【5分で読める『人を育てる』一日一言】8月16日『苦しみには意味がある』
🌸 今日のひとこと
「そのときだけは、涙にも苦しみと同じだけの価値がある。涙は、勇気の証しなのだ」
📖 アウシュビッツから生還した精神科医
さて、皆様。今日は、20世紀の心の巨人と呼ばれる、一人のオーストリア人心理学者のお話をいたします。
その名は、ヴィクトール・エミール・フランクル。1905年、ウィーンに生まれたユダヤ人の精神科医であります。
第二次世界大戦下、ナチス・ドイツによってユダヤ人が迫害された時代。フランクルは、両親、妻、弟——愛する家族すべてを、あのアウシュビッツ強制収容所で失いました。彼自身も、アウシュビッツ、ダッハウなど、複数の強制収容所を転々とし、想像を絶する苦しみを味わったのであります。
強制収容所の生活を、少しだけ想像してみてください。
食事は、1日にパン数切れとスープ1杯。
真冬でも、薄い衣服1枚。
毎日、重労働を強いられ、多くの仲間が飢えと寒さで倒れていく。
そして、ガス室で、いつ殺されるか分からない恐怖の日々。
普通の人間なら、心が壊れてしまう環境であります。しかしフランクルは、精神科医としての目で、収容所の中の人間たちを観察し続けました。そして、驚くべき発見をしたのであります。
「同じ環境にいながら、生き延びる者と、絶望して倒れていく者の差は、何によって生じるのか」
フランクルは、注意深く観察して、こう結論づけました。
「生きる意味を見出せる者は、生き延びる。生きる意味を失った者は、倒れていく」
体力の強い者が生き延びたのではない。若い者が生き延びたのでもない。「なぜ生きるのか」を持っている者だけが、生き延びたのだ、と。
フランクル自身は、収容所の中で、心の中でこう誓ったと言います。「もし私が生き延びたら、この体験を通じて学んだことを、世界中の人々に伝えたい。人間の心の秘密を、伝えたい」
この「使命感」が、フランクルを、極限の苦しみの中で支え続けたのであります。
そして、1945年、収容所は解放され、フランクルは生き延びました。彼は、自らの体験を『夜と霧(Man's Search for Meaning)』という一冊の本にまとめ上げ、それは世界中で1600万部以上を売り上げる、20世紀を代表する名著となったのであります。
フランクルは、その中で、こう記しております。
「人生から何を期待するかではなく、人生が我々から何を期待しているかを問え」
なんという深い言葉でありましょうか。私たちは、いつも「人生に何を期待するか」ばかり考えている。しかしフランクルは、逆だ、と言うのです。「人生の方が、あなたに、何かを期待している。あなたに、何かの使命を与えている。それを、あなたは受け止めよ」と。
📚 古典・歴史からの学び — 孟子『天の将(まさ)に大任を降さんとするや』
古代中国の思想家、孟子(もうし)は、こういう有名な言葉を残しております。
「天の将に大任を降さんとするや、必ず先ず其の心志(しんし)を苦しめ、其の筋骨(きんこつ)を労(ろう)せしめ、其の体膚(たいふ)を餓えしめ、其の身を空乏(くうぼう)せしめ、行い其の為すところに払乱(ふつらん)せしむ。心を動かし性を忍び、其の能くせざる所を曾益(ぞうえき)する所以(ゆえん)なり」
長い言葉ですので、現代の言葉で意訳させていただきます。
「天が誰かに大きな使命を与えようとする時、必ずまず、その人の心を苦しめ、体を疲れさせ、飢えさせ、貧しくさせ、やることなすことをうまくいかせない。それは、その人の心を鍛え、忍耐力を養い、まだできないことをできるようにするためである」
なんと深い教えでありましょうか。
つまり、孟子はこう言っているのです。「大きな苦しみに遭っている人は、実は、天から大きな使命を与えられようとしている。だから、この苦しみに耐え抜きなさい。この苦しみが、あなたを大きな人物にするのだ」
これは、フランクルの思想と、驚くほど一致するのではないでしょうか。
日本には、こういう美しい言葉もございます。
「艱難(かんなん)、汝(なんじ)を玉にす」
「困難な状況が、あなたを美しい玉のように磨き上げる」という意味です。
真珠は、貝の中に小さな異物が入り込むことで、それを包み込む形で、時間をかけて育っていきます。異物という「苦しみ」がなければ、真珠は生まれないのであります。
人間も、同じであります。苦しみのない人生からは、深みのある人格は生まれません。苦しみを経験し、それを乗り越えた人だけが、真珠のように美しい人格を持てるのであります。
🏢 現代への橋渡し — 松下幸之助の「苦難を糧に」
松下電器の松下幸之助氏の若き日は、想像を絶する苦しみに満ちておりました。
生まれたのは、和歌山県の裕福な家庭でありました。しかし4歳の時、父が米相場に失敗し、一家は破産。9歳の時、大阪の火鉢屋に丁稚(でっち)奉公に出されました。10歳、11歳、12歳、13歳、14歳——幼い松下少年は、家族から離れ、一人で過酷な労働に耐えました。
さらに、20代で肺尖カタル(結核の初期症状)を患い、当時としては死の宣告に近い病でありました。仕事も、電気会社を辞め、23歳で独立して松下電器の前身を設立するも、その創業は極めて苦しいものでありました。
しかし松下氏は、後にこう振り返っておられます。
「私には、3つの天恵があった。1つは貧乏に生まれたこと。2つは体が弱かったこと。3つは学歴がなかったこと」
