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芸人ごっこ    第5話 (創作大賞エンタメ原作部門)

コント演技の授業の選抜は人数が少ないので選抜1と2は同じ授業に出ることになっていた。

私は選抜2だったが、選抜1の人間達も私の演技を見ることになるので、1軍達に本格的に認知されることになると思うと、楽しみな反面、不安な気持ちも湧いてきていた。

選抜2の自由演技の台本は、基礎とは比べものにならないくらい完成度が高かったが、昇級してきたばかりの私はやはりロクなセリフが貰えなかった。

せっかく選抜2に上がったのに、またもモブキャラ扱いされた私は、怒りが湧いてきて今度こそぶち壊すことにした。

不満があるならば、自分で台本を書けば順番でやらせて貰えるので、そうすれば良いだけの話なのだが、台本の書けない私は、ぶち壊すという純度の高い八つ当たりしか不満を解消する術がなかった。

今度のぶち壊しは、完成度の高い自由演技の台本のセリフで行うのは気がひけたので、講師から渡されていた規定の演技の台本のセリフで行うことにした。

講師から渡された規定の台本は、セリフを一言一句変えてはいけない決まりになっていたので、私は言い方でぶち壊すことにした。

講師から渡された台本のセリフは、いわゆる日常生活に出てくるような普通のセリフであり、その普通のセリフで通常の演技力を評価して、自由演技で面白い演技の評価をしているようだった。  

規定演技の私は一般的な家庭の母親の役で、セリフは《来月の14日の日曜日、サトシの運動会だから休みをとってくださいね》と《ねえ、聞いてる?あなた、最近顔色悪いけど、疲れてるんじゃない?》というものだった。

私は規定の芝居の母親役のセリフを死ぬほど大きな声で怒鳴った。

モブキャラ扱いされたことに対する怒りがあったので、怒鳴ったセリフは真に迫っていた。

特に《あなた顔色悪いけど、疲れてるんじゃない》というセリフは、張り裂けるような声なのにドスが聞いていた。

私がセリフを言い終わった瞬間、授業の教室は爆笑に包まれていた。

講師の先生も笑っていた。

妻が主人の体を心配する心優しいセリフを怒鳴るという行為が、フリとオチの効果を発揮したようだった。

私はまたも偶然の産物によるフリとオチを、短いセリフで作りあげていた。

今回も意図せずにコント演技の授業で爆笑をとった私は、その日の発表で選抜1に昇級することが告げられた。

狙ってとった笑いじゃなかったため、モヤモヤしながら教室を出たのだが、皆が次々と話しかけてきた。

「いや〜面白かったよ」

「どこのクラスなん?」

「自分、コンビ組んでんの?」

「やられたよ。規定の台本で笑いをとることを考えたことなかった」

それは養成所に入ってから、初めて受けた称賛だった。

日本で1番大きなお笑い事務所の養成所で、その日1番の笑いをとったことは誇らしかったが、自分が意図していないところでとった笑いだったので複雑な気持ちもしていた。

一応、細井には計算してとった笑いということにして、その内容と昇級したことを報告した。

その日を境に1軍グループも私に話しかけてくるようになった。

細井と一緒にいるときに1軍達に話しかけられるたびに、相方として紹介していた。

細井はその都度、緊張した顔で挨拶して、1軍が去った後に、いつも授業で目立ってるヤツラが話かけてくるなんてすごいなと私を称賛した。
 
私は同期が話かけてきているだけなんだから、全然すごくないよと、すました顔で言いながらも誇らしい気持ちだった。

細井はいつまでたっでも500人中500位だったが、コンビとしてはモブキャラを脱出できそうな雰囲気になってきていた。  

コント演技の授業で結果を出した私は、同期達にネタの授業も頑張らないと卒業後に事務所に所属できないから頑張れと、葉っぱをかけられるようになった。

今までは同期達からの認知も低くて、誰からも声をかけられることがなかったので、そんなことすら意識してなかったが、確かに養成所に入って4ヶ月以上も経つのに1度もネタを発表したことがないのは非常に良くないことだった。

