学生のニーズに合わせた採用活動が重要——そんなの、当たり前じゃないか
「学生のニーズに合わせた採用活動が重要です」
そんな一文が、業界ニュースの見出しに並んでいた。まるで何か新しい発見かのように書かれていたけれど、僕の心はまったく動かなかった。
いや、正確に言えば、「そんなの、ずっと前から分かってることじゃないか」と、少し苛立ちすら覚えた。
2026年卒の学生のインターン参加率が85%を超え、平均参加社数が5社を超えた——
そんな数字が並ぶ記事を見ても、驚きはしない。
僕はここ十年以上、人事として採用の現場を見てきた。どの年も「売り手市場」「学生の動きが早い」「内定が早まっている」と言われ続けてきた。しかし、ふたを開けてみれば、企業がやっていることはほとんど変わらない。
・説明会を開き、
・エントリーシートを集め、
・面接をして、
・内定を出す。
この流れに「学生のニーズを反映させた」と言っても、それは単に「オンライン面接を取り入れました」とか「早期選考を始めました」といった表層的な対応にすぎない。
僕が言いたいのは、「それは“合わせた”うちに入らない」ということだ。
記事では、「学生の負担を減らす柔軟な対応」が採用成功のポイントとして挙げられていた。確かに、長時間拘束の選考や、何度も同じ説明をさせるような面接は、今の時代に合わない。でも、学生のニーズに合わせるとは、彼らを“甘やかす”ことではない。
本当の意味で寄り添うとは、
「学生がこれから社会でどう生きたいのか」
「どんな仕事で自分を活かしたいのか」
——その問いを、一緒に掘り下げることだ。
学生が「就活の軸」を語るとき、それは多くの場合、「受け売り」か「安全策」だ。
「人の役に立ちたい」
「成長したい」
「チームで働きたい」
——聞き飽きた言葉が並ぶ。
でもその奥には、言葉になっていない“本音”がある。
「人に迷惑をかけたくない」
「失敗したくない」
「親を安心させたい」
「居場所を見つけたい」
人事として向き合うべきは、その奥底だと思っている。「学生のニーズに合わせる」という言葉の本質は、彼らの“表面的な要望”ではなく、“内側の願い”を理解することにある。
僕は人事を「教育職」だと思っている。採用活動の本質は、「選ぶこと」ではなく、「育てること」だ。
もちろん企業にとっては、採用は経営課題だ。人手不足の中で、限られた予算で、成果を上げなければならない。でも、だからこそ“選別”ばかりに力を入れてはいけない。
人事が学生と向き合う時間は、企業が“教育機関”になる瞬間でもある。
「働くとは何か」
「組織で生きるとはどういうことか」
それを伝える機会なのだ。
にもかかわらず、採用現場の多くでは、「見極め」と「効率化」が最優先されている。AI面接、動画選考、SPIの自動判定——便利だ。でも、便利さの裏で、「人と人との対話」がどんどん削られている。
僕は何度も見てきた。
「優秀な学生」を採ったつもりが、入社半年で辞めていく光景を。その原因の多くは、能力のミスマッチではなく、「価値観のすれ違い」だ。
「学生の価値観を理解したい」と言いながら、企業が行っているのは“想定問答集”のやり取りにすぎない。
「学生時代に頑張ったことは?」
「なぜ当社を志望しましたか?」
「10年後どうなっていたいですか?」
この質問で見えるのは、“準備された回答”だ。たとえば学生が「チームで一つの目標に向かって頑張った経験があります」と言えば、企業は安心する。でも、本当に見なければならないのは、「その経験のどこで苦しみ、何を学んだのか」だ。
ある学生が面接でこう言った。
「私は野球部のマネージャーとして、チームの裏方を支えていました」
企業側は「協調性がある」と評価した。でも、深く話を聞くと、彼女は“誰にも頼れず一人で抱え込む癖”があった。本当に見るべきはそこだ。
採用とは、学生を評価することではない。
「どうすればこの学生が社会で輝けるか」
それを一緒に探すことだ。
最近では「職場体験型インターンシップ」が注目されている。たしかに良い傾向だと思う。けれど、「就業体験が大事」なんて、今さらブームにすることじゃない。
