奴隷および奴隷制
奴隷の定義は、(特定の)人間の人格権が認められず、その人間が、物のように処分された り売買できる状態であると言うことができます。つまり奴隷制は、奴隷が主人によって「所有」されている、つまり私有財産として、可処分できるというのが、 その認識の基本的枠組みによって支えられていた制度でした(→思想としての奴隷/奴隷制を考えたい人はこちらからリンクします(→「奴隷の哲学」「奴隷制」)。
奴隷制は、身分制社会の特徴と言われてきました。「家畜のように奴隷化する」という表現 がありますが、歴史に存在した奴隷制度のすべてが、均質的なものではなく、奴隷にどのような権利を認めてきたのかについては、多様性があります(→「アメリカ合衆国の奴隷制小史」)。
(さまざまな奴隷反乱という先行例を除いて)奴隷制の撤廃を理論的に考えたのは、身分制 社会の撤廃を考えた啓蒙思想にあると言われています。啓蒙思想では、自由と平等という基本理念からは、奴隷制の考えが相容れないことを明確にしたからで す(→「資本主義と奴隷制」)。
また、奴 隷制を撤廃し続けるには、社会がそれを維持しなければならないことも見えてきま す(→社会契約論)。維持するためには、社会はなんらかの力(権力)をもつ必要があると考えて きた人たちがいることも、また見えてきます(→統治術に関するノート)。
このように、今日に我々にとって荒唐無稽と思われる「奴隷制」を考え、それを子どもたち に、わかるように説明するなかで、啓蒙の理性がどのようなものであったのかが、復習することができます(→「啓蒙とはなにか?」)。
奴隷と主人というテーマは、ヘーゲルの『精神現象学』の中にも、これとはまったく違った 形で展開されます(さらに興味深い議論はフランツ・ファノンの著作にも登場します)。
奴隷は英語では、slave (スレイブ)と言いますが、これは古いフランス語の esclave 、ラテン語の Scclavus から由来し、捕まっている状態のことを指します。戦争行為の後に捕虜を処刑するのではなく、労働力として利用したのが、奴隷のはじまりだといわれていま す。しかし、奴隷の調達目的のために戦争をしかけるということも歴史的にはありましたので、奴隷制の起源を〈有用性の発見〉から説明するのには限界があり ます。
現在を生きる我々にとって、奴隷制を考える意味は次のとおりです。
近代社会の中に、奴隷制は法的に廃絶され、我々の道徳においても否定されているにもかか わらず、「奴隷に類する」制度がいくらでも残っているのはなぜか。
児童労働や、女性の(売春を目的とした)人身売買が、現在もなお続いているのはなぜか?
これらのことを明らかにするために、奴隷制は、すでに終わってしまった過去の蛮習ではな く、現在においても継続する「奴隷に類する制度」を明らかにし、それを廃絶するために、繰り返し思い起こし、記憶しなければならない社会制度なのです。
★奴隷制・奴隷貿易を知るための66章 / 清水和裕, 貴堂嘉之, 鈴木英明(編著), 明石書店 , 2026 . - (エリア・スタディーズ, 226)
| 人類史の負の遺産「奴隷制」を、古代から現代、大西洋から日本まで多角的に照射する。気鋭の研究者たちが、強制労働や人身売買の構造をさまざまな視点から徹底解説。自由を奪われた人々の抵抗と記憶を辿り、現代に潜む差別の根源を問い直す、本質に迫るための必読入門書。 https://www.akashi.co.jp/book/b677438.html |
|
| はじめに 1. 総論 第1章 奴隷と隷属の連続性――奴隷とは何だろうか 第2章 つながる奴隷制――地中海型奴隷制と世界の歴史 第3章 現代に残る奴隷制の課題――「奴隷のいない」はずの現代社会の混迷 【コラム1】ダーバン会議 第4章 アフリカ(サハラ以南アフリカ)――対外交易と奴隷制の変容 【コラム2】ゴレ島 【コラム3】エルミナ 【コラム4】クンタキンテ島(ジェームズ島) 第5章 南北アメリカ大陸――大西洋奴隷貿易・奴隷制 第6章 イスラーム社会――イスラーム法と奴隷制 【コラム5】メッカ――奴隷交易の一大拠点 第7章 インド洋諸社会――遍在する奴隷たち 第8章 日本――日本に「奴隷」はいたのか? 第9章 東南アジア――パトロン・クライアント関係と奴隷 第10章 奴隷交易――奴隷化の契機、売買、ルート 【コラム6】奴隷を誘拐する方法――アフリカ大陸東部沿岸の場合 2. 古代・中世 第11章 古代メソポタミアとエジプトで売買された人々――古代オリエントの「奴隷」 第12章 「相棒」から「道具」まで――古代ギリシア・ローマ奴隷制社会 第13章 初期・中世イスラーム社会の奴隷制――古代地中海社会の継承と展開 【コラム7】マムルーク 【コラム8】千夜一夜の中の奴隷 第14章 黒海と地中海――ヨーロッパ商人の奴隷交易 第15章 中世イベリア半島における奴隷――文明の交差路と隷属のかたち 第16章 一神教の啓典と奴隷制――タナハ・新約聖書・クルアーン 第17章 中世ヨーロッパの農奴――系譜と実態 【コラム9】ジプシー奴隷制とルーマニアのロマ 第18章 中国古代の隷属者――「耕は奴に問え、織は婢に問え」 第19章 日本古代・中世の隷属者――奴婢・下人・所従 3. 