final DX10000 CL Collector's Edition ファーストインプレッション & レビュー
はじめに
ダイヤモンド振動板という、名前からしてときめかざるを得ないドライバユニットを搭載したイヤホンが日本から発売されるということで、2025 年 10 月に「final A10000 Collector's Edition」を入手しました。
期待以上に素晴らしい音で非常に気に入ってしまい、それ以来メインのイヤホンとして日々使っています。
そのダイヤモンド振動板を直径 40 mm へと惜しみなく拡大し、しかもオーディオルームのような個室を用意しなくとも気軽に聴ける密閉型の筐体にその振動板を収めたヘッドホン「final DX10000 CL Collector's Edition」が発売されると final さんからの案内で知りました。
正直なところ、ヘッドホンはイヤホンのような装着の手軽さがなく、どちらかといえば敬遠しがちなカテゴリなのですが、別に所有しているヘッドホン Victor HA-WM90-B の音があまりに濃厚かつ繊細で、例外的にお気に入りとなっています。
もしかすると、DX10000 はそのような域へ入ってくる可能性のあるヘッドホンかもしれない、しかもあの final さんの A10000 とゆかりがあるのならば、と俄然興味が湧いてしまい、気づいたら 2026 年 7 月 24 日の発売日当日に入手してしまっていたという経緯です。
手元に届いて以来、すでに 10 時間以上は聴いている状態になりましたので、少しまとまった形でファーストインプレッションを書いてみたいと思います。例によって素人の好き勝手インプレになりますので、どうか生暖かい目でご覧いただければ幸いです。
なお、DX10000 を聴き始めてから 1 時間程度の間で感想をリアルタイムに綴ったメモのようなインプレも書いておりますので、ご参考にいただければうれしいです。
そちらにも記載しておりますが、DX10000 のドライバユニットの前(イヤーパッド内)には、おそらく輸送時の保護用?(→フィルタのようです ※後日追記)と思われる円形のスポンジが装着されています。これを外すのが正解なのか、現時点ではマニュアル等で見当たらないものの、スポンジの有無で音が全然違ってくるため、この記事ではスポンジを「外した」状態で聴いた時の感想をまとめてみたいと思います。
機器構成
【音源】Mac の Qobuz アプリで再生し USB 出力
【DAC】RME ADI-2/4 PRO SE
【ヘッドホン】final DX10000 CL Collector's Edition(音響スポンジフィルタなし)
おすがた






【右】Victor HA-WM90-B(大きさ比較のご参考)
右はイヤーパッドカバーつけてます
音が空間とともに
このヘッドホンを聴いた第一印象がこの言葉です。
私の場合はどうしても、同じくダイヤモンド振動板を擁する A10000 の音を思い出しながら比較してしまうので、そのような対象がない状態で聴いた場合とは印象が異なってくる可能性があることをご承知おきいただければ幸いです。
全体的な印象としては、A10000 のフラット・キレがある・粒立ちがよい音が、DX10000 にもすべて余すことなく踏襲されています。
その上で、大型化したドライバユニットが生み出す音のダイナミックさが、この第一印象の片翼を担っています。
そして、もう一つの片翼はイヤーパッドが作り出す空間です。ダイヤモンド振動板特有の「音のダイレクトさ」を空間へ溶け込ませる手法として、ドライバユニットと耳との間に空隙を作るための大きなイヤーパッドが開発されたのではないかと想像しています。
これらの両翼により、もともと粒立ちの良い音どうしが空間を経てちょうど良い感じで混ざり合い、干渉しあって、まるで空間に溶け込んでいるような形となって耳へ届いていると予想しています。そして、その大きな空間に音を余すことなく伝達するため、直径 40mm に大型化したダイヤモンド振動板が欠かせない存在となっているように思います。
また、音が空間とともにあるという特徴は、「音場の広さ」にも寄与しているようです。もともと定位の良いダイヤモンド振動板が、イヤーパッドによる物理的な空間の広さを手に入れたことで、サウンドステージも広がっているように思います。A10000 の箱庭的な音場の良さとは少し異なり、DX10000 はまさにステージという感じの躍動感ある音場です。
しかも、その音場は非常に整っており、少々おかしな表現かもしれませんが「音場が美しい」です。音が混ざり合う空間をあえて設けているにもかかわらず、その弊害として起こりそうな音の乱れがほぼ皆無です。これこそダイヤモンド振動板の真骨頂なのかもしれません。
リバーブ(余韻)が美しい
音が混ざり合う過程での乱れがほとんどなく、美しい音場が形成される副次的な効果なのか、音源に含まれるリバーブ(余韻)が非常に美しいです。
そのためなのか、ヴォーカルや楽器が醸し出すわずかな「ニュアンス」の表現がとても得意なヘッドホンだと感じます。
シンセサイザーなどで音作りなどへ実際に携わってみると、自分がこだわった細部の音表現は、聴き手の機器によって思いのほか丸め込まれてしまい、音の作り手としてはもどかしい思いをすることが多々あるように思います。
DX10000 は、そのような細部に宿る神をちゃんと尊重してくれるヘッドホンのようです。それが、空間表現の巧さと相まって、嫌味にならないちょうど良い塩梅の主張として織りまぜてくれます。
