張替日記|愛ある修理とは何だろう ~チェスカチェアの張替
連載「椅子と手のひら張替日記」
時に、どうしても衝動が止められない時がある。古い生地のその下に原型が隠されている椅子たち。使う人によって仕様が様々変わっていくことは決して悪いことではないけれど、どこかで椅子の声がする。
椅子を引き取りに来られた際に、完成を見てもらって、
「持って来ていただいた時とはデザインを勝手に変えちゃったんだけど、
こっちの方が絶対いいと思って…申し訳ないです…」
もじもじと謝ると、
「そういうことろ、信頼しているから!」
お客様はそう言って、とても喜んでくれた。
持って来ていただいた際の椅子は、元のデザインから一度修理らしき手がほどこされていたのだけれど、
ポツリ
「愛のない修理だよね…」
とつぶやかれていたのだ。
チェスカチェアの張替
チェスカチェアとは、
マルセル・ブロイヤーが1928年にデザインした、カンチレバー構造が特徴のモダンデザインの椅子のこと。
一筆書きのようにスチールパイプを曲げた形をしている。
カンチレバーとは「片持ち」、つまりは片側だけで全体を支える構造のこと。
前脚2本によるスチール製カンチレバータイプにすることで、強度と弾力性を兼ね備えさせた。黒く塗装した木製フレームと肘掛け、背と座の籐編みなどによって、スチールの冷たさを和らげている。
この椅子は、デザイナーのマルセル・ブロイヤーが特許を取らなかったことから、さまざまなリプロダクト品が販売されている。
こんな感じの椅子です⇩

籐が所々割れている



チェスカチェアの張替(マルニ木工)
今回の本題はこちら。

分解した状態の写真を撮り忘れてしまったのだけれど、別の写真でご想像頂いて、

座面はこちら⇧の写真のように、籐シートが破れてしまっているうえに、ペラっとウレタンをのせて生地を張っているだけだったのです。
張替前の写真では、問題なさそうに見えるのだけれど、座るとお尻が落ち込んで何とも座り心地が悪い。下張り代わりにしている籐が破れているから当然と言えば当然なのだけど。修理というよりはただ、隠したという事だろうか。
作業に取り掛かり生地を剥がしてみると、前回の修理は椅子張り屋ではなさそうな簡素さが功を奏してか(接着剤吹いてないとか)、フレームはさして問題なく、何よりもマルニ木工社のロゴが出てきたのだ。
前述の通り、チェスカチェアはリプロダクト品が色々なところで作られている。
その中でも日本の名のあるメーカーがその昔作った椅子だというのはとても感慨深く、このロゴを見せておきたいと思ってしまったのだ。
マルニ木工社のホームページでロゴの種類・年代が載っているので、参考までに。
お客様の要望は、ご自身が経営する飲食店のカウンターで使いたいという事で、テーブルの高さに合わせて、シートハイを上げてほしいという。
それも結構上げないと高さが合わないかも…。
張替前の写真のように張りくるんでしまうのならば、分厚いウレタンを乗せてマチをつけて縫製すれば、特に考えることもなく難しい作業ではないのだけれど…
お客様が選ばれた生地、このロゴ、本来のチェスカチェアの姿、構造、要望…
色々が頭の中を駆け巡って、こんな作業と仕上がりになりました。

籐芯がはまっていた溝をまた使いたいため、板の縁はトリマーで角度をつけて面取りしています。

籐から板、硬めのチップウレタンを使うことで沈み込みを少なくし、
シートハイを上げることが出来る。



溝で針を打つため、生地を溝に落とし込む。そのためのミニしゃもじがマイブーム。


本来は、この黒枠の部分がシートハイになるので、座った感じで35mmくらいは高く出来た。



ピンクがいいと選んでくれたこのモケット生地。
座面を厚くした時、この生地で全体を張りくるむよりも、この座面の黒い縁が見えていた方がいいのではないか、その方がチェスカチェアらしいのではないか…
どうしてもそう思えてならなかった。
今でも、これがとてもかわいいと思っているし、お客さんも「とても気に入った!」と結果的にはおっしゃってくださったけれど、
そもそも、お客様の椅子ですから、「勝手に何してくれとん!」と社長の自分には怒られるわけです。
「打ち合わせでは分厚くするならマチつけて縫製しようか、言うてたやないかい。」と。
打ち合わせの時では、このように出来ると言い切れるほどの自信がなかったのです。
6脚全部その場でめくるわけにもいきませんし。いや、めくったらよかったか…
何度か張替に来てくださっているお客様なのでエイッと挑戦させて頂きましたが、滅多にこんなことはしませんから!
もちろん、はじめましてのお客様にはちゃんと説明します。
変更するなら、目に見えてわかることは事前に必ず許可を取ります。
打ち合わせでは「もういいから!」って言われるまで、しつこく生地を見せたり、説明したり。
もっと話聞きたいんだけど、いつも私しつこすぎるだろうか?というのもちょっと気にしていたりもするくらいなんです。
椅子をお持ち頂く時は、ぜひお時間に余裕を持ってご来店くださいませ。
(※ご来店は予約制です。)
いいなと思ったら応援しよう!
古い椅子を張り替えて展示販売する「座と輪のコイス展」の開催に使わせて頂きます。宜しくお願いします!