近世 第20章 エンリケ航海王子と奴隷――終わらない「レコンキスタ」と大航海時代の影の中で 第21章 ポルトガル海洋帝国と奴隷――「奴隷」がつなぐ世界へ 【コラム10】リスボン――「奴隷のいた街」を歩く 第22章 「地中海型奴隷制」との出会いと決別――日本人奴隷の流出と人身売買禁令 第23章 日本の近世社会と隷属者の諸相――身分と「家」の陰で 第24章 中国の奴婢――法・実態・イメージ 第25章 近世朝鮮の隷属民――わが国の人は奴婢が半ば 第26章 東南アジア東西交流――奴隷と都市形成 第27章 近世ミャンマーの奴隷たち――チュン(奴隷)と呼ばれた人々 第28章 オランダ東インド会社――隷属と支配を媒介する奴隷 【コラム11】南アフリカ 第29章 インド亜大陸のアフリカ系軍事奴隷の系譜――権力や武力を持った奴隷たち 第30章 サントメ島――キビ砂糖栽培とアフリカ系奴隷を結びつけた島 第31章 大西洋奴隷貿易――その始まりから最盛期まで 第32章 奴隷船の歴史――暴力と恐怖で奴隷を「生産」した浮かぶ地下牢 第33章 大西洋奴隷貿易とイギリス産業革命――ウィリアムズ・テーゼを中心に 第34章 アメリカ先住民と奴隷制――その多面性と重層性(北アメリカ) 【コラム12】サント・ドミンゴのシウダード・コロニアル 第35章 植民地化と奴隷制――先住民系奴隷からアフリカ系奴隷への転換(ブラジル) 【コラム13】バイーア 第36章 人種と奴隷制――黒人の奴隷化の多様な回路 第37章 奴隷の主体的経済――北米における奴隷たちの主体的「生」の営み 【コラム14】アメリカ大陸のコメ栽培 第38章 カリブ海の商品作物栽培と奴隷――プランテーションの形成と奴隷の日常生活 第39章 ジェンダーと奴隷制――女性奴隷たち、廃止運動する女性たち 第40章 ザンジバル島――商品作物栽培がもたらす奴隷制の変容 第41章 地中海の白人奴隷――黒人奴隷のネガ? 第42章 イスラーム世界の宮廷奴隷――オスマン帝国のハレムで働く女官たち 4. 近代 第43章 合衆国の独立と奴隷制――奴隷国家アメリカの誕生 第44章 奴隷制とハイチ革命――「世界史上唯一の、成功した奴隷革命」 第45章 奴隷の抵抗・蜂起――東南アジアとブラジルの場合 第46章 奴隷貿易廃止運動におけるイギリスのリーダーシップ――見直される通説 第47章 奴隷貿易廃止から奴隷制廃止への困難な道程――イギリス、アメリカ合衆国、ブラジルの場合 第48章 国際政治化していく奴隷交易廃止への道――ウィーン会議以降 第49章 ロシアの農奴制と農奴解放――専制政治を揺るがせた大改革のゆくえ 第50章 「綿花王国」アメリカの奴隷制廃止とその余波――分水嶺としての南北戦争 第51章 19世紀ブラジルの奴隷制と奴隷制廃止――議会活動と民衆運動の交差 【コラム15】ヴァロンゴ 【コラム16】帰還奴隷 第52章 奴隷貿易が西アフリカ経済におよぼした影響――人口と繊維産業 第53章 西アフリカにおける奴隷制と奴隷制廃止――換金作物貿易の時代から植民地時代まで 第54章 フランスによる奴隷制廃止と植民地拡張――アルジェリア侵攻を手がかりに 第55章 洋上で救出された奴隷のその後――1807年奴隷交易廃絶法と解放奴隷 5. 奴隷制廃止後の世界 第56章 黒人奴隷制廃止とアジア系契約労働者(クーリー)――奴隷史とアジア系移民史をつなぐ 第57章 マスカレーニュ諸島――商品作物伝播の結節点として、労働制度の実験場として 第58章 強制栽培制度――19世紀オランダ支配下のジャワ島 【コラム17】タイの奴隷解放 第59章 国際連盟と奴隷問題――エチオピアとリベリアをめぐって 第60章 マリア・ルス号事件と「芸娼妓解放令」――解放すべき「奴隷」の再発見 第61章 近代公娼制度と「からゆきさん」――誰のための「自由意志」? 第62章 「白人奴隷制」のゆくえ――人種・階級・性に基づく支配 第63章 奴隷制廃止と非公式帝国のあいだ――ペルシア湾におけるイギリス帝国のジレンマ 第64章 米国奴隷廃止後の新たな奴隷制の系譜――囚人貸出制、監獄ビジネス、大量収監 第65章 奴隷制廃止後(ポストスレイバリー)の仏領西アフリカ――労働力の「活用」をめぐる政治言説の連続性 第66章 奴隷制の記憶――そのグローバルな検証と顕彰 【コラム18】映画「ダホメ」が語ること/語らないこと 【コラム19】リヴァプールの国際奴隷博物館 【コラム20】全米アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館 【コラム21】米南部奴隷制伝えるホイットニー大農園 【コラム22】米国最後の奴隷船クロティルダ号の破片 【コラム23】フランス奴隷制の記憶 グアドループ Mémorial ACTe 【コラム24】UNESCO「奴隷化された人々のルーツ」プロジェクト 【コラム25】デジタル時代の奴隷制研究 【コラム26】ドーハの奴隷博物館 あとがき 奴隷制・奴隷貿易をもっと知るための文献ガイド |
|
| https://www.akashi.co.jp/book/b677438.html |
リンク
文献
その他の情報
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
Copyleft,
CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099