普通なら「3つの不幸」でありましょう。しかし松下氏は、これを「天恵(=天からの贈り物)」と呼んだのです。
なぜか。
「貧乏に生まれたから、お金の大切さを知り、経営者として堅実になれた」
「体が弱かったから、健康を大切にし、社員に無理をさせない経営ができた」
「学歴がなかったから、常に人から学ぶ姿勢を持ち続けられた」
松下氏は、自らの人生の苦しみを、すべて「意味あるもの」と捉え直しました。苦しみを「悪」と見るのではなく、「自分を育てるための天からの贈り物」と見た。この視点の転換が、松下氏を、経営の神様にまで押し上げたのであります。
🌏 西洋からの学び — ベートーヴェンの「運命」
音楽史上、最も偉大な作曲家の一人、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
彼が晩年、あの有名な「運命交響曲」「歓喜の歌」「第九交響曲」を作曲した時、彼の聴力は、ほぼ完全に失われておりました。音楽家にとって、耳が聞こえなくなる——これほどの絶望が、あるでしょうか。
若い頃から徐々に耳が悪くなり始めたベートーヴェンは、30歳の頃、絶望のあまり自殺を考えたと言われております。「ハイリゲンシュタットの遺書」という、弟に宛てた遺書を残すほどでありました。
しかし、彼はその遺書の最後に、こう書き記しました。
「私は、運命に打ち勝つ。私を、音楽の使命を果たす前に、この世を去らせるわけにはいかない」
そしてベートーヴェンは、聴力を失いながらも、作曲を続けました。彼が最後に書いた「第九交響曲」の初演。指揮台に立ったベートーヴェンは、演奏が終わった後も、聴衆の拍手が聞こえず、指揮台に立ち続けていたと言います。ソリストが彼の肩を叩き、聴衆の方に振り向かせて、初めて、彼は割れんばかりの拍手を「見た」のであります。
耳が聞こえない苦しみの中でこそ、あの「歓喜の歌」が生まれた。健康であれば、あの曲は生まれなかったかもしれない。ベートーヴェンの苦しみは、人類の宝を生む「意味ある苦しみ」であったのです。
🎯 中学生にもわかる話 — 「なぜ、この苦しみが自分に?」
若い方々に、こんな話をいたします。
生きていると、時々、こう思うことがありませんか。
「なんで、自分だけこんな目に遭うんだ」
「なんで、家族が病気になるんだ」
「なんで、テストで失敗するんだ」
「なんで、友達に嫌われるんだ」
苦しみに遭った時、多くの人はこう考えます。「この苦しみに、意味なんてない。ただ、運が悪いだけだ」と。
しかし、フランクルは、こう教えてくれました。
「その苦しみには、必ず意味がある。今はわからなくても、10年後、20年後に、必ずその意味がわかる時が来る」
家族が病気になったから、家族の大切さを、深く知ることができた。
テストで失敗したから、勉強のやり方を、根本から見直すことができた。
友達に嫌われたから、本当の友情とは何かを、考えることができた。
苦しみの真っ只中にいる時は、その意味はわかりません。しかし、必ず、その苦しみは、あなたを大きく成長させる。あなたを、優しい人間にする。あなたを、強い人間にする。
だから、苦しみを、逃げずに、受け止めてください。「なぜ自分が?」と問うのではなく、「この苦しみは、自分に何を教えてくれているのか?」と問うてください。
答えは、必ず、いつか、見つかるのであります。
💼 職場での応用 — 「苦しい時こそ、成長のチャンス」
朝礼で、こう問いかけてみてください。
「今、あなたが仕事で最も苦しんでいることは、何ですか?」
そして、こう続けてください。
「その苦しみは、あなたに何を教えていますか?」
苦しみに直面した時、多くの人はその苦しみから逃げようとします。「早く終わらないかな」「誰か助けてくれないかな」——こういう気持ちは、自然なものであります。
しかし、真に成長する人は、こう考えます。
「この苦しみは、天が私に与えた課題だ。この課題を乗り越えた時、私は今より一回り大きな人間になっているはずだ」
京セラの稲盛和夫氏は、こう申されました。
「大変とは、大きく変わると書く。苦しみは、あなたを大きく変えるチャンスなのである」
苦しみを、成長のチャンスと捉え直す。この視点の転換ができる人だけが、真に大きな人物になれるのであります。
🎯 今日の行動指針
「今日1日、苦しいことに出会ったら『これは何を教えてくれているのか』と問う」
例えば、お客様からクレームを受けたとします。「なんで、こんな理不尽なことを言うんだ」と思うのではなく、「このクレームは、私に何を教えてくれているのか」と問うのです。
もしかしたら、「もっと事前の説明を丁寧にすべきだった」という教えかもしれません。
もしかしたら、「相手の立場に立って考える力が、まだ足りない」という教えかもしれません。
もしかしたら、「感情に振り回されず、冷静に対応する力を、身につけなさい」という教えかもしれません。
苦しみの中に、必ず、あなたへの「メッセージ」が隠されている。それを、見つけ出す。それが、苦しみを味方にする、唯一の方法なのであります。
❓ 朝礼で使える3つの問いかけ
1. 過去の苦しみの中で、後から「意味があった」と感じられたものは、ありますか?
2. 今、あなたが最も苦しんでいることは、何ですか?
3. その苦しみは、あなたに何を教えようとしていますか?
✨ 今日の一行実践
「今日、苦しいことに出会ったら『これは私に何を教えているのか』と問い直す」
🔥翌日予告
明日は「失敗を恐れない〜本田宗一郎の「99%の失敗」〜」をお届けします。
