夜の買い物、朝のお弁当づくり

「明日からお弁当が必要らしいよ。」

そう言われたのは、昨日の夜。逸花(いつか)がふとした感じで言ってきた。僕は朝陽(あさひ)とお風呂に入っているときだった。
「やっぱりか」と心の中でうなずいた。給食がないからってことなんだろうけど、なんとなく「お昼どうするんだろうな」と思っていたのだ。やっぱり、だった。

「お弁当、パパが作るから」
そう言って、風呂の中で朝陽と顔を見合わせた。「一緒におかず、買いに行こうか」

お風呂から上がったら、もう夜の8時近くだったけど、僕と朝陽はちょっとワクワクしながら着替えて、スーパーに向かった。

「楽しいね」「お弁当楽しみだね」
夜の買い物は、ちょっとした冒険みたいだった。朝陽の目はきらきらしていて、まるで遠足の準備みたいだった。

買い物かごには、たこさんウィンナー、たまごやき、トマト、ブロッコリー、ミートボール、それから――パパ特製のおにぎりの材料。塩昆布、天かす、和風だし。朝陽が大好きな、僕の“いつものおにぎり”だ。
お弁当作りは僕の担当。逸花には「おれがつくるから」と宣言していた。こういうことは、ちゃんとやりたい。

そして今日の朝。会社に行く日だったから、家を出るのは6時。だから3時半に起きた。
まだ真っ暗な部屋で、そっとキッチンの明かりをつける。まずはごはんを炊く。そして自分のシャワー、朝のブログ執筆、e-ラーニングでの勉強。合間合間で、卵を焼いたり、ウィンナーを炒めたり。

洗濯機を回しておいたら、お弁当が完成するころにちょうど止まった。タイミングばっちり。洗濯物を干す手が、ほんのり温かい。まだ誰も起きてこない時間に、黙々と手を動かすのが、なんだか好きだ。

お弁当は、きっちり詰めた。ちゃんと写真を撮って、逸花にLINEで送る。「ちゃんとできたよ」
作ったお弁当は冷蔵庫に入れて、準備万端。6時ちょうどに家を出た。

明日も、明後日も、お弁当は続く。だから、今日のお弁当がどうだったか、帰ったら朝陽にちゃんと聞いてみようと思ってる。「量はどうだった?」「どれがいちばん好きだった?」
そんな小さなフィードバックが、きっと明日のお弁当をもっと良くする。

毎日が特別じゃなくてもいい。こういう日常が、僕の人生を楽しくさせてくれる。朝陽の成長とともに、僕の“お弁当物語”もきっと続いていくのだろう。

朝陽にとっては、小学校生活の始まり。ランドセルを背負って家を出ていく姿は、ちょっとだけ背伸びしてるようで、それでもまだどこか幼くて、かわいらしい。そんな朝陽が、新しい環境で、知らない子たちの中に入っていって、午前中を過ごして、そのあと学童でお弁当を開く。きっと心細さもあると思う。

だからこそ、「パパがつくったお弁当」が、少しでも安心感になったらいいなと思う。好きなおかずが詰まったお弁当を見て、ちょっと笑顔になってくれたら、それだけで僕の今日のすべてが報われる。

僕ができることは、きっとそんなに多くない。でも、その「少ないこと」を丁寧に積み重ねていきたい。おにぎりを握る手に、想いを込めて。朝陽の中に、「パパのお弁当、おいしかったな」「たのしかったな」っていう記憶が、いつか残ってくれたら嬉しい。

そしてまた、「またつくってね」って言ってもらえたら、それが僕のごほうびになる。

明日も明後日も、この日々が続いていく限り、僕の朝は、朝陽のために始まる。それが、僕のしあわせだ。


こうして始まった、パパのお弁当生活。
明日も、明後日も続いていくその5日間は、僕にとってかけがえのない“朝の物語”になった。

※この続きは、有料エピソード「パパ弁、しばしのお別れ」にて綴っています。
お弁当が終わる朝、娘と交わした小さな約束。よければ、もう少しだけお付き合いください。


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