差別
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差別(さべつ、英:discrimination)とは、特定の集団に所属する個人や、性別など特定の属性を有する個人・集団に対して、その所属や属性を理由にして不当に異なる扱いをする行為である[1][2][3][4]。国際連合は、「差別には複数の形態が存在するが、その全ては何らかの除外行為や拒否行為である」としている[5]。
例えば性差別や人種差別などがある[6][7][8]。正当な理由(合理性)無き区別、不当な差別は違憲や違法である[2][4][9][10][11]。
研究
[編集]20世紀以来、差別に関する研究は社会学や心理学の分野で行われている。社会学で行われた差別の研究には、コックスのマルクス主義的社会構造論や、パークやJ.H.ヴァン・デン・ベルクが行った人種差別を優位集団と劣位集団の競争・葛藤関係として分析した研究がある。心理学では差別は偏見の表現行動とされ、偏見が発生する仕組みを解明することで差別を説明する[12]。偏見説の例としてオールポートの研究がある。これらの古典的な差別に関する研究は、差別の一側面を他の分野の理論を応用する形で行われており、差別そのものを包括的に分析したものではなく、説明しきれない現象や予測と異なる現象も多い[12]。
マートンの準拠集団モデルでは、差別は集団間の敵対関係ではなく、同一集団内の特殊なカテゴリー化に内在する問題であるという[12]。また、ミュルダールの『アメリカのジレンマ』仮説と、仮説に対する追研究によって、差別は規範のずれとその対応の問題であること、被差別者は差別を行う人々との一定の関係性によってのみ同定可能であることが示唆されている[12]。
「差別」の証明の難しさ
[編集]特定の事柄について差別の存在を証明するのは簡単ではない[12]。なぜなら、その事柄が正当か不当かについての判断は、それを告発する者の伝達能力・表現力と、告発を受け取る者の感性によるところが大きいからである。差別は普遍的な実体として存在するものの、その定義付けは困難であり、定義不能とする研究者も少なくない[12]。また、微妙な差別は明白な差別よりもはるかに有害であるとする研究もある[13]。
性差別や年齢差別、障害者差別において、合理性などの正当な理由無く不当である場合は、違憲や違法である[2][3][4][9][10][11]。
差別の種類
[編集]差別は大きく「偏頗的・統計的差別」と「制度的差別」の2つに分類できる。 現代の文脈では、差別行為に関する主な問題は、偏頗的かつ統計的な差別を中心に展開している。 日常的な偏頗的差別の些細な事例であっても、重大な結果をもたらす可能性があるとされる[14]。
偏頗的・統計的差別
[編集]個人の好みや偏見によって引き起こされる差別行為を指す。これには、人種、性別、年齢、宗教、外見などの要因に基づいて個人を異なるように扱うことが含まれる。一見軽微な偏頗的差別の事例であっても、個人の幸福や帰属意識に重大な影響を与える可能性がある[14]。研究によると、偏頗的差別は、標的となった人々のストレスの増加、精神的健康問題、自尊心の低下につながる可能性がある。専門家らは、共生社会を育むためには、偏頗的差別に対処し、根絶することが重要だと主張している。
統計的差別は、特定のグループに関連付けられた一般化または固定観念に依存する別の形式の差別である。これは、個人が統計的傾向やグループの特性に基づいて意思決定をしたり、他の人に異なる扱いをしたりするときに発生する。この種の差別は、雇用、教育、住宅、刑事司法などのさまざまな状況で現れる可能性がある。批評家は、統計的差別が偏見を永続させ、疎外されたグループの機会を制限することで不平等を永続させると主張している。組織と政策立案者には、統計的差別を最小限に抑え、すべての個人に対する公平な扱いを促進する措置を講じる責任がある。
人種・民族・宗教・文化に関する差別
[編集]- 人種差別・民族差別
- 人種差別や民族差別は古くから存在する。古代ギリシア人のバルバロイや中華思想などに見られるように、しばしば自民族中心主義の裏となって表れる。19世紀の西欧諸国では植民地交易を正当化するために人種差別が科学と結びつけられ、社会進化論や優生学を援用した疑似科学に根拠を置くイデオロギーとなった。このような人種主義や植民地主義に基づき先住民族の迫害や、アフリカの黒人を対象とした奴隷貿易・奴隷制が実施された。近代以降は戦争や民族主義の台頭、独立運動への抑圧などによって様々な迫害や差別が表面化した。1930年代のドイツに登場したナチスはユダヤ人、ロマなどの差別・迫害を正当化する極端な人種差別政策を実施した(ナチズム、ホロコースト)。アメリカ合衆国や南アフリカに見られた有色人種への差別政策は徐々に解消されていったが、近年は民族紛争、テロ、難民・移民の増加を背景とした特定の民族・宗教への排斥を正当化しようとする極右思想や排外主義が見られる。
- 先住民族
- 少数民族
- 宗教
- 文化差別
言語・地域に関する差別
[編集]性に関する差別
