見出し画像

芸人ごっこ     第4話 (創作大賞エンタメ原作部門)

ネタの授業で発表に参加するどころか、1本のネタすらまともに作れなかった我々だったが、もう一つの出席していた授業であるコント演技の授業でも全く何もできなかった。

細井の細長い顔と体は面白いはずなのだが、場違いな所にきてしまったという思いからか、細井はドンドン萎縮してしまっていた。

コント演技は最初から演技力でクラス分けがされていて、選抜1、2と基礎1、2というクラスに分けられた。

選抜1が1番上のクラスであり、その次が選抜2、その次が基礎1、1番下が基礎2であった。

演技などしたことがなかった私と細井は最下層の基礎2に振り分けられてた。

振り分けは面白い顔や演技ができる人や、単純に演技力が高い人などが選抜1や選抜2に選ばれていた。

私はともかく、細長くて面白い顔と体をしている細井は、この授業では結果を出せるはずだと思っていたが全くふるわなかった。

そんな中、養成所ではヒエラルキーができはじめていた。

ネタの授業で積極的に発表をしたり、コント演技で選抜1や2に選ばれている人間達がスクールカーストの1軍みたいなものを形成しはじめていた。

1軍達が養成所の近くの公園や喫茶店でたむろしているのを見て、私は憧れに近い感情を感じていた。

通常の学生生活のような、運動神経が良いとか、勉強ができるとか、顔がカッコいいとかで形成されるくだらないカーストではなく、面白いことを追求するための学校で結果を出した人間達で形成されるカーストはとても輝いて見えた。

ある日、授業が終わった後、私と細井が養成所の近くの喫茶店にいた時に1軍の人間達が入ってきた。

私と細井は1軍の人間達を認識していたが、彼らは基礎クラスの我々を認識して無いみたいで、こちらを見向きもしないで近くに座った。

私は1軍達がどんな会話をしているのか気になりすぎて、聞き耳をたてた。

「ネタの授業で何の発表もしないヤツラって何のために養成所にきたんだろうな」  

「そうそう、アイツらマジで意味わかんねーよな」

「まあ、たぶん、アイツらコントと漫才の違いすら
わかってないだろ」

1軍達の会話を聞いた私は、顔が熱くなってくるのを感じた。

彼らの言う通り、最近までコントと漫才の違いをわからないレベルだったのに養成所に入学してしまって、案の定、何もできない自分がとても恥ずかしかった。

細井も恥ずかしかったに違いない。 

いや、むしろ細井の方が恥ずかしさと絶望感を感じたかもしれない。  

細井からすると、自分が勘違いしていたのを思いしらされたのはもちろんのこと、自分が出会った、高校、大学の人間の中で1番面白かったはずの私ですら、養成所生500人の中で最下位だったのだ。

500人中、500位だったことをあらためて思いしらされた我々は、無言のまま喫茶店をでて帰宅した。

家に帰って1人になると、恥ずかしさは怒りに変わった。

4カ月も養成所に通っていたのだ。

よくよく考えたら、1軍達も私と細井の顔くらいは認識していたはずだ。

私はキラキラした1軍に緊張して、目の前で侮辱されたことにすら気がつかなかったのだ。

確かに我々は、漫才とコントの違いすらわからない、何で養成所に通っているのかわからないヤツらかもしれないが、売れっ子芸人とかではない、ただの同じ養成所生にそこまでバカにされる道理はないはずだ。

どんどん湧いてくる怒りで眠れなかった私は、一睡もしないまま朝を迎えて、怒りを抱えたままコント演技の授業に出席した。

コント演技の授業はクラスの中で班分けがされていて、講師から渡された基本の台本のストーリーの中に自由演技の時間があった。

その自由演技の場面で班ごとに1分間の集団コントを行って、その内容で評価されていた。

班ごとに行う集団コントは、自分達で台本を考えて発表するのだが、自分で台本を考えない私は、この4カ月間、誰かが考えた台本の端役ばかりをやっていた。

授業の前に同じ班の人間と待ち合わせして、自由演技の打ち合わせをしたのだが、今回も私はほとんどセリフのない端役だった。

同じ班の人間が考えた台本は、当時流行っていた、 世にも不思議な物語というオムニバスドラマのパロディみたいな内容だった。

そのドラマはお昼の人気番組、笑えばいいでしょ の司会だった、ヤモリというサングラスがトレードマークの人気タレントがオープニングに出てきてストーリーテーラーをつとめていたドラマだった。

台本を考えた人間は私に

「世の中の人間には、平等に与えられたものがあります。それはチャンスです。今日は皆さんにチャンスにまつわるお話を見てもらいましょう。って言って、 世にも不思議な物語のヤモリさんみたいにストーリーテーラーをやってくれるだけでいいから」

と言った。

いつもなら言われた通りやるのだが、昨日、1軍達にバカにされた怒りが残っていた私は、ちゃんとやる気が起きなかった。

台本を考えてくれた人は同じ基礎2クラスなので、彼に怒りをぶつけるのはお門違いだが、とにかく私は台本通りにやる気が起きなかった。

台本では、私がストーリーテーラーとして冒頭のセリフを言うことから始まるのだが、私は自由演技がはじまってから20秒くらい、何も言葉を発しなかった。   

20秒の沈黙の後、私は、台本をぶち壊すつもりで

「ヤモリです」

と言った。 

世にも不思議な物語では、ストーリーテーラーのヤモリさんが 

「ヤモリです」

と自己紹介をするシーンは基本的になかった。

私はサングラスをかけて見た目を寄せるわけでもなく、モノマネをして声を寄せるわけでもないのに、ヤモリですと冒頭で言うことによって、コントの世界観をぶち壊してやろうと思ったのだ。
  
そして続けて

「ストーリーテーラーです。世の中には平等に与えられたものがあります。それはチャンスです。それでは皆さん、ハリキッてどうぞ」

と言った。

ドラマのストーリーテーラーが自分で、ストーリーテーラーです、とか、ハリキッてどうぞ、などと言うわけがない。

私は怒りにまかせて台本をめちゃくちゃにした。

しかし、その私の八つ当たりは台本をめちゃくちゃにはしたが、計算外のことが起きた。

最初の《ヤモリです》のところでいきなり大きな笑いが起きたのだ。

おそらく最初の20秒の沈黙で、私はセリフが飛んで頭が真っ白になって固まっていた人に見えていたのだった。

それは見ていた他の班の人間達に、緊張感を含む共感性羞恥を呼び起こしていた。

そんな中で言った《ヤモリです》というセリフがその緊張に対しての緩和を起こしたのだった。

笑いの基本は緊張と緩和だ。  

フリとオチとも呼ばれる緊張と緩和を、私は意図せずに作りだしていた。

1度ウケてしまえば、あとはなにを言ってもウケるもので、その後の私のセリフにも爆笑が起こっていた。

その日の授業の終わりでクラスの昇級者が発表されて、私は選抜2に昇級することが告げられた。

基礎1を超えて飛び級での選抜2への昇級は、その日の授業では私1人だった。
 

つづく

第5話


いいなと思ったら応援しよう!