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カールマルクスが渋谷に転生した件 32 西野、二刀流を決断する(前)

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西野、モテモテ

「共和民主党からも、社会党からも、そして新未来党からもオファーがきています」

帝都大学の研究室。午後の定例ミーティングの終わり際、西野の唐突な一言に、空気が凍りついた。

「えっ!?」
さくらが思わず立ち上がる。
「全ての主要政党から!?」

「おお、なんと!」
マルクスは髭を激しく震わせながら、珈琲をこぼしそうになる。
「都知事選での『敗北』が、逆に君を時代の寵児に...」

「皮肉なものですよね」
西野は穏やかに微笑みながら、朝刊の自分の写真入り記事を指さす。
『環境経済学者・西野草次氏に各党からラブコール —都知事選で見せた「新しい環境政策」に注目集まる』

「共和民主党は環境政策局の局長職。岩部首相直々のオファーだそうです」
西野は淡々と続ける。
「国民共産党からは次期衆院選の目玉候補に。新未来党は政策顧問として...」

「なるほど。あれだけの支持を集めたのだから、当然であろうな」
マルクスが眉をひそめる。

「特に、若者の支持が大きいです」
さくらがスマートフォンをスクロールしながら答える。
「特に環境政策に関する西野先生の主張。SNSで『リアルすぎる』と話題になって...」

「で、先生はどうするんですか?」
さくらの声に、わずかな不安が混じる。

「もちろん、全て断りました」
西野の言葉に、部屋の空気が変わる。

「しかし本当に良かったのか」マルクスが身を乗り出す。「政策決定の場に入れば、より大きな...」

「違うんです」西野は首を振る。「私がやるべきことは、ここ、大学と共創体にある」

「両方、ですか?」さくらの目が輝く。

「ええ」西野はゆっくりと説明を始める。「私たちが都知事選で見せたのは、理論と実践の新しい結びつき方でした。大学での研究を、現実の運動に直接つなげる。そして運動の経験を、また理論に還元していく」

「まさに弁証法的な...」マルクスの髭が誇らしげに揺れる。

「既存の政党に入って、少しずつ変えていく」西野が続ける。「それも一つの選択肢でしょう。でも今、私たちに必要なのは、もっとラディカルな知と実践の場を作ることなんです」


西野、辛辣

「それを証明するかのように」西野がPCの画面を向ける。「岩部首相と中池都知事の演説、実に興味深かったですよ」

画面の中の岩部首相が爽やかに語りかける。
「我々は、新しい資本主義のもと、新たな新しさを追求することで、環境にも優しい成長を成し遂げてまいります」

続いて中池都知事。
「DXによるデジタルトランスフォーメーション化で、グリーンな環境改革を実現します」

「言葉の空虚さに驚きますが」西野が静かに言う。「もっと深刻なのは、この二人の政策の本質です」

彼はタブを切り替え、文部科学省のプレスリリースを表示する。
『研究開発優先領域の戦略的選定—環境技術イノベーション加速に向けて』

「基礎研究費は削減される一方で」西野が説明を続ける。「短期的な成果が見込める応用研究、特に企業との連携案件には潤沢な予算が...」

「ピケティの警告したr>gが」マルクスが身を乗り出す。「知識の領域でも進行しているというわけか」

「その通りです」西野が頷く。「資本収益率が経済成長率を上回る状況は、知の世界でも起きている。即効性のある技術開発には資金が集中し、原理的な研究や批判的な理論は『非効率』として切り捨てられる」

「まさに知識の収奪...」さくらが呟く。

「でも、それだけじゃないんです」
西野は別のニュースを開く。
『気候危機対策—グリーンイノベーション基金の創設へ』

「ナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン』で指摘したように、危機は常に新自由主義的な改革の口実として使われる。環境問題という人類の危機さえも...」

「クラインの理論を簡単に説明すると」
西野がホワイトボードに向かう。
「危機や災害が起きた時、人々がショックで混乱している間に、普段なら通らないような改革を強行する。彼女はこれを『ショック・ドクトリン』と呼びました」

「具体的には?」さくらが聞く。

「例えば」西野がマーカーを取る。「気候変動による災害が増えていますよね。その度に『緊急対策』として、環境関連予算が組まれる。でも、その中身を見ると...」

彼は箇条書きを始める。
- 大企業向けの技術開発補助金
- 規制緩和による開発の促進
- 市場原理による環境対策

「表向きは『環境対策』なのに」西野が振り返る。「実際は大企業支援と規制緩和。しかも『緊急事態だから』という理由で、議論も不十分なまま決まっていく」

「なるほど」マルクスが髭をいじる。「危機に乗じた、資本による収奪というわけか」

「そう。岩部首相の『グリーン成長戦略』も、まさにその典型です」
西野は再びPCの画面を指す。

「環境省と経産省の予算配分を見てください。環境規制の予算は削られる一方で、『グリーン技術開発』という名目の企業補助金は増える一方」

「でも」さくらが首を傾げる。「環境技術の開発って、必要なんじゃ...」

「ええ、もちろん」西野が頷く。「でも、今の政策には決定的に欠けているものがある。それは...」


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