[編集]能力に関する差別
[編集]病人に関する差別
[編集]階級と職業に関する差別
[編集]その他
[編集]制度的差別
[編集]身分に関する差別
[編集]前近代社会においては身分制を敷いた社会がある。近代化の過程で社会契約論などによって身分制は再編成され、階級制へと移行した。法学者ヘンリー・サムナー・メインは「身分から契約へ」という言葉を残している。
逆差別
[編集]「差別を受けている」とする人々や団体に対して雇用や教育に関する優遇政策(ポジティブ・アクションなど)が、逆差別であると批判がある。アメリカでは、特に入試における人種間の逆差別へのアジア系や白人系から不満の声が高まっている[18][19][20]。ハーバード大学はアジア系の学生を差別してきた証拠も提出されている[18]。白人系とアジア系からは、人種間の入試における逆差別への批判が強いため、訴訟も提起された。特に勉強に熱心で成績の良い人種なために不利益を受けているアジア系から批判の声が強まっている[19][20]。
日本
[編集]平安時代
[編集]鎌倉時代
[編集]- 家督の嫡子単独相続が規定された。ただし遺産については分割相続が原則とされていた。
江戸時代
[編集]- 幕府の方針により、家督の嫡子単独相続が確立した。
- 士農工商の世襲身分による差別が継続した。
幕末以降
[編集]- 幕末にの箱館奉行により、アイヌの呼称が「蝦夷」から「土人」に改称された。疱瘡対策の種痘は行われていたものの、アイヌ語の禁止や、学校教育期間を本土より2年短くされるなど、長期間に渡る差別が存在した。日本の国会は、2019年(平成31年)4月19日に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(アイヌ施策推進法)」を制定し、法律として初めて「先住民族」と明記された[21][22]。罰則はないがアイヌ民族への差別が禁止された[23]。
- 1879年(明治12年)、武者小路実世とグイド・フルベッキが、大陸法学の大家であるブルンチュリの『国会議員選挙論』を口訳出版したが、原書が女性参政権の実現に前向きな内容であったところ、日本語訳の内容は極めて否定的な内容に書き換えられた。
- 1888年(明治21年)創刊の右翼系の総合雑誌『文』(金港堂)には、『魯国改進党最後の哀訴』などロシア帝国の政党に対する侮蔑的な表現がしばしば現れた[24]。同誌には「婦人選挙権を非とするの議」などの記事も掲載された。
- 1886年(明治19年)にはイタリア人政府顧問パテルノストロの推奨により、華族世襲財産法(勅令第34号)が施行され、華族世襲財産の家督相続の規定がおかれた。
- 1889年(明治22年)2月11日、選挙権について「衆議院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス」(第35条)と定めた明治憲法の交付と同日に、男子25以上に選挙権を認める衆議院議員選挙法が公布された。ただし候補者については男子30才以上で直接国税15円以上の納付者とするなど厳しい条件があった[25]。また、候補者につき当選無効訴訟を起こすことはできたが、選挙無効訴訟(再選挙実施)の規定は存在しなかった(立候補供託金の規定はなかった)。
- 1896年(明治29年)、民法法典論争ののちの磯部四郎らの案による民法(法律第89号)の施行により、華族以外の家にも家督相続制度が拡大された。
明治憲法以降
[編集]- 衆議院議員選挙権については、1900年(明治33年)の衆議院議員選挙法(3月29日法律第73号)ののち、1925年(大正14年)1935年(昭和10年)の衆議院議員選挙法施行によって納税要件が撤廃され、男子普通選挙が実現した。ただし、立候補供託金の金額は現在の価値にして約2400万円という高額を定めていた。ここでも女性には選挙権が与えられなかった。
- ツルゲーネフの初期作品『猶太人』の日本語訳が1898年(明治31年)『国民の友』1月号に掲載された[26]。登場人物のユダヤ人の老人が侮蔑的に扱われる場面が存在する。ロシア帝国ではその後は知識人によりユダヤ人擁護活動が展開されたが[27]、日本では戦後の1949年(昭和24年)、世界文学社(1945年 - 1950年、京都、柴野方彦)の文学作品集にも『猶太人』が収録されている[26]。
日本国憲法以降
[編集]戦後の日本国憲法において、「正当な理由無き差別」は禁止されている。日本国の多くの法律に年齢条項があり、年齢理由の制限や差別的な取扱いがされている。これらは「年齢差別」との意見があるものの、後述のように正当な理由があるために合憲だとして年齢条項は存続している。他にも、男性は妊娠と出産ができないという正当な理由があるために女性労働者だけに産前・産後休暇が認められている[2]。未成年者へ「年齢で差を設ける」ことを年齢差別と意見があるものの[2]、昭和60年10月23日の判例で「(未成年者は)心身の未熟さや発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していない」から許容されると結論づけられている[17]。
