「最初は“もらうだけでいい”」と言われた日——ギブ&テイクの先にある、本当の関係性

新卒の入社式が終わったあと、社内のSlackに一通のメッセージが流れてきた。

送り主は、とある役員だった。

内容は、新しく入ってきた新卒社員に向けたものだった。

形式ばった言葉ではない。
どちらかといえば、少しくだけた、でもまっすぐな言葉だった。

その中に、こんな一文があった。

「ギブ&テイクという言葉があるけど、最初はテイク&テイクでいい」

僕は、その一文を見たとき、少しだけ目を止めた。

そして、その続きを読んだ。

「そのうち、ギブできることが増えていって、ギブ&テイクになっていく。そして、その先には、またテイク&テイクになっていく」

さらに、こう続いていた。

「人の人生はそういうもので、世の中全体で考えたら、ギブとテイクのバランスがちょうどよくなっていくんだよ」

僕は、その文章を読み終えたあと、少しだけ考えていた。

——ああ、そうだよな。

素直に、そう思った。

僕は「ネクタイはお手本なのか」ということを考えていた。

その時に考えていたのは、形式ではなく、本質を見るべきだということ。
「社会人としてどう見えるか」ではなく、「社会人としてどう在るか」ということだった。

今回のこのメッセージは、その問いに、ひとつの答えをくれているような気がした。

「ギブ&テイク」

よく聞く言葉だ。

誰かに何かをしてもらったら、何かを返す。
価値の交換。
公平な関係。

一見すると、とても健全な考え方に見える。

でも、この言葉は、ときに人を縛ることがある。

「何かをしてもらったから、何かを返さないといけない」
「返せるものがない自分は、価値がないのではないか」
「まだ何も提供できていないのに、ここにいていいのだろうか」

