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【短編小説】無双ラノベ作家の俺が異世界の雨を紡ぐ

「うわぁマジやっべぇ!」

俺、安藤シンジ、28歳。売れっ子ラノベ作家。

新宿の超大型書店に飾られた等身大パネルを見上げて声が出た。自分の顔がドーンと印刷されてる光景。何度見ても慣れない!

パネルの横には『転生したら最強魔導剣士になったけど実は勇者の生まれ変わりで世界を救う使命を背負わされた件について』(通称:転魔剣)最新刊のカバーイラスト。

銀髪の主人公・リョウが右手に伝説の剣ルミエルブレイド! 左手には古代魔導書「七彩の叡智」! 決意の表情で敵を睨みつけてる!

「これ俺が作ったキャラなのに、俺よりカッコいいな…」

安藤は思わずニヤリ。シリーズ累計一千万部突破! アニメ化決定! グッズ展開も好調!

「安藤せんせぇ! サイン会はじまりますよー!」

出版社の広報担当・佐々木(25・女)の声に我に返った。超絶可愛いけど仕事は鬼。スケジュール管理の権化だ。容赦ない進行力、ある意味魔王。

安藤は急いでエスカレーターを駆け下りた。特設ステージへGO!

ファンの列は店の外まで伸びてる。みんな安藤の姿を見つけるとキャーキャー言いながら手を振ってきた。

「キャー!安藤先生ー!」
「まじ神!」
「サインください!」

安藤は満面の笑み。手を振り返す。この三年間、人生まじジェットコースター状態。

元編集プロダクション勤務の平凡リーマンだった彼が、趣味で書いた小説がいきなり大ヒット。今や専業作家!

「安藤先生!次巻ではリョウとエルフのセリアが結ばれるんですか!?」
「リョウの実の父親は魔王なんじゃないですか!?」
「先生のおかげで人生変わりました!」

質問と感想の嵐。安藤は一つ一つに丁寧に答えた。サイン会は予定の二時間を軽く超過。
右手がプルプル震えるほど疲れたけど、笑顔は崩さない。これ、プロの意地ってやつ。


「おつかれさまでした~!今日は打ち上げいきましょう!」

担当編集の村山(34・男)が安藤の肩を叩いた。痛え、コイツ、力だけは強いんだよなぁ。
「銀座の高級鉄板焼き予約してありますよ!」

安藤は頷いた。でも胸の奥に何か引っかかるモノがある。この成功を素直に喜べない。なぜ?

「シリーズ十巻目だし、そろそろ次の展開も考えましょ〜!」
佐々木はニッコリ。コイツ、顔だけはマジ可愛いんだよなぁ。あと巨乳だし。

「次回は、魔王を倒した後の世界再建編でしたっけ? でも、アンケートじゃ九割が『王になってハーレム完成!』って出てますよ!」
村山、コイツマジ声デカい。

安藤は微笑んだ。けど内心では息苦しさを感じていた。物語の行方は、もう自分の手を離れているような気がする。


打ち上げの帰りに大雨が降ってきた。マジかよ。

コンビニで傘を買って歩いていると、路地裏の小さな古書店が目に入った。『時の葉文庫』。看板がほのかに光っている。何となく足を向けてみる。

店内は予想以上に広い。古い本の香りがする。

安藤は文学フロアをぶらぶら歩いていた。すると、一冊の本が目に留まった。

『速すぎる世界と壊れた対象』著・高橋光輝

表紙はシンプル。ただのタイトルと作者名だけ。こんなんじゃ売れないよ。
帯には「加速する現代に問う、存在の重さ」とだけ書かれている。何気なく手に取り、最初の数行を読んだ。

「物語は常に、その語られる速度と同じだけの真実しか持たない。」

思わず立ち止まった。なぜだろう、この一文が胸に刺さる。

レジで会計を済ませ、アパートに戻った安藤は、一気に読み通した。

「マジでこれ、ヤバくない?」

高橋の小説には不思議な力があった。「売れる」ための技巧じゃない。言葉そのものが持つ重みを感じた。

あとがきには小難しい哲学者の名前がずらっと並んでた。バルトとかアドルノとか、聞いた気もする。ヴィリリオ?ブラウン?誰それ?でも、気になる。


翌朝、安藤は予定通り新シリーズの構想を編集部に送った。でも、心はどこか別の場所にいた。

パソコンの画面に向かい、いつものように主人公が無双する展開を書く。でも、高橋の文章が頭から離れない。

「言葉は、それが生まれた時間の証人になる」か…。

夜、安藤は再び『速すぎる世界と壊れた対象』を手に取った。二度目に読むと、さらに奥が見えてくる。

小説の主人公は修理工場で働く男だった。デジタル社会の中で、モノを修理する仕事。その対比がすごい。

「俺、実は同じことしてたのかも」

加速する消費のために、言葉という物質を軽やかに使い捨てるように書いていた。


一週間後の夜。

「よっし、書くぞ」

安藤は起きていた。パソコンには、いつもと違う文章が綴られていた。

「物語は、それを書く理由と同じだけの命しか持たない」

朝日が窓から差し込んでいた。目は充血し、体は疲れていた。

けれど心は不思議な充実感に満ちていた。
それが、本当の創作なのかもしれない。

「村山さん、『転魔剣』は予定通り書くよ。でも、別の小説も書いてみたい」

担当編集の村山は少し首を傾げた。「どんな感じの?」

「ラノベとは少し違うものを」

村山は黙って安藤を見た。「安藤先生のファンは今のスタイルを求めているんですよ」

「わかってる。でも…」

言葉に詰まる安藤。言いたいことはたくさんあるのに、うまく説明できない。

「まあ、趣味程度なら」と村山は肩をすくめた


二ヶ月後。

安藤は小さな文芸誌に短編小説を発表した。自分の名前で。

反応は静かだった。けれど、一人一人の感想が深い。

数は少ないが、胸に響く声。


ある雨の日、安藤は小さな文学フェスに招かれた。

会場の片隅に、一人の男性が本を手に立っている。安藤ははっとした。高橋光輝だった。

窓から漏れる青白い光が、彼の横顔を照らしていた。

「あなたの短編を読みました」と高橋は言った。

安藤は言葉を探した。「僕は…高橋さんの本を読んで、何かが変わったんです。今までは売れることだけ考えてて…」

雨音が窓を打つ。ふたりの間に沈黙が流れる。

高橋はゆっくりと口を開いた。「ラノベも純文学も、言葉の可能性は同じです」

淡い光が彼らの輪郭を柔らかく縁取る。

「速く消費される言葉も、ゆっくり熟成する言葉も、どちらも大切なんです」高橋の目が静かに輝く。

「大事なのは、心に届く真実があるかどうか」

安藤は窓の外を見た。雨粒が光の中で輝いていた。速いものも、ゆっくりなものも、やがては同じ地面に到達する。


それから季節が巡った。

安藤真司は二つの物語を書くようになった。

出版社からの帰り道、傘の下で考える。

言葉は、それを語る速さと同じだけの真実しか持たない。

けれど、言葉を受け取る心は、時に作者の意図を超えて物語を育てる。

デスクの上の二つの原稿。

どちらも彼自身の言葉。

どちらも彼自身の真実。

(了)


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