週2万台超が搬入出されるUSS東京──300人のメンバーを束ねる佐野室長が挑む広大なヤード運営
ゼログループは、独立系として多様なメーカーの新車・中古車輸送を担うマーケットリーダーだが、2026年1月、中古自動車オークション最大手であるユー・エス・エス(USS)が運営する「USS東京」の構内運営業務を受託し、新たな挑戦を始めた。
しかし、圧倒的な物量の車が取り引きされる現場は、決して綺麗事だけでは回らない。今回は、この巨大プロジェクトの最前線で指揮を執る、ゼロ営業本部USS事業推進室(兼ソウイング取締役USS事業本部長)の佐野室長へのインタビューを通じ、現場の葛藤や泥臭い改善、それから私たちが求める「リアルな人物像」を紐解く。綺麗な公式サイトだけでは伝わらない「現場の本音」を聞いた。
圧倒的な物量を誇る世界有数の中古車マーケット運営のプレッシャー
千葉県野田市にあるUSS東京は、世界最大規模とも言われる中古車マーケットだ。その敷地は端から端まで2.3キロに及ぶ。これほど広大なヤードでは、車を元あった場所から最終的な配置場所まで一人で一度に運ぶのは極めて非効率だ。

そのため、まずは撮影室の近くなどへの中間地点にある仮の集約ポイントへと車を集める「仮置き」を行い、そこから搬送を専門とする別のチームがそれぞれの最終地点へと一括して運ぶ分業体制が敷かれている。昨年の平均出品台数は1回あたり1万7500台であったが、今年は前年に比べて8.9%増加しており、週に2万台を超える「戦場」のような日が何度も発生している。5月上旬では2万2000台規模に達する回もあり、かつてないほどの大量の車が日々ヤードに流入し続けている。
この広大な敷地内で、搬入された車の外装・内装の撮影、出品番号の貼付、指定された29のコーナーへの配置などを、中古車オークション会場の運営を行う、ゼログループのソウイングを中心としたスタッフが担っている。車種やカテゴリ別に区分されるこれら29のコーナーは、撮影順に並べられないため再配置が必要となる。さらに、高級車をはじめとする盗難や車内物品の被害リスクを防ぐため、ヤード配置後に車を施錠して鍵を抜き取り、事務室などで別途一元管理する「鍵抜き」と呼ばれるセキュリティ対応を行っている。これは全体の4割におよび、その適切な管理も重要な業務だ。現場のスタッフたちは日々、複雑な手順を習得し、限られた時間の中でこの膨大なオペレーションを力強く支えている。
「夜通しの対話」から始まった、現場との信頼構築
新しい体制への移行は、決してスムーズなものではなかった。実は佐野室長自身、構内業務の経験はゼロだった。さらにソウイングの従業員だけでなく、協力会社を含む300人以上の現場スタッフを束ねていくのも初めての経験だ。着任早々の2月、3月には繁忙期が訪れた。
「中古車オークションの構内運営も300人以上のメンバーを束ねるというのも初めての経験。そこに、いきなり2万台規模の扱いが続く繁忙期がきたので、最初からなかなか厳しい場面が続きました」
しかし、佐野室長には現場で立ち止まっている時間はなかった。以前の運営会社からソウイングに運営が変わるという事実は、ソウイングに転籍予定の前運営会社の契約スタッフ130人の生活に直結し、彼らの中に大きな不安を生んでいたからだ。そこで佐野室長をはじめとするマネジメント陣が起こした行動が、夜を徹した対話だった。朝から晩まで、時には夜間も含めてスタッフ一人ひとりとの個別面談や協力会社への説明を繰り返した。300回に及ぶ面談を重ね、現場の不安や要望を徹底的に聞き取った。

