2026年8月28日

ショートレポート AI for Science Spotlights Vol.4
「米国ジェネシス・ミッションが本格始動 ―政府横断的なAI for Science国家戦略の具体化が進む―(後編)」

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Points

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(画像は生成AIを用いて作成)
  • 米国エネルギー省(DOE)が2026年7月22日、ジェネシス・ミッションによる最初の研究開発テーマ群として、人工知能(AI)を活用する278件の研究開発プロジェクトを選定した。
  • プロジェクトには大学、国立研究所、企業などが幅広く参画し、AIを科学研究ワークフロー上の予測、探索、設計、最適化、自動化などに組み込もうとするテーマが多数含まれている。
  • ジェネシス・ミッションは、個別プロジェクトへの資金提供に加え、データ、計算資源、AIモデル、研究設備を共通基盤上で接続する国家規模のプラットフォームの構築を図っている。

278件の研究開発プロジェクトを選定

前編[1]で述べたように、米国エネルギー省(Department of Energy; DOE)は2026年7月22日、トランプ大統領の国家イニシアチブ「ジェネシス・ミッション(Genesis Mission)」[2]の一環として実施した、大規模研究開発公募「The Genesis Mission: Transforming Science and Energy with AI(AIによる科学研究とエネルギー研究開発の変革)」により、278件のプロジェクトを選定[注1]・公表した[3]

スピーディーな審査プロセス

今回の申請募集(Request for Application; RFA)によって選定された278件のプロジェクトは、ジェネシス・ミッションの最初の大規模ポートフォリオとして位置づけられる。これらのプロジェクトを進める研究チームは今後、AIを活用した科学研究ワークフローの開発と実証を通じて、DOEのミッション分野全体にわたる科学的発見を加速させていく。特に、原子力エネルギー、重要鉱物の採掘、AIを活用した半導体設計、商用核融合エネルギーなど、米国が直面する喫緊のエネルギー・科学・工学上の課題に取り組む[3]

申請者は、国立研究所、産業界、および学術界などからなる学際的なチームで構成される。また、申請対象となる研究領域(Challenge Areas)は、2026年2月時点の26の国家科学技術課題[4][5]に対応する17の領域に、複数領域を横断的に支える共通基盤となる4領域を加えた、合計21領域として設定された[6](詳細は後述)。

総額2億9,300万ドルに上る今回の研究資金は、フェーズIとフェーズIIの二つの申請区分に分かれている[7]。フェーズIは、1件当たり50万ドルから75万ドル、実施期間9カ月である。フェーズIIは、実施期間3年間のより大規模な研究開発であり、チーム規模や予算を含む年間の事業規模として、フェーズIの3~5倍程度が目安とされている[注2]。研究チームはいずれのフェーズにも直接応募でき、フェーズIで採択されたチームが、その後フェーズIIに応募することもできる[6]

公表された278件のほとんどは、フェーズ Iからの選定結果であり、フェーズIIから選定されたものは1件のみである。残るフェーズIIの選定結果は、2026年秋の公表が予定されている[8]。フェーズIの公募期間は2026年3月17日から5月1日までの約1ヶ月半であり、さらに、締め切りから結果公表までの期間も、約2ヶ月半という短期間であった。このことから、申請から選定まで、非常にスピーディーな審査プロセスが遂行されたことが伺える。

DOE史上最大級の反響

短い申請期間であったにもかかわらず、本公募には5,000件を超える応募が寄せられた。DOEはこれを、同省の研究ファンディングの歴史上、最大級の反響であったと述べている[3]。278件の選定を踏まえて単純計算すれば、選定率は5.6%未満であり、非常に高い競争率となった[9]

クリス・ライトDOE長官は今回の公表に際し、「米国には大胆なアイデアも、才能ある科学者も不足しておらず、ジェネシス・ミッションへの反響がそのことを証明している」と述べた。そのうえで、多数の質の高い提案が寄せられたことは、米国のイノベーション創出力の強さを示すとともに、将来の投資とジェネシス・ミッションのポートフォリオ拡大の余地を示しているとの認識を示した[3]

ダリオ・ギルDOE科学担当次官も、「極めて大きな反響は、米国の科学コミュニティーが、科学的発見のあり方を再構想する準備ができていることを示している」との見解を示した。また、「ジェネシス・ミッションを通じて、米国を代表する研究者、研究機関、技術パートナーを結集し、次世代の科学研究能力の構築を進めている」と述べた[3]

278件のプロジェクトの全体像① ― 研究チーム構成から見るAI for Science

公表された278件のプロジェクト一覧には、研究チームの代表者名、代表機関名、プロジェクト名などが掲載されている[10]。これらの情報から、プロジェクトの全体を俯瞰し、ジェネシス・ミッションにおけるAI for Scienceの対象を概観する。

各研究チームの代表者が所属する代表機関の内訳は、大学を代表機関とするものが168件(60.4%)、DOEおよび国家核安全保障局(National Nuclear Security Administration; NNSA)傘下の国立研究所が87件(31.3%)、企業が19件(6.8%)、非営利組織が4件(1.4%)となっている。また、参加機関全体では342機関が参加しており、その内訳は、大学142機関(41.5%)、国立研究所16機関(4.7%)、企業157社(45.9%)、非営利組織13機関(3.8%)、その他14機関(4.1%)だった(図1)。

