元彼に、子供を産む資格はないと言われたこと
私が23歳だったあの頃、世間ではウーパールーパーが少し流行った。
ショッピングモールに大量に陳列されたり、UFOキャッチャーの景品に並べられていた。
そして、私もその流行りに踊らされた1人のうち。
◇
その時、私は友人の結婚式の幹事になった同級生達とドンキホーテにいた。
ビンゴ大会の景品を選んでいる途中、小さな容器に入ってるウーパールーパーの赤ちゃんを見かけた。
小さい身体で泳ぐ姿見て、思わず言ってしまった。
「可愛い!欲しいなぁ」
それはまるで、何か見かけるたびに可愛いを連発する、少し苦手なあの子みたいに。
無邪気に可愛いと言っている私が可愛いでしょ、と言わんばかりに。
数日後、幹事の打ち合わせ後に同級生が荷物をごそごそしだした。
ドンキで見かけたウーパールーパーだった。
得意げな顔で「ほら、欲しいって言ってたでしょ。プレゼント!」とニコニコしている。
私は正直忘れていた。
ドンキでウーパーを見かけた事も、自分が可愛いって言ったことさえも。
その後、直ぐにペットショップへ駆け込み、定員さんのアドバイスを貰いながら、水槽、餌、水槽用のクーラーを買った。しめて2万円。
ウーパーの適温水温は20度ほど、当時は真夏だったので水槽用のクーラーは高価だけど必須だった。
自分の部屋で育てるつもりで、家に帰宅すると「家は猫がいるから、絶対ダメ!」と母に怒られては撃沈。
結局、当時交際3年目になる彼氏に引き取ってもらった。
ただ意外な事に、彼はウーパーの事をとても大切にしてくれて「今日のうーちゃんだよ、可愛いよ」と毎日写真をラインしてくれた。
そしてウーパーの生態について想定外だったのが、想像以上に大きくなるという事。(大きければ500mlのペットボトルくらい)
基本的には幼体のまま大きくなるが、育て方を間違えると成体になりトカゲみたいな見た目になる。
気軽に可愛い、欲しい、と言った自分の発言に後悔した。
後日、彼の家に遊びに行くと、嬉しそうに「ポケモンのあのキャラみたいで可愛いよなぁ」
ニャンちゅうみたいに、クシャッと笑いながらエサをあげていた。
うーちゃんは、どんどん大きくなっていて 、
横から見るとグロテスクだった。
◇
その後、彼と私は一緒に暮らすことになった。
ただ私の気がかりは、同棲=うーちゃんも一緒だということ、その憂鬱は暮らした後も変わらなかった。
私はうーちゃんの存在に常に怯えていた。
仕事から帰ってきて部屋の明かりをつけると、うーちゃんがじっとこちらを見いている。その目が恐いのだ。
世話は分担制にした。餌やりは彼、水槽の水換えは交代制、水槽のクーラーは彼の仕事が早朝の為、私が出勤前につけるのが2人の約束。
そんなある日、事件が起きた。
私が水槽の水換えをしてる最中、彼が勢いよく私を突き飛ばした
「何しとるんや!?それお湯やで!!」
仕事と慣れない家事の疲れで思考力が落ち、私はお湯を入れてしまった。
彼は素早くお湯を捨て、冷水を入れてうーちゃんの体を氷で冷やしていた。
あぁ、私はなんて事をしてしまったのだ。ごめんなさい、わざとじゃないの、ごめんなさい。
もう怖いと思わない。心から大切に育てるからどうか、どうか生き返ってくだい。
その後うーはピクンっと再び動き出し、またいつものように水槽の中で泳ぎだした。
彼の懸命な手当てで助かった。
次の日、何もなかったかのようにリビングの水槽でうーは泳いでいる
だけど自慢の白くて綺麗な体が、私のせいで、サーモンピンクになってしまった。
◇
事件から、2ヶ月あまり
ある日、家に帰ると彼が水槽の前で立ちすくんでいた。
どうしたのと尋ねると
「うーが死んでいるんだ」
「水温が熱い。今日の朝、水槽のクーラつけないで仕事に行っただろう?」と彼は言った
その日、私は寝坊してバタバタしながら仕事に向かったので、水槽のエアコンを忘れていたのだ。
「なぁ、お前、本当はうーが死んでホッとしているだろう?」
ううん、違う。
わざとじゃない。わざとじゃない。
わざとじゃないけど、白状する。
本当はホッとした。
疎ましかった。
居なくなればいいのにって思ってた。
どうしても、私はうーちゃんを愛せなかった。
そして彼は私に言い放った。
「もうお前は命が宿っているものを育てるのはやめろ。これ以上被害者を増やすな。子供なんてもってのほかやで」
その通りだ。
命に誠実であれば、仕事で疲れていても水槽にお湯を入れないだろう、寝坊しても、水槽のエアコンがついてるか心配するだろう。
子を育てる資格はない。彼にそう言われた事が今も脳裏に焼き付いている。
◇
あの頃の私は未熟すぎて、うーちゃんの命を大切に出来なかった。蔑ろにしてしまった。
とても後悔してる。
過去は美化されるものだけど、水槽で気持ち良さそうに自由に泳ぐ、うーちゃんを思いだすと、あぁ、可愛いかったなと思えた。
5年前に下書きのまま残っていたこの記事を編集しながら、うーちゃんの事を思いだし胸がきゅっとした日だった。
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