僕が新卒で社会に出た十数年前、インターンなんてほとんどなかった。でも、アルバイトやゼミ活動の中で“仕事の意味”を学ぼうとしていた学生はたくさんいた。「実務を通じて学ぶ」という考え方自体は、昔から変わっていない。
違うのは、企業側がその“教育的機会”を真剣に設計してこなかったということだ。「うちもインターンやってます」と言って、実際には1日で終わる会社説明会を“体験型”と呼ぶ。学生もそれを分かっているから、「とりあえず参加」になる。
本当に意味のある体験は、“リアル”と“対話”の中にしかない。
「自分の判断で動き、失敗して、振り返る」
その繰り返しが、キャリアの基礎をつくる。
採用活動で最も差が出るのは、実は“内定後”だ。内々定を出したあと、どれだけ学生と向き合い続けられるか。そのフォローが“企業の本気度”を物語る。
ところが、採用人数のノルマを追うあまり、「内定を出したら終わり」となる企業が少なくない。学生の側から見れば、そこに“温度差”を感じる。結果、辞退率が上がる。
企業は「学生の意識が変わった」と言うけれど、実際には「企業が人として向き合わなくなった」だけのことだ。
僕が人事として信じているのは、採用とは「関係の始まり」であって、「契約の終わり」ではない、ということ。
採用活動は、恋愛に少し似ている。出会いがあって、惹かれ合って、付き合って、結婚する。その関係を続けていくためには、“誠実さ”と“信頼”が欠かせない。
学生が辞退するのは、待遇の問題だけじゃない。「この会社に自分を委ねても大丈夫か」という信頼が育たなかったからだ。誠実に向き合う企業は、たとえ採用人数が少なくても、長く愛される。
採用の成否は、広報の上手さでも、面接スキルでもない。
「この会社がどんな未来を描いているか」
これだ。
学生は敏感だ。
経営者の言葉に“熱”があるかどうか、すぐに見抜く。現場社員の表情から、組織の空気を感じ取る。企業の採用ページを読めば、「言葉の薄さ」も見抜く。
だから僕はいつも伝えている。
採用は経営だ。
理念や戦略、文化や人の在り方——そのすべてが“採用という鏡”に映し出される。
小学一年生の朝陽(あさひ)が、最近よく言う。
「パパのおしごとって、ひとをえらぶおしごとでしょ?」
そのたびに、僕は首を横に振る。
「ちがうよ。人を“見つける”仕事だよ」
人を選ぶんじゃなくて、その人の中にある“可能性”を見つけること。それが、僕の思う人事の仕事だ。
朝陽がサッカーで新しいポジションに挑戦したとき、最初はうまくいかなかった。でも、少しずつ自分の役割を理解して、仲間と連携できるようになっていった。
その姿を見ながら、僕は思った。
——採用も育成も、結局は同じだな、と。
相手の今の姿だけを見て判断してはいけない。
そこにある“伸びしろ”を信じて関わること。
その関わりの中で、未来を共に描くこと。
それが「学生のニーズに合わせた採用」という言葉の、本当の意味なんじゃないかと思う。
「学生のニーズに合わせた採用活動が重要」——
それは今に始まった話じゃない。ずっと昔から、変わらない真理だ。
けれど、それを“本気でやり続ける”企業は、驚くほど少ない。だからこそ、これからの採用には“誠実さ”が問われる。
AIでも、制度でもなく、最後に人の心を動かすのは「人の温度」だ。
採用とは、未来への投資であり、信頼の物語。そして何より、人と人とが出会い、共に成長していくための——“教育”のはじまりなのだ。
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湯鶴の裏方より
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採用、評価、育成、退職——組織のなかにある“決断の裏側”と、“目の前の一人”との対話を、物語として丁寧に描いています。
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