ₜ₋₁ + Zᵣ,ₜ − Fᵣ,ₜ − Jᵣ,ₜ

これらは、次段階で追加する式の例である。
現行の全国総量シミュレーションで、すでに実装済みの式として扱うものではない。

3. 感度分析

円換金率、信用創造置換係数、円側流動性調整の置き方によって、結果は変わる。
次段階では、少なくとも、次の条件を分けて確認する。

4. 地域別・業種別モデルへの展開

本文では、全国総量で見た場合に、最終的な給付水準が、初手で明らかに破綻するものかを確認した。
地域間の円の不均衡を均す層と、川上の取引構造を数量的に検証するためには、地域別・業種別モデルへ展開する必要がある。

全国集計の一次検証を土台として、
・地域別の円流入
・地域別の円流出
・地域間取引
・清算後残高
・累積不均衡
・小売、卸売、製造、物流、エネルギー、輸入、域外調達の円換金額
・基金、財政移転、地域間投資の発動条件
を接続する。

5. 今後の課題

全国総量の一次検証から、地域別・業種別の再現モデルへ進める

今回の論考では、全国総量で見た場合に、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届ける規模が、初手で明らかに破綻するものかを確認した。
次段階では、
・専用会計残高、地域通貨有効残高、利用額、円換金額、失効額の遷移式
・小売、卸売、製造、物流、エネルギー、輸入、域外調達の円換金額
・川上事業者の参加率
・信用創造置換係数と、円側流動性調整の感度分析
・貸出目的の組替えと、不動産、金融資産等への波及
・地域別の円流入、円流出、地域間取引、清算後残高、累積不均衡
・基金、財政移転、地域間投資等の発動条件
・移行、据え置き、縮小を判断する定量的な警戒ライン
・年次パラメータ表、計算ファイル、再現用コード
を整理する。
全国総量の一次検証を、第三者が再計算できる地域別・業種別モデルへ展開する。


参考資料・データ出典

1. 試算に使用したデータ出典

国立社会保障・人口問題研究所
『日本の将来推計人口(令和5年推計)』
出生中位・死亡中位推計を使用。人口規模、年齢構成、15歳未満人口、15〜64歳人口、65歳以上人口を確認するために参照。

日本銀行
『マネーストック速報(2026年5月)』
円のマネーストックの初期値として、2026年5月のM2平残を使用。

日本銀行
『マネーストック統計のFAQ』
M1、M2、M3、広義流動性等の系列の位置づけを確認するために参照。

内閣府経済社会総合研究所
『2024年度国民経済計算 年次推計』
家計最終消費支出、財貨・サービスの供給と需要、輸入額を確認するために使用。

日本銀行
『需給ギャップ・潜在成長率および労働需給関連指標』
国内で追加的に必要となる商品・サービスの規模を、マクロ経済全体の供給余力と比較する際に参照。

総務省統計局
『消費者物価指数』
現行の円の価値、全国の物価動向を確認するために参照。

総務省統計局
『小売物価統計調査』
地域別の価格水準、地域ごとの価格変動を確認するために参照。

経済産業省
『2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました』
デジタル決済の利用基盤が、生活者の決済手段として一定程度普及していることを確認するために参照。


2. 制度・統計上の参照資料

日本銀行
『準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか?』
準備預金制度の位置づけを確認するために参照。

金融庁
『自己資本比率規制等(バーゼル規制)について』
自己資本比率、流動性比率等の健全性規制の位置づけを確認するために参照。

日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗報告書』
CBDCに関する実証実験、決済基盤、技術面・運用面の検討状況を確認するために参照。

金融庁
『安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済法等の改正に関する資料』
ステーブルコイン、電子決済手段、資金決済法上の制度整理を確認するために参照。

欧州中央銀行
“TARGET balances”
TARGETを通じたクロスボーダー決済と、各国中央銀行等のバランスシート上のポジションを確認するために参照。

経済産業省
『地域間産業連関表』
地域間交易、地域外調達、地域間相互依存関係を考える際の参照材料として使用。

独立行政法人経済産業研究所
『都道府県間産業連関表2011』
都道府県間をまたぐ投入産出構造、地域間の分業構造を確認するために参照。


3. ベーシックインカムに関する参考文献

Philippe Van Parijs and Yannick Vanderborght
Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy
Harvard University Press, 2017.

Guy Standing
Basic Income: And How We Can Make It Happen
Penguin, 2017.

山森亮
『ベーシック・インカム入門――無条件給付の基本所得を考える』
光文社新書、2009年。

井上智洋
『人工知能と経済の未来――2030年雇用大崩壊』
文春新書、2016年。


4. 地域通貨・補完通貨に関する参考文献

西部忠
「地域通貨:統合的コミュニケーション・メディア」
『都市問題』第97巻第7号、2006年。

泉留維・中里裕美
「日本における地域通貨の実態について:2016年稼働調査から見えてきたもの」
『専修経済学論集』第52巻第2号、2017年。

泉留維
「日本における地域通貨の現状と課題――近年の新潮流を踏まえて」
『季刊 個人金融』2021年冬号。

栗田健一
『コミュニティ経済と地域通貨』
専修大学出版局、2020年。

Bernard Lietaer
The Future of Money: Creating New Wealth, Work and a Wiser World
Century, 2001.


5. 時限性・減価する貨幣に関する参考文献

Silvio Gesell
The Natural Economic Order
1916.

Margrit Kennedy
Interest and Inflation Free Money
Seva International, 1995.


6. 信用創造・貨幣制度に関する参考文献

Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas
“Money creation in the modern economy”
Bank of England Quarterly Bulletin, 2014 Q1.

Bank of England
“Money creation in the modern economy”
2014.

日本銀行
『教えて!にちぎん:お金はどのようにして世の中に出回るのですか?』
信用創造、中央銀行、民間銀行の役割を確認するために参照。


7. CBDC・デジタル通貨・ステーブルコインに関する参考文献

Bank for International Settlements
Central bank digital currencies: foundational principles and core features
2020.

日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針』
CBDCの基本的な考え方を確認するために参照。

日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗報告書』
CBDCの技術的・運用的な検討状況を確認するために参照。

金融庁
『資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告』
ステーブルコイン、電子決済手段、資金決済制度の制度整理を確認するために参照。


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