すなわち、6割を超すプロジェクトが大学を代表機関としている。その一方で、参加機関数ベースでは企業の割合が最も多い。また、国立研究所は、参加機関に占める数や割合と比較して、代表機関に占めるそれが圧倒的に多い。研究チームの機関構成から見えるこうした特徴は、大学や国立研究所を中核に据えつつ、多数の企業が参画し、アカデミアが有する研究力と産業界が有する技術力・製造力を組み合わせる設計となっていることが示唆される。


図1 研究チームの代表機関/参加機関の割合

278件のプロジェクトの全体像② ― プロジェクト名から見るAI for Science

DOEが公表した278のプロジェクト名には、それぞれの研究開発分野における専門用語だけでなく、AIを研究開発にどのように、あるいは、どのような目的で組み込もうとしているのかを示す、特徴的な語が数多く含まれている。そこで、プロジェクト名を分析し、AIの活用目的や機能に着目して、定性的な整理を試みた。

その結果として、AI活用の大まかな方向性や対象を、12種に分類した(図2左)[注3]。この中で、最も件数が多かったのは「予測・推定」であり、次いで、「制御・運転支援」、「発見・探索」、「設計・逆設計」となった。

プロジェクト名から抽出した代表的なフレーズ(図2右)を見ると、たとえば、「予測・推定」では、“AI-driven prediction” や “probabilistic inference”、「制御・運転支援」では “real-time control” や “decision support”、「発見・探索」では “accelerated discovery” や “AI-driven discovery”、「設計・逆設計」では “AI-enabled co-design” や “AI-driven inverse design”などが見られた。また、「最適化」では “process optimization”、「基盤モデル・マルチモーダル統合」では “multimodal AI”、「セキュリティ・信頼性」では “adversarial robustness”、「デジタルツイン」では “AI-enabled digital twin”、「自律実験・閉ループ」では “autonomous laboratory”、「シミュレーション高速化・物理AI」では “physics-informed ML”、「科学推論・仮説生成」では “scientific reasoning”、「コード生成・科学ソフトウェア」では “agentic code generation” など、それぞれ特徴的なフレーズが含まれていた。

以上から、278のプロジェクト全体におけるAIの活用は、予測や探索にとどまらず、制御、設計、最適化、自律実験、科学推論など、研究開発上の多様な目的へと広がっていることがわかる。


図2 278プロジェクト名から見るAI活用の主な方向性・対象

278件のプロジェクトの全体像③ ― 21領域の設定と選定件数から見るAI for Science

今回の公募では、ジェネシス・ミッションの国家科学技術課題を踏まえ、資金提供の対象とする21の研究領域が設定された[6]

その内訳は、国家科学技術課題に直接対応する17の領域と、「米国科学安全保障プラットフォーム(American Science and Security Platform)」の横断的ニーズに対応する4つの領域から構成される(前編[1]を参照)。前者は、先進製造、バイオテクノロジー、重要鉱物、原子力、核融合、量子、マイクロエレクトロニクス、材料、電力網、地下資源などを含む。一方、後者には、HPC(High-Performance Computing)コード開発、科学的推論のためのAI、AI駆動型科学ワークフローのサイバーセキュリティなどが含まれる。

この構成からは、ジェネシス・ミッションが、AIを個別の重点領域やそのための研究開発へ適用する「縦」の研究と、複数分野で汎用利用できるAIモデル、研究ワークフロー、科学ソフトウェア、自律実験、セキュリティなどを整備する「横」の研究を、同一のポートフォリオのもとで並行して進めようとしていることが伺える。

DOEが公表したプロジェクト一覧[10]には、各プロジェクトが具体的に21領域のどれに該当するかまでは記載されていない[注4]。そこでCRDSにおいて、プロジェクト名に含まれる分野固有の用語などをもとに、278件のプロジェクトを21領域のいずれか1つに分類する、試行的な分析を行った。

その結果を示したものが図3である。図に示すように、件数が多かった上位の領域は順に、「エネルギーのための米国における水資源予測」(26件)、「米国の重要鉱物資源の供給確保」(23件)、「予測可能な機能性を持つ材料設計」(22件)、「クォークから宇宙に至るまでの物理学の統一」(20件)、「核融合エネルギーの実用化加速」(18件)、「地下戦略エネルギー資源の解放」(17件)、「米国におけるマイクロエレクトロニクスの再活性化」(17件)、「バイオテクノロジー革命の拡大」(16件)であった。


図3 21領域別の選定件数

共通プラットフォームへのプロジェクトの接続

前編[1]で述べたように、ジェネシス・ミッションにおける研究開発のための共通基盤として、大統領令により、「米国科学安全保障プラットフォーム」の設置・運用が指示されている[2]。DOEは、今回選定したプロジェクトのうち、助成契約に至った研究チームに対し、このプラットフォームへのアクセスを提供するとしている。DOEの発表では、利用可能な資源として、AIエージェントのフレームワーク、産業界のパートナーから提供される先端的なAIモデルやソフトウェア、DOE傘下の国立研究所および協力施設の高性能計算資源が挙げられている[3]