特に、新卒や若手の頃は、そう感じることが多い。

何もできない自分。
役に立っていない自分。
もらってばかりの自分。

そんな自分に対して、どこかで負い目を感じてしまう。

僕自身も、そうだった。

最初の会社に入ったとき、右も左もわからなかった。

専門的な知識も足りない。
仕事の進め方もわからない。
周りの人たちは、みんなできる人に見えた。

自分だけが、何もできていない気がした。

先輩に教えてもらう。
上司にフォローしてもらう。
ミスをして、誰かに助けてもらう。

気づけば、「もらってばかり」だった。

そのたびに思っていた。

——自分は、何を返せているんだろう。

でも、正直に言えば。

何も返せていなかったと思う。

だからこそ、この言葉は、少しだけ救いのあるものに感じた。

「最初は、テイク&テイクでいい」

この言葉は、「甘えていい」という話ではない。

「努力しなくていい」という話でもない。

むしろ逆だと思う。

最初は、受け取るしかできない。

だからこそ、ちゃんと受け取る。

教えてもらうこと。
助けてもらうこと。
機会をもらうこと。

それを、遠慮せずに受け取る。

そして、その中で少しずつ、「自分にできること」が増えていく。

最初は、挨拶かもしれない。
次は、頼まれたことをやりきることかもしれない。
その次は、自分から動くことかもしれない。

できることが増えていくにつれて、自然と「ギブ」が生まれてくる。

無理に返そうとしなくても、結果として返せるようになる。

だから、「最初からギブしよう」としなくていい。

ここが、すごく大事なポイントだと思う。

人は、「返さなければならない」と思うと、少し無理をする。

まだできないことを、できるふりをする。
本当は理解していないのに、わかったふりをする。

でも、それは長く続かない。

むしろ、「ちゃんと受け取る」ことのほうが、難しい。

受け取るというのは、自分の未熟さを認めることでもある。

「まだできません」
「教えてください」

そう言うことには、少し勇気がいる。

でも、それができる人のほうが、結果的に伸びていく。

そして、役員の言葉は、さらに先の話をしていた。

「その先には、またテイク&テイクになっていく」

ここが、とても面白いと思った。

普通に考えれば、「テイク&テイク → ギブ&テイク」で終わりそうなものだ。

でも、その先に、またテイク&テイクがあるという。

これは、どういうことだろうか。

僕なりに解釈すると、こういうことだと思う。

ある程度成長して、自分がギブできるようになる。

誰かに価値を提供できるようになる。

でも、その状態で終わるわけではない。

また別の環境に行けば、自分は「テイクする側」になる。

新しい領域に挑戦すれば、また教えてもらう側になる。

人生は、ずっと同じ役割ではない。

ある場所では、与える側。
ある場所では、受け取る側。

それが、繰り返されていく。

だから、長い目で見れば、「テイク&テイク」の状態は何度も訪れる。

そして、それが全体としてバランスしていく。

この考え方には、どこか安心感がある。

「今、自分はもらってばかりだ」と感じている人にとっても。

「ちゃんと返せているのか」と不安になっている人にとっても。

時間軸を長く取れば、ちゃんとバランスしていく。

そう思えるからだ。

僕は、この話を聞きながら、「お手本」という言葉を思い出していた。

ネクタイをつけることが、お手本なのではない。

同じように、「最初からギブできること」が、お手本なのでもない。

むしろ。

ちゃんと受け取れること。
ちゃんと学べること。
ちゃんと未熟でいられること。

それらのほうが、よほど大事なのかもしれない。

社会人としてのスタート地点に立ったとき。

僕たちは、「何かをしなければ」と思いがちだ。

でも、本当は。

「ちゃんと受け取ること」から始まるのかもしれない。

そして、その積み重ねが、いつの間にか「ギブ」に変わっていく。

無理に背伸びをしなくてもいい。

無理に返そうとしなくてもいい。

ただ、そのときの自分にできることを、ちゃんとやる。

それだけでいいのだと思う。

スマートフォンの画面を閉じながら、僕は少しだけ肩の力が抜けた気がした。

きっと、新卒の頃の自分がこの言葉を聞いていたら、少しだけ楽になっていたと思う。

そして今。

人事として、誰かのスタートに関わる立場になった僕は、この言葉を、ちゃんと伝えられる側でありたいと思った。

「最初は、テイク&テイクでいい」

それは、甘えではなく、スタートの在り方だ。

そして、その先にあるものは、誰かに決められるものではなく、自分の時間の中で、少しずつ形になっていくものなのだと思う。

そして、もうひとつ、この言葉を聞いていて思ったことがある。

それは、「人生の終わり」に近づいたときのことだ。

人は、年を重ねていく。

若い頃は、受け取ることが多い。
少しずつできることが増えて、与える側になっていく。
そして、また新しい環境に入れば、再び受け取る側になる。

そんな循環を繰り返していく。

でも、そのさらに先。

もっと時間が経った先には、どうなるのだろうか。

身体が思うように動かなくなる。
これまで当たり前にできていたことが、できなくなる。
誰かの助けがなければ、日常を過ごすことが難しくなる。

そのとき、人はまた、「テイクする側」になるのかもしれない。

食事を用意してもらう。
移動を手伝ってもらう。
話し相手になってもらう。

それは、ある意味で、「テイク&テイク」の状態に見えるかもしれない。

でも、それは本当に、「何も返していない状態」なのだろうか。

僕は、そうは思わない。

その人が、これまで生きてきた時間。
誰かに与えてきたもの。
積み重ねてきた経験や関係性。

それらは、目に見えない形で、確かに周りに残っている。

今、受け取っているものは、過去のどこかで、自分が与えてきたものとつながっているのかもしれない。

そう考えると、「ギブ」と「テイク」は、その瞬間だけで切り取れるものではないのだと思う。

時間をまたいで、ゆっくりと循環していくもの。

だからこそ、ある瞬間だけを見て、「もらってばかりだ」とか、「ちゃんと返せていない」と感じる必要はないのかもしれない。

人生という長い時間の中で見れば、そのバランスは、どこかで自然と整っていく。

あの役員が言っていた、「世の中全体で考えたら、ギブとテイクのバランスがちょうどよくなっていく」という言葉は、きっとそういう意味なのだと思う。

今、自分がどちら側にいるのか。

それを気にしすぎるよりも、そのときの自分にできることを、ちゃんとやる。

受け取るときは、ちゃんと受け取る。
与えられるときは、自然と与える。

それを繰り返していくことが、結果として、誰かとの関係をつくり、社会の中でのつながりを生んでいくのだと思う。

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