私はネタを作ってはいなかったが、毎回授業に出てメモはとっていたので、何となくネタの作りかたは以前よりはわかってきた気がしていた。

前に漫才を作ったときに失敗したのは、ボケとツッコミを理解してないのに無理やり作ったことが原因であるというのも分析できていた。

ボケとツッコミを上手く使いこなせないのであれば、ボケとツッコミがないネタを作れば良い。

私はボケとツッコミが必須な漫才ではなく、コントを作ることにした。

どんなコントを作ろうか考えていたときに出席したネタの授業で、初めて課題がでた。

それは次の週にネタを発表する者は、漫才でもコントでもイスをテーマにネタを作るようにとの課題だった。

これはネタを作ったことのない私にはチャンスだった。

普段は無限にあるテーマから純粋に面白さを競うものを作らなければならないが、今回はイスという縛りのテーマがあるので、その中での面白さや完成度を競うことになる。

縛りがあるということは、いつもより面白いという意味でのハードルは下がるはずだ。

私はまず、それまでメモをとっていたノートを見て、コントを作ろうとしたが上手くいかなかった。

無理にコントを作ろうとしても、頭には何も浮かばなかった。

私は公園に行き、そこにあったイスに座ってみた。 

実際に教室にあるのはパイプイスなので公園のイスとは違うのだが、とにかく座ったり、眺めたり、寝転がったり、叩いたりしてみた。

ふと、イスに座ったときにトイレのビデボタンのことを思いだした。

ビデか。 

良く考えたら変な名前だな。

名前か。 

もし私の親が私に、ビデという名前をつけていたらどんな人生だったのだろう。

ビデ ではなく ビデオ というほうが名前っぽいな。

ビデオってヒデオみたいだな。


コントを作ろうとせずに、単純に連想と妄想するだけなら次々に頭に湧いてきた。

私は湧いてきた妄想をノートに書いた。

そして次々と湧く妄想の中から、1つのストーリーができた。

それはある男が、彼女に妊娠をしたからと結婚をしてと言われたのでしたら、生まれてきたのがパイプイスだったというストーリーだった。

その内容は、彼女が自分が産んだと言い張るパイプイスをヒデと呼び、男はそれは赤ちゃんではなくパイプイスだと訴えるが、毎日、パイプイスを甲斐甲斐しく世話している彼女に徐々に感化されて、ついには男もパイプイスを赤ちゃんだと思うようになる。しかし、実は彼女はおかしくなったわけではなくて、ちゃんとそれをパイプイスだと認識していたが、妊娠のウソを誤魔化すために苦しまぎれに赤ちゃんだと言い張っていたというものだった。

そしてラストシーンは、ウソをつき続けることに疲れた彼女が、ふと気を抜いた時にパイプイスであるヒデに座ってしまった所を男に見られて、子供に座るなと詰めらたことがキッカケで感情が爆発し、プロレスラーの場外乱闘のように男をパイプイスでメッタ打ちにして、それを放り投げて去っていき、瀕死の男が放り投げられたパイプイスに向かって ヒデ… と言って終わるというものだった。

ボケもツッコミもなく、笑いどころがあるかすら分からなかったが、とにかく細井に台本を見せた。

細井は台本を見て何も言わずに受け入れた。

細井は養成所に入ってからしばらくの間、私が500人中500位だった時には、もう1人の相方候補だった山田ではなく私を誘ったことを後悔してた様子だったが、私がコント演技の選抜に選ばれた頃から、高校の時のような尊敬が戻ってきていた。

私は主役である男の役を細井にやらせて、自分は彼女の役をやることにした。

その理由は500人中500位のまま燻っている細井を奮い立たせるためとかではなく、単純に細井の方が顔や身体が細長くて面白いからだった。

セリフを言わせてみると細井は致命的に演技が下手だった。

コント演技の授業を見てある程度はわかっていたことだったが、いざ自分の台本をやらせたときに、細井のヘタクソな演技は許せなかった。

許せないと言っても、細井にやらせるしかなかったので、どうやったら成立するかを考えた。

何度、演技指導をしても棒読みが直らない細井を生かすには、あえてワザと2人とも抑揚をなくした棒読みにして、不思議っぽい空気感を出すしかなかった。

もともとの台本がボケもツッコミもない、ただのおかしな妄想なので、2人とも棒読みにすると不条理な空気感がでて逆に良くなった気がした。


つづく

 
 第6話


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