しかしながら、1947年に改正された相続税法(昭和22年4月30日法律第87号)は、政治家が親から相続する政治資金を課税対象外とする優遇差別が残された。
日本近・現代史の研究で著名なアメリカの歴史学者のジョン・ダワーは、日本における差別の特徴として、日本社会の古くからある身内を清浄、よそ者を不浄に結びつける心理的態度を紹介している[29]。 精神科医の土居健郎は、1971年の著書『「甘え」の構造』の中で、日本人の人間関係の種類として、内と外、を挙げ、“身内にべたべた甘える者に限って、他人に対しては傍若無人・冷酷無比の態度に出ることが多い”[30] 点や、日本人が身内と、身内以外の人に対して、“自分の行動の規範が異ることは、なんら内的葛藤の材料とはならない”[31] 点を、日本人の特徴として挙げている。
ガヴァン・マコーマックによると国連人権委員会の特別報告者は調査のため2005年(平成17年)に来日し、日本は差別が「根深く深刻な」国であり、「精神も思考も閉鎖的」な社会だと報告している[32]。
2017年に最高裁は、遺族補償年金の規定で男女差があることを「性差別(男女差別)」で憲法違反だと主張する男性の訴えに対して、「男女間の労働力人口の割合の違い、平均賃金の格差や雇用形態の違い」から、規定の男女差は合理性があるとして合憲と判断した[3]。
2019年(平成31年)には日本赤十字のポスターが女性蔑視的であると問題視された[33]。
2021年(令和3年)には、大川原化工機事件で無実の拘束者(技術者)が迅速な医療を受けられないままに死亡するに至った。警視庁と検察庁はこのことにつき、会社と遺族に対して謝罪したが、裁判所からの謝罪はなかった[注釈 2]。
2026年(令和8年)9月、東京で、弁護士や障害者団体幹部らが参加するNHRI設立推進ネットワークが結成された[34]。
法律の対応
[編集]現代においては、各国で憲法などにより人権の保障と法の下の平等が謳われ、また市民的及び政治的権利に関する国際規約が締約国に対し、「人間としての平等、生命に対する権利、信教の自由、表現の自由、集会の自由、参政権、適正手続及び公正な裁判を受ける権利など、個人の市民的・政治的権利を尊重し、確保する即時的義務」を定めている。
日本では、日本国憲法第14条第1項において、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、正当な理由無き差別(不当な差別的取扱い)を禁止している[2]。日本国の方針や法律においても、「不当な差別的取扱い」は禁止されているが、「合理的配慮」や「客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」、「その目的に照らしてやむを得ない場合」は認められている。障害者差別解消法において、「不当な差別」が規定されており、健常者と異なる扱いに正当な理由があるものは合法とされている[9][4][10][11]。公職選挙法の被選挙権など各種法令における「年齢差別(年齢制限)」や遺族年金制度などにおける「男女差別(性差別)」など「合理性のある区別」として、合憲や合法とされている[2][3]。
関連項目
[編集]- 非人間化 ‐ 戦争時の敵国人や加害者、奴隷などに対して、同じ人間とは扱わなくなる心理状態。
脚注
[編集]- 注釈
- 出典
- ↑ 日本国語大辞典、広辞苑、大辞泉、大辞林
- 1 2 3 4 5 6 7 8 “〔研究者コラム〕ー「法律と年齢(最終回)」年齢で差を設けることは差別になる?ー - 「法律と年齢」法学部・桧垣伸次准教授”. 福岡大学. 2023年5月12日閲覧。
- 1 2 3 4 “遺族補償年金の“男女差”は合憲 最高裁が初判断”. テレ朝news. 2023年5月12日閲覧。
- 1 2 3 4 “第2 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方:文部科学省”. www.mext.go.jp. 2023年5月12日閲覧。
- ↑ “United Nations CyberSchoolBus: What is discrimination? 差別とは何ですか?]”. 2021年4月7日閲覧。(国際連合)
- ↑ “日本国内にある差別とは?SDGsと紐づけて見てみよう”. 2023年12月25日閲覧。
- ↑ “Discrimination: What it is, and how to cope”. アメリカ心理学会 (2019年10月31日). 2020年10月13日閲覧。 “Discrimination is the unfair or prejudicial treatment of people and groups based on characteristics such as race, gender, age or sexual orientation.”
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