さらに付け加えると、音量はかなり控えめでもしっかりした空間表現を維持できます。具体的には、DAC の出力表示値での話になりますが、A10000 よりも 5 〜 10 dB 程度音量を下げても同じような聴き応えがあります。
これらをすべて網羅する形で、DX10000 の最大の特徴を一言で表現するならば、「場」が美しいヘッドホン、ということになるのかなと思います。
あたりまえを涼しい顔であたりまえに
ダイヤモンド振動板の基本性能の高さについては、A10000 である程度経験しているため、そこに特段の驚きがなくなってしまっているのですが、車で言うところの「走る・止まる・曲がる」を音の世界で着実に実現しています。
音の立ち上がり・音の立ち下がり・音量の変化に対するレスポンスの良さはさすがの一言で、特に、A10000 のレビュー記事にも書いた、音の「入出力のリニアリティ」が DX10000 でも同様に高いレベルにあると思います。
これらは、音を表現する上でとても基礎的な「あたりまえ」の要件ではありますが、それを実現するのは一筋縄で到底叶うものではないはずです。そのための素材選び・成型からドライバユニットの開発、筐体の設計、音響空間の確保など、すべてのバランスをとりながらここまで仕上げられるのかと心から感心しきっています。開発者のみなさまには敬意しかありません。
言葉を選ばずに言えば、やっていることは変態級のこだわりです(褒めてます)。でもその完成品は変哲のない・欲目のない「あたりまえ」なんです。求められる「あたりまえ」をちゃんと「あたりまえ」として愚直に(褒めてます)完成させてしまっています。しかも、聴こえてくる音にドヤ感がありません。涼しい顔をしてごくごく自然に「あたりまえ」を表現してきます。
これは、企画や開発のプロセスを一つひとつ想像すると初めて見えてくる「とてつもない情熱」の結晶なのではと思います。おそらく、ここに至るまで数えきれない失敗を積み重ねて、莫大な投資もして研究開発に勤しまれたのではと想像します。
DX10000 はたしかに高価ではありますが、実際に触れて、そして聴いてみて、そこに込められた情熱に価値を見出せるのであれば、応援してみてもおそらく後悔はしないのではと思うところです。
A10000 とは似て非なる性格
DX10000 は、基本的には A10000 の音作りを踏襲しながら、音を奏でるための美しい「場」づくりに大きく注力したヘッドホンかと思います。
その上でもう少し深掘りし、A10000 とは異なる性格についていくつかピックアップしてみたいと思います。
DX10000 は 比較的柔らかめに感じる音です。いや、十分キレッキレで A10000 にも負けず劣らずの解像感はあるのですが、物理的な空間(イヤーパッド)をうまく使っているためなのか、ヴォーカル等を含む各楽器の音がそれぞれ完全に独立している感じではなく、互いにほんのり響き合っているような面持ちです。
美しい「場」をうまく使って、その中で音どうしの結びつきや一体感を生み出しているような感じです。非常に心地よいです。
また、低域は明らかに A10000 よりも出ています。A10000 もよく聴けば超低歪のタイトな低音がちゃんと出ているのですが、どちらかと言えばモニタライクな音で、音楽として楽しんで聴こうと思うと EQ で低域を数 dB 持ち上げたくなります。
その点、DX10000 は EQ をまったくフラットな状態のままで、「聴くことを楽しめる低音」がしっかり出ています。しかも、どう表現するのが適切か悩みますが、「懐が深い低音」です。十分にキレがありますが、適度に「緩い」「落ち着いた」低音です。
もしかして、これも振動板の大径化による恩恵なのかもしれないですね。物理的に大きく・重たくなっているため、制動のキレはほんの少し穏やかになっているのかもしれませんが、聴感としては完全なモニタ寄りではなく、楽器的な響きもほのかに楽しめる仕上がりの印象です。個人的に大好きなチューニングです。
さらに、主観で恐縮ではあるのですが、遠近の表現ニュアンスがとても良いです。カメラで言うところの「パース」の付け方が上手いと言う感じで、張り出してくる音とバックを支える音の遠近的なコントラストが絶妙です。
音源によるところはありますが、例えば耳元に迫りくるヴォーカルと、それを後方から雄大に支えるドラムやベース、それらの間に位置して全体のバランサーとなるギターやシンセなどとの奥行き的な距離感がちょうどよく、ますますマスタリングの腕が問われていくような、ポテンシャルの高い空間表現力を持ったヘッドホンです。
さいごに
期待を裏切らない。それを見事に実現したヘッドホンだと思います。
先に A10000 をリリースしたことで、きっと自らハードルを大きく跳ね上げてしまったことと思います。私のように、A10000 をひとつの基準にして DX10000 を聴くようなケースも多くあるはずです。
そのようなプレッシャーとも言える高みを、こんなに素晴らしい形で実現したのかと思うともう感動ひとしおです。DX10000 に出会えてよかったと心からそう思います。
私ができることは微力かもしれないですが、final のみなさまに励みとなり、これからもワクワクするような楽しい機器を開発していただきたいなと願うばかりです。
僭越ながら、とても長くなってしまいましたが、final DX10000 CL Collector's Edition を入手してから10 時間程度時点でのファーストインプレッションとして記し、これにて締めくくりたいと思います。
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。
