卑怯者の唄〜aikoを可愛いと叫ぶまで25年かかった話〜
私は卑怯者です
人の顔色をうかがい、自分の本音を隠し、人を嘲りながら生きてきました
今日は償いをこめて書き記したいと思います
話は中学校時代に遡ります
前に私が学校の絶対的な番長に逆らい、小学生では言葉によるイジメ、中学校では激しい暴力によるイジメを受けていた話は書きましたが、今日書く話は
その暴力が始まる直前の話です
イジメられた話は
↑に書いたのですが、私はイジメを受けながらも自分と親友の星田でピックアップしたユーモアセンスのある仲間達と卓球部に入って楽しく過ごしていました
そんな私の仲間内の関係に変化が訪れたのは中学校に入ってすぐの頃でした
それは仲間の中の1人の古木の覚醒でした
私と星田を中心とした面白グループとして存在していた集団だったのですが、古木がぐんぐん面白くなったことによってパワーバランスが変わりました
圧倒的な優しさと天性の人を惹きつける人間性を持つ星田と面白いという武器を持つ岩男のツートップだった集団は古木の覚醒により、星田の地位は変わらず中心でその下に岩男と古木の飛車と角がいるような集団に変わりました
私は古木の覚醒を横で見ていてシビれました
もう降参です
古木の一言、一言が何を言っても面白い
集団の中で 岩男と古木が面白い みたいな扱いをしてもらっていましたが、古木には到底敵わないのは自分が1番わかっていました
古木のスタンスの中でも特に面白かったのは毒舌でした
身近な人や物から、芸能人にいたるまで毎日バッタバッタと切り倒していました
パワーバランスは変わってしまいましたが、面白い人が大好きだった私は古木の覚醒を嬉しく思い、また古木に対する憧れ、リスペクトを隠しませんでした
そうなると、面白い ということに対しては古木一強となり、そのことが価値観のすべてだった集団は古木の言ったことがすべて正解というような雰囲気になりました
ちょうどその頃、まだ暴力によるイジメが始まっていない中学1年の時、私には密かな楽しみがありました
その楽しみは部活ではなく中学1年のクラスの中にありました
同じクラスには卓球部の仲間はいなかったのですが、私は毎日学校に行くのが楽しかったのです
その理由は、学校に行くと毎日のように3人組の女子が話かけてくれたからでした
クラスで1番顔が可愛くて少し大人しい豊後さん
1番活発で誰にでも話かけてよく笑う大野さん
三人組の中でも1番岩男に話かけてくれる野田さん
毎日、3人組の誰かしらが
ねえねえ、岩男〜
と話かけてくれる状況は、思春期の岩男にとってパラダイスでした
3人の内の誰かを好きだという気持ちにはなっていませんでしたが、3人とも違った魅力があっていいなと思っていました
そんなある日の放課後、部活にいこうと思った私に3人組が
ねえ、ねえ、岩男〜
と話かけてくれて4人で楽しく話をしていました
その時に背後から声がしました
おい、岩男部活にいこうぜ
それは、古木の声でした
私は名残惜しかったですが、3人組とのおしゃべりをやめて古木と部活に向かいました
古木は、部活に向かう廊下で
1番右の奴、ブスだな
と言いました
それは野田さんでした
野田さんは決してブスではありませんでした
むしろ、平均より全然可愛い部類でした
ただ、少しだけほっぺが下ぶくれ気味ではありましたが、私はそれもチャームポイントだと思っていました
古木は言いました
なんか、おかめ納豆みてーだな
…
………
……………
…………………

岩男の可愛い野田さん…
大丈夫、岩男は可愛いと思うから…
大丈夫、大丈夫…
私が心の中で必死に野田さんを守っていたときに古木はトドメを刺します
紫式部でもあるな…

