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張替日記|戦時中から続く椅子の物語 ~小椅子の張替

連載「椅子と手のひら張替日記」

ふと入り口前に車が止まり、お隣さんかなと思っていたら、荷台から椅子を降ろしていたので、あれれ?と思い、扉を開けてみると、以前、張り替えをしてくださったお客様がまた別の椅子を持って依頼に来られたのでした。

なかなか人の顔と名前が覚えられないのは、私の短所でもあるけれど、
どんな椅子か言ってもらえれば、フラッシュバックするかのようにありありとその椅子が思い出せるのは、私の長所でもある。

今回もそう。

「緑色のモケットで・・・」
「あ、この椅子ですか?(写真を見せる)」

張り替え後の椅子

約3年前、やけに古い椅子をお持ちの若いご夫婦だな、と思っていたのだけれど、今回その椅子についてのお話を聞かせて頂くことが出来てとてもうれしかった。

戦時中から続く椅子の物語

勤めていた会社のお向かいにおばあさんが一人で住まわれていて、ある日お家を取り壊すことになったので欲しいものがあったら持って行っていいよといわれ、頂いたのがこの椅子だったという。

張り替え前の椅子

古い古い椅子で、その昔、戦時中にお米を分けてほしいと来られた方が持ってこられたのがこの椅子だったそう。
おばあさんはこの椅子とお米を交換してあげた。
おばあさんはその後もこの椅子を気に入って使っていたそうで、一見ボロボロの椅子だけど、一目でこの椅子が素敵だと言ったお客様におばあさんはとても喜んでくれたそう。
80年前から、もしかしたらそれ以前から、この椅子はとても大切に思われている。
どこか傷んでぐらついていたっておかしくない年数なんだけど、スンとたっている。
当時は何も知らずに張り替えていたのだけれど、そんな椅子を修理出来て本当に光栄だった。
小さな椅子に、たくさんの歴史が刻まれている。

「だから、修理してもらえたことが本当にうれしくて。」

もったいない言葉がいつまでも胸に響いて、とてもうれしかった。

生地を剥がしてみるとその前の生地が出てきた。何度か修理されてきたのだろう
板が変形している
古い板を外してみると、もともとは籐編みの椅子であった名残
釘は出来るだけ丁寧に抜いて
縁回しの籐皮は残したままにしておいた。
永く使っていただくためには、座板を取り外せた方がいいのではないかと思い、落とし込み仕様に座板を製作。
釘跡や縁周りを出来るだけ違和感ないよう納めたいなと思い、
こげ茶色の革で座面をパイピング仕様に
フレームも磨いて取り付け
張替後
金具を取り付けて、取り外し可能なように
また何度でも修理出来るように
椅子についていたタグプレート「東京曲木製作所」

毎回日記を書けているわけではないのだけれど、この椅子を張り替えた当時のFacebookのブログがあったので、ここでも紹介しておきたい。


2023年2月11日のFacebookブログ

=小椅子の張替

譲り受けた椅子なので、とお持ち頂くことが時々ある。
不思議なことに、”貰ったもの”という表現をされる場合は、張替には至らず、相談のみで終わってしまう事が多い。
小さな椅子に、手放したくない思いがある。
そう思うと、いつまでも椅子を眺めていたくなる。
椅子を持ち込んで頂き、生地を選ぶ。
カタログやサンプルを広げて、こっちかな、あっちかな…と、決めかねていると、車で待っていたご家族が降りてきて、ご両親は、なからこれかなと決めようとしているところに、小学生のお兄ちゃんが「この緑がいい」と譲らない。この子がこんなに強く主張するなんてと、ご両親は驚き、張替は緑のモケット生地に決定!
小学生の男の子が、こんなにも興味を示してくれたことがうれしくもあり、意思の強さに感心する。

もとは籐張りの椅子。
その後、板を張って布張りにしたのだろうけれど、古い生地を剥がすと、板は変形していた。
縁は鋲で留めてあったけど、その辺りに関しては、お任せします!とのことだったので、
お任せというプレッシャーに、
どうしたものか、と色々悩んだけれど、
ふと、小学生のお兄ちゃんのことを思い、シンプルな方が好きかな?と革のパイピングを縁に回してみた。
板を取り外しできるようにして、またいつでも張り替えられるように。

思い入れのある椅子に、どこまで手をかけるかというのは、とても難しい。
張り替えればどうしたって、変わってしまう。
張り替えに持ってきてくださる方々は、きっとそれもわかっていて、それでも張り替えようと思ってくれていることに、思いが重なっていくような張替屋であれればいいなぁと、作業しながらぼんやりと思うのでした。


小椅子(コイス)の張替

そして今回は、こちらの小椅子。
こちらも譲りうけた椅子だそうで、椅子達を大切に思ってくださることも、修理にとても価値を感じて頂けることも、心がスッと晴れるような向き合い方をされていてとてもうれしかった。

張替前
古い中身
古い中身
フレームだけにして、磨く
低座の方は板張りに
もう一方は底面の板はそのままにウェービングテープをはっています
下張り・・・お持込みの生地が薄手だったため、摩擦を防ぐために下張りをしています。
張替後

お持込み頂いた生地は傘の生地だそうで、初めて張ってみたのですが、薄手ではあるけれど、とても丈夫そうでした。撥水加工もされているから、長く使えそうです。
なんとも愛らしい。
また大切にしてもらえるんだろうなと思うと、椅子がとても羨ましく感じる昨今です。

今年もたくさん張り替えるぞ!



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Zatowa-座と輪- 古い椅子を張り替えて展示販売する「座と輪のコイス展」の開催に使わせて頂きます。宜しくお願いします!