また、大学、国立研究所、産業界などを結びつけ、ジェネシス・ミッションへの参画と連携を促進する枠組みが、「ジェネシスミッション・コンソーシアム(Genesis Mission Consortium)」である。DOEは同コンソーシアムを、ミッションの推進に取り組む組織を参画させるための中心的な仕組みと位置づけている。コンソーシアム参加機関からは、計算資源・利用クレジット、基盤AIモデルへのアクセス、クラウド基盤、科学的専門知識、研究連携、直接資金など、総額8億ドル超相当の支援が表明されている[11]。さらに、コンソーシアムでは、AIモデルの開発・検証、データ統合・標準、高性能計算・クラウド基盤、ロボティクス・自動化、人材開発・研修などに関するワーキンググループを通じて、戦略的な連携を形成・促進している[12]

このように、ジェネシス・ミッションの特徴は、個別プロジェクトに資金を提供するだけでなく、データ、計算資源、AIモデル、研究ワークフローを結びつける共通基盤を整備し、コンソーシアムや関係省庁を通じて、多様な組織のリソースと専門性を結集しようとしている点にある。さらに、各プロジェクトで生み出されたデータ、モデル、その他の成果物を、可能な場合にはプラットフォーム上に蓄積し、適切な認可を受けた他の利用者がプロジェクト完了後も再利用できるようにすることで、個別の研究成果をミッション全体の持続的な研究基盤へと発展させることも目指している[2][6]

ジェネシス・ミッションは、AI for Scienceを個別の研究支援ツールの開発・活用にとどめず、あらゆる研究開発リソースと多様なアクターを接続する、国家規模の「オペレーティングシステム(OS)」へ発展させていく可能性をもつ。今後は、プロジェクトから生まれる新たなAIモデルや研究ワークフローが、プラットフォームにどこまで統合され、他の研究にも活用されるか、さらに、それらを持続的な研究基盤へ発展させられるのかが注目される。

(阪口 幸駿・澤田 莉沙・杉村 佳織・永野 智己)
2026年8月28日

脚注

  1. 「award negotiations」の状態であり、直ちに資金提供を保証するものではなく、交渉プロセスの結果によっては選定を取り消す可能性があることに注意[3]
  2. なお、DOEは公募発表時、フェーズIIの資金提供額を3年間で600万ドルから1,500万ドルと説明していた[7]。一方、公募要領では、フェーズIIの年間事業規模はフェーズIの3~5倍程度を目安としつつ、研究内容に応じて、この水準を上回る、または下回る予算も認めるとしている[6]。また、今回唯一選定されたフェーズIIプロジェクト(原子力エネルギー分野)は、3年間で6,000万ドル規模であったとされる[3]
  3. 1件のプロジェクト名から複数のパターンに分類される場合も含まれるため、件数の合計は278件を超える。また、ここでの分類は著者らの試験的な分析であり、DOEによる公式分類ではないことに注意。
  4. ただし今後、正式採択に至ったプロジェクトについて、それぞれどの領域に該当したものであるのか、公表される可能性はある[7]

参考文献

  1. 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)「ショートレポート AI for Science Spotlights Vol.3 米国ジェネシス・ミッションが本格始動 ―政府横断的なAI for Science国家戦略の具体化が進む―(前編)」(2026年8月)
  2. The White House, "LAUNCHING THE GENESIS MISSION"(2025年11月24日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  3. U.S. Department of Energy, "Secretary of Energy Chris Wright Announces First Genesis Mission Projects Selected to Accelerate AI-Driven Scientific Discovery"(2026年7月22日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  4. U.S. Department of Energy, "Energy Department Announces 26 Genesis Mission Science and Technology Challenges to Accelerate AI-Enabled American Innovation and Leadership"(2026年2月12日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  5. The White House, "GENESIS MISSION: NATIONAL SCIENCE & TECHNOLOGY CHALLENGES"(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  6. U.S. Department of Energy, "The Genesis Mission: Transforming Science and Energy with AI, Notice of Request for Application (RFA) Number: DE-FOA-0003612"(2026年4月20日改訂)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  7. U.S. Department of Energy, "Energy Department Announces $293 Million in Funding to Support Genesis Mission National Science and Technology Challenges"(2026年3月17日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  8. HPCwire, "Genesis Mission Summit 2026: Big Ambitions and a Familiar Blind Spot"(2026年7月24日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  9. Science, "The Genesis Mission, the Department of Energy’s big AI push, unveils first grants"(2026年7月23日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  10. U.S. Department of Energy, "Energy Department announces first Genesis Mission projects to accelerate new era of AI-driven scientific discovery"(2026年7月22日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  11. U.S. Department of Energy, "U.S. Department of Energy Announces More Than $800 Million in Partner Commitments to the Genesis Mission"(2026年7月22日)(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)
  12. U.S. Department of Energy, “The Genesis Mission Consortium”(外部リンク)(アクセス日:2026年7月29日)

DOI

https://doi.org/10.82643/crds-fy2026-sr-04

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