佐野室長はこの面談を振り返り、「みんなそれぞれに言いたいことがある。しかし、誰かに聞いてもらえれば、それだけで不安が解消される部分もある」と語る。
この丁寧な対話が功を奏し、ほぼ100%のスタッフが転籍に合意した。泥臭く誠実なコミュニケーションこそが、最大の危機を乗り越える原動力となった。
現場で汗をかくことでしか、信頼は得られない
着任以来、佐野室長が何より重視したのは、「現場に入り、一緒に汗をかくこと」だった。「現場に入って一緒に業務しないと、仲間として認めてもらえない、信頼してもらえないなというのを非常に強く感じました」と佐野室長は語る。
さらに、現場の困りごとを察知したら即座に対応することを心がけた。事務所の椅子や照明の変更、トイレへの温水洗浄便座の設置、ハンドソープやトランシーバーの配備といった「小さな環境改善」を猛スピードで実行した。「待遇面は前の会社のものをそのまま1年間引き継ぐのが前提だったので、それほど変わってないという人もいるとは思う。ただ、USS様の荷主への訴求やコミュニケーション、改善提案やちょっとした管理のやり方など、できるところから少しずつ、しかし全体としては大きく変わっているはず」と佐野室長は語る。
現場の要望が上流に届き、環境が迅速に変えられる構造へと変わったこともまた、スタッフとの信頼を少しずつ育んでいる。
現場発DX「moℓa」の導入と分業化で挑む効率化
現場の環境改善と同時に、圧倒的な物量をさばくための「仕組み化」も急ピッチで進んでいる。これまで、陸送された車の傷チェックなどの照合作業はすべて紙の書類を使った目視確認で行われていた。こうしたアナログな手法は工数がかかり、認識の齟齬を生む原因ともなっていた。この状況を打破するため、スマホアプリ「moℓa(モーラ)」の導入を、2026年8月を目標にUSS様と調整中だ。
moℓaはゼロが独自開発した業務専用アプリで、40種類以上の紙情報をタブレットやスマートフォンで一元管理できる。車両輸送時の品質管理のデジタル化とペーパーレス化を目的としており、車の状態を写真や画像で記録することで、正確かつスムーズな情報連携を可能にする。他拠点の過去の導入実績では、乗務員と事務員の作業時間を合わせ、1台あたり50分短縮という、実に作業時間の7割を削減するという大きな成果を上げている。

佐野室長は「人の目でチェックするよりもスマホで何枚も写真を撮ることによって、それでスムーズに搬出していく体制を構築していきたい」と意気込む。
こうしたデジタルツール導入と合わせて、現場では15%の人員を増強。一人当たりの負荷を適切に分散し、時間外労働を40%削減することにも成功した。ITツールと適切な人員配置の両輪が、現場にゆとりを生み出している。今後は、広大なヤードで車探索の時間を短縮する「ロケーション管理(車所在地の可視化)」や、作業サイクルの実測データからボトルネックを診断する「動態管理(人の可視化)」の導入も視野に入れている。データを収集し、改善点を抽出してから施策を立案するという科学的なアプローチで、現場の最適化を推進していく。
希少車が行き交う環境と、現場で求められる「人物像」
USS東京の構内は、車好きにとってはまさに「天国」のような職場だ。ヤードには、一般的な乗用車だけでなく、高級車や希少車、旧車など、さまざまな車両が集まる。多様な車両に触れられることも、この現場ならではの魅力の一つだ。しかし、佐野室長は、USS東京には単なる車好きだけではない人材が集まっているという。
「USS東京のメンバーは、チームで動いていることを意識し、協働で仕事を進めることを意識できる人が多い。仕事をやり切る、責任感がある人も多く、そうした人たちの頑張りがあって、ヤード運営ができていることを日々実感しています」
佐野室長の目標は、このUSS東京の事業をさらに発展させることだ。「ゼログループは、陸送がメインの事業です。しかしますます中古車の需要が高まり、USS東京で扱う台数も多くなっている。このままさらに中古車事業を盛り上げ、陸送事業に次ぐ第二の柱まで育て上げてみたいですね」と語る佐野室長。彼の挑戦は、まだまだ続く。
編集後記
週2万台もの車が動く「USS東京」の現場裏話、すごく熱い内容でした。最初は現場のメンバーにも大きな不安があったようですが、責任者の佐野さんが一人ひとりと泥臭く対話し、椅子や照明といった小さな環境改善を一つずつ積み重ねていく姿が印象的でした。単に「車が好き」というだけでなく、困難な状況でも協力し合える「チーム力」があるからこそ現場が回っているのだなと納得しました。
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