【世界はひとつの世界】第一章 ウタリ編丨第1話丨始まりの日
(あらすじ)
かつて人間・天族・魔族が一つの世界で暮らしていた。
魔族の王が世界を征服しようとした時、天族は力を8人の人間の戦士に託した。
8人は魔王を倒し、世界は天界・人間界・魔界に分かれた。
およそ1000年後。
力は人間界で転生し、日常に紛れている。
大岩を軽々と持ち上げる旅人、誰にも作れない武器を打つ鍛冶屋、日々平和に暮らす村人…彼らは自身が「8人」であると知らない。
なぜ今、力は目覚め再び集うのか。
答えは魔界の奥で脈打っている─────────

『おっ、旨そうなパン』
晴れた日のお昼時の市場。
金色短髪でガタイの良い若い男が香ばしい匂いに惹かれてやってきた。
『いらっしゃいませー。幸運のパンはいかがですか~?』
10代半ばくらいの女性店員が声をかける。
『へー。そんなのあるの』
『ええ、食べると運気があがるんですよ』
『おー、いいねぇ。おねーさんが作ってるの?』『そうです。以前は母と作ってたんですけど、病気で倒れてしまって…私が面倒をみてるんです』
『そうなのかー』
男はじっと売り物のパンを見つめている。
『じゃあー…全部ちょうだい』
『えっ?』
女性の顔には驚きと戸惑いが出ている。
『よ…40個くらいありますけど…』
『うん!全部!』
どうしようとアワアワしている女性に優しい微笑みを向けながら
『全部売れたら帰れるでしょ?今日くらいゆっくりしたら?』
『あっ、ありがとうございます!』
女性はいそいそと10本ずつ紙袋に入れていく。
『ああ、いいよいいよ、テキトーで』
ひょいっと袋を取り上げ、本来10本程しか入らない袋に無理やり押し込み、パンの隙間にねじ込んで紙袋の上にパンのタワーを作っていく。

『大丈夫ですか…?』
両手に抱えられた2枚の紙袋にはそれぞれ20本ずつパンが突き刺さっていた。
『よゆーよゆー』
ニカッと白い歯を見せ笑顔を返す。
『あのぉ…お釣りは…』
『いーよ、手ぇふさがってるし。それより今日はもう店じまいして、ちょっと遊んで来たら?じゃあまたね~』
『あっ…ありがとうございます!』
男は深々と頭を下げる女性に別れを告げ、市場の中心部に向かって歩いていく。

『んー旨そうだなー』
目の前のパンにガブッとかぶりつくと、器用に1本だけ引っこ抜いて斜め上を向きながらむしゃむしゃ食べていく。
しばらく歩いてツレの仲間を見つけたようだ。もうパンは半分になっていた。

『まーた剣なんか見てんのかー。好きだなぁ、使いもしねーのに。俺が教えてやろうか?』
そこには武器屋の軒先に立てかけられた売り物の剣をじーっと見つめる、黒髪をポニーテールでまとめたスラッとした青年がいた。
まるでそよ風が吹いただけのように動かない。
『それより旨いパン見つけたんだよ!ほれ!食ってみ!ほれ!ほれ!』

左手で2袋抱えて右手でパンを1本、青年の頬にぐりぐり押し付ける。
青年は無言だが、あからさまに顔をしかめてイラついている。
『ほれ!ほれ!』
しつこい男にイライラは簡単に限界を超えた。
『黙れ。殺すぞ』
パッとパンを手で払いのける。
『えー。旨いのに。勿体ねぇなぁ』
男は払いのけられたパンをそのまま自分の口にいれてモグモグする。
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