私の結界は崩れ落ちました…
実際に野田さんの顔を知らない人には伝わらないと思いますが、さっきまで可愛かった野田さんはこの世からいなくなり、変わりにセーラー服を着た紫式部が誕生しました
女子の顔の特徴をとらえて、思春期の女子としては1番言われたくない部類の例えをした古木のセンスに私は笑わざるを得ませんでした
それから古木は私が野田さんと話をしているのを見るたびに馬鹿にしてきました
そして、そのからかい方は残念ながらとても面白くて、私は悪意というものも面白くなり得ることを知りました
面白くするという、最低限の愛情はありましたが…
後にわかったのですが、3人組は野田さんが岩男を気に入っていたから毎日話かけてきていたのでした
面白い人間が1番偉いという価値観にとらわれていた私は古木が認めない野田さんに対して恋愛感情を持つことにストップをかけました
そういうのは伝わるのだと思います
それから少したったのち、野田さんは私の態度の微妙な変化を感じとったのか、あまり話かけてこなくなりました
それからまもなく番長の私に対する暴力のイジメがはじまり、私に話かけてくる女子はいなくなりました
時が経ち、高校生になった私は地元の駅から30分くらい電車に乗った駅の塾に通っていました
そこで、野田さんと再会しました
再会した野田さんは中学1年の時のように私に話かけてくれました
それから2人で待ち合わせて一緒に帰ったり、デートをするようになりました
話のふしぶしに、岩男がその気なら私はつきあってもいいよ というニュアンスをこめてくれる野田さんに私は答えることができませんでした
古木に馬鹿にされる
あの面白い古木にセンスのない奴と思われる
その呪縛は卑怯者の私には何年たっても振り払うことはできませんでした
野田さんを好きになってしまいそうな瞬間がおとずれると私は無理にでも、紫式部を思い出して

恋心にストップをかけていました
古木や卓球部の仲間達とは高校に入ってからも交友は続いていました
相変わらず、古木のセンスはキレキレで会うたびに私は楽しさと敗北感を味わっていました
古木の呪縛と密かな野田さんとの逢引にゆれる日々は突然終わりが訪れました
いつものように野田さんと2人で電車に乗っていたら、悪魔のような笑みを浮かべながら古木が近づいてきました
逃げました
野田さんの手を引いて全力で逃げました
次の日以降、野田さんから連絡がこなくなりました
大学生になり、自由な時間が増えると古木や星田達と遊ぶ時間が増えました
私は車を持っていなかったのでいつも古木か星田の車で遊びにいっていました
車の中では、持ち主である彼らの好きなインディーズロックバンドの ケムリ や ハイスタンダード の音楽が流れていました
私もそういう音楽が嫌いではなかったのですが、Jボップの方が好きだったので、デビューしたてで、顔も音楽も可愛い aiko のCDを持っていってこれをかけてくれとたのみました
花火 だったかな カブトムシ だったかな
どちらだったか覚えてないですが、私は聴き終わったあと
すごいだろ⁈ この娘、曲もいいし、顔も可愛いんだよ
と、言おうとした刹那、古木が
ああ、この娘知ってるわ、曲はいいけど
顔、ブスだよな
と言いました
そんなことは、絶対ない‼ aikoは可愛いい‼
と、思いましたが卑怯者の私はまたしても愛想笑いで古木の価値観を受け入れるしかありませんでした
どうやら、古木は個性的な顔立ちをした人はみんなブスに見えるようでした
逆に 古木が aiko をブスといったことで、ああ、可愛い人も個性的な顔だと古木にはブスに見えるんだなとわかって少しスッキリした部分はありました
だって aikoは可愛いから
次の日、野田さんから久しぶりに連絡があり、チケットが余っているから2人で野球を見にいこうと言われました
久しぶりに会う野田さんは、やっぱり話やすくて可愛らしくて楽しい時間を過ごせました
それから、週に何回も電話したり、食事にいったりする日々を経て野田さんから、決定的な誘いがありました
あのさ、岩男、もし嫌だったら全然断ってくれていいいんだけどさ…

もし、嫌じゃなかったらさ…

今度のクリスマスさ…

2人でさ…

ディズニーランドにいってくれない?

行きたい‼ 行きたい‼…
………………
……………………
…………………………
そう思っていたのに私からでた言葉は
ごめんなさい
でした
やはり呪縛からは逃れることはできませんでした
時は流れ、そんなことをすっかり忘れていた、2025年
知り合いと食事をしていた時、店内に aiko の ボーイフレンドが流れました
私は無意識に
aiko 懐かしいな 曲も顔も可愛かったなあ
とつぶやいていました
その瞬間に呪縛の記憶が舞い戻り、そうか…私は…25年かかって人前でaikoを可愛いと言えるようになったのだな と思いました
だから今日は、25年分の想いを込めて叫びます…
