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【掌編】『魔法の解かれた先で』(第一話)

今日から新しい掌編小説毎日投稿していきます。
一話あたり1000字前後の読みやすいボリュームになっています📔
2025年の9月に投稿した『(改題)魔法よ解けないで』をプロローグとしています。
よければこちらからお読みください。

■マガジン『魔法の解かれた先で』


※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は、実在のものとは一切関係ありません。◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 第一話

 まだ舞踏会の余韻が残っていた。
 円卓に残る料理を給仕たちが手際よく片付けていく。それまでの光景をまるで見ていなかったかのように、淡々と静かな動きだった。

「殿下、とんだ災難でしたな」
 背後から声がして振り返ると、側近の筆頭であるヴァルドが立っていた。背筋はピンと伸び、すんと冷めたような目で真っすぐ城の大扉を見つめている。
「あの客人は……」
 その先を言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。このことはまだ私の内で留めておいたほうがいい。なぜかそう思った。

 手のなかにはまだ僅かな温もりが残っていた。
 一目惚れ……と呼ぶのが今となっては憚られるが、その女性は客人のなかでも群を抜いて美しかった。
 豪奢なシャンデリアの灯りの下でキラキラと輝くドレス。ふわりと長く伸びる亜麻色の髪。整った顔立ちはまるで彫刻のよう。
 ヴァイオリンとハープが奏でる優雅なワルツの調べのなかで、私は気づけば彼女に手を差し伸べていた。
 次第に夜も更け、時計の長針と短針がてっぺんで重なろうという頃、突然彼女は大きな叫び声をあげて、カーテンの後ろに身を隠した。
『近づかないで!』
 そう叫ぶ目には、よほど知られてはならない秘密が隠されているようだったが、私はどうすることもできず、ただ少し離れた所で見ていることしかできずにいた。
 しばらくして、女性は何かを決心したようにカーテンを引き裂き、頭を覆うようにかぶりながら走り去った。彼女の口から聞こえてきた叫びのような声は、とても嗄れた野太い男の声だった。

 大理石の床に目をやると、擦り切れた安物のゴムサンダルが片方だけぽつんと取り残されていた。あの女性、いや、あの男が脱ぎ捨てていったものだ。
 逃げ去っていく途中、カーテンに覆われたその顔が、月明かりに照らされてわずかに見えた。
 皺だらけの顔。薄くなった髪。涙で歪んだ目。遠い昔に置き忘れたあの顔。

 ――父さん!

 私は思わず叫んでいた。なぜそんなことを口走ったのか、自分でも分からなかった。あまりに不可思議な状況を理解できないまま、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 周囲では、貴族たちがざわめいている。
 何かの呪いなのではないか?
 きっと変装した盗賊だ。王子殿下に近づいて何を企んでいたのか。
 好き勝手な声が飛び交う。

 だがそんな雑多な声は、私の耳にほとんど入ってこなかった。
 逃げていく父の顔が脳裏に焼きついて離れない。かつてこの国の王だった男。とうの昔に失脚し、国から姿を消したはずの父。

 私はようやく震える指で、そのゴムサンダルを拾い上げた。まだ微かに熱が残っているように思えた。同時に沸々と怒りが込み上げた。
 ――何を今さらになって……。

掌編『魔法の解かれた先で』
 
第二話に続く


 第一話のご拝読
 ありがとうございます✨️

【次回の見どころ👀】
 ひょんなことからかつての王である父と再会してしまった王子。
 果たして彼はどのように父親と関わり合っていくのでしょうか。

📔第二話の更新は
5/26(火)19:30を予定しています。

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結城斗永|掌編小説・詩のようなものを書きます✍🏻 私の物語は皆様からいただいた一杯の珈琲の味。 よろしければ応援よろしくお願いいたします。