張替日記|椅子張り資格試験課題の技術を使って張り替える ~丸スツールの張替
連載「椅子と手のひら張替日記」
その昔、親方とケンカした。
椅子張りには国家資格がある。
試験に通らなければ営業できないという決まりはないし、資格を持っているから何かメリットがあるってわけでもなんでもないんだけど、自己肯定感の低い私としては、何かちゃんとしたものに認められているというバックヤードが欲しかった。
親方に、「国家試験を受けたい」と申し出たのだ。
「必要ない。」
一蹴された。親方はちゃんと理由を説明してくれるのだけれど、やりたいやりたいの若造だった私は納得できない。
「だって親方は資格持ってるじゃん!」(←私ってば生意気なんです汗)
そんな押し問答。
親方の言っていることは、まさしくその通りで、
国家資格の技能試験課題の技術は、現状近年の椅子張り実務で使う事はほぼ無いに等しい。だからこそ練習が必要だし、試験を受けるにはお金もかかる。たくさん練習しても、その後それを発揮できる実務が無いのだ。
結局、私は独立してから自ら試験を受けに行き、めでたく家具製作技能士(椅子張り作業)1級の国家資格を取得したわけだけど、普通に椅子張り業していたって、そうそう使うことのない技術。
1級持ってます!っていう宣伝も特にしていないし、職人仕事は、資格よりも年数や実績の方が営業効果が高いとも思っている。
それでも、試験を受けてよかったなと思うことは、作業における時間の使い方や効率、精度における考え方を学んだり研究したり、自己確認できたことだ。同じ作業を同じ時間内で、みんなが取り組んでいるというのも新鮮だった。会社では基本的に分業か、全く違う椅子を各々が取り組んでいたから。
椅子張り職人と呼ばれる人たちが、どんな風にやっているのか、
それだけで、試験を受けてみてよかったなと思ったわけだけど、
まさか、そんな技術を実際に仕事の依頼で使う日が来るとは思ってもいなかったわけです。
丸スツールの張替

何度かお家の椅子やソファを張り替えに来てくださったお客様が、今度はスツールを直したいとご来店。
簡単そうに見えるこのスツールの張り替えなんだけど、真ん中が凹んでいるから珍しくバネなのかなと思って剥がしてみる。
普通は丸い板の上にウレタンが乗っているだけなんだけど、

こんなことって、あるのね、という思いと
初めてみる作り。
こんな短いSバネ(波バネ)みたのは初めてだ。
お客さんはしっかり修理して欲しいという要望で、資格試験を受けた時のスツールを見せると、そのようにして欲しいとのことだったので、
先ずは、板から作り直す。
バネを吊るためには、そもそも土台がちゃんとしていなければならないから。


この外枠の鉄芯をまっすぐから丸くするのも、どうしようかと考えて、




ちょっと細かいし専門的だし、写真撮り忘れるし、さして見栄えしないので、ガーッっと色々省略しているけれど、
何が難しいって、張り替え依頼のスツールは2つ。
2つを揃えるってこと。
ウレタンを丸い板にボンとのせるだけならば、同じものを量産することはとても容易い。
けれど、バネの吊り方から始まり、パームと呼ばれる詰め物を入れる時は全て手作業だ。その高さやテンション、量や入れ方、綴じ方で、形が変わってしまう。
ではなぜ、そこまでしてバネを吊るのか。
ウレタンだけのものとバネを吊って加工したものと、見た目は同じように加工できるけれど、座ってみるとその印象はだいぶ違う。
でも、残念ながら座ってみなければ、使ってみなければ、比べてみなければ、その理由は何もわからない。


「しっかり直したい」
「長く使えるように直したい」
そんなお客様のお気持ちに添えたことはとても嬉しかった。
もしかしたら、
「このために私は試験を受けたのかもしれないな」とさえ思えた今回の張り替え。
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