小説:フルマラソンを5時間で走る約束をしてしまった(12)
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第6章の2
ショッカー隊がスピードを上げ、僕の脇を抜こうとした時、3番目のショッカーがふらついて僕の方に倒れかけた。あっと思った次の瞬間、僕の右足はショッカーの足を踏んでいた。僕の体はショッカー隊の方につんのめり、4人が一斉に転んだ。
「すみません、ごめんなさい、大丈夫ですか?」ショッカー3号が初めて喋った。
「いや、だ、大丈夫です。みなさんも大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかOKです。」ショッカー1号が応える。
「ほんとにごめんなさい。」さらに3号が謝ってくる。
ウクレレと天狗に抱き起こされた時、僕は右足を捻挫したことに気がついた。2週間安静にしてやっと治った場所を再びやっちまったのだ。何てこった。
3人のショッカーは揃ってペコリと頭を下げて走り出した。次の瞬間、2号が3号に向かって親指を立てて見せたのだ。「ぐっじょぶ」だ。あの仕草を自然に繰り出せるのはあいつしかいない。敵の正体を知った僕はショッカーを追った。その時の僕は足の痛みを完全に忘れていた。
「待てえ、徹也あー!」
僕の叫びに足を止めたショッカーは足を止め、僕に向き直った。ショッカー3人と、僕ウクレレ天狗グループがおよそ5m隔てて対峙する構図となり、2番が覆面を取った。やはり徹也だ。
「ふっふっふ、よくぞ見破った。」今日、初めて徹也の声を聞いた。
「なんで徹也のさわやかなショッカーが邪魔なテニスのかっこいい味方で料理がえらい美味いは騙したのか。」僕は混乱していた。
「何言ってるかわからん。質問は一つずつにしろ!」
腕組みをする徹也のわきを5時間の風船が通り過ぎていく。
「お前、応援してくれてたんじゃないのか?」
「応援したのは間違いない。それは、邪魔する前のせめてもの罪滅ぼしだ。」
「あの手紙は、お前が自分で持ってきたのか。」
「そうだ。橋本さんに送ってもらって俺が入れた。」
手紙を握りしめて運転手付き高級車にぽつんと乗ってる徹也を想像して、不覚にもプッと笑ってしまった。
「テニスで捻挫したのもお前の作戦か。」
「あれは違う。お前が勝手に転んだんだ。お前が出られないと邪魔もできないからほんとに焦ったぞ。」
「爽やかでかっこいいお前がショッカーのもっこりタイツで恥ずかしくないのか。」
「俺は今、自分でもヘドが出るほど卑劣なことをしているのだから、それに見合った服装は必須なのだよ。わかるかね、この美学がぁっ。」
くぅっ、よくわからないが何故か説得力がある。
そうこうしているうちに修が追いついてなんだなんだと話に加わってきて、4対3になった。
「おれにまかせろ。」天狗が静かに言うと、ひょうと飛び上がり空中で下駄を脱ぎ捨てると素足でコンクリートの上にずんと着地した。次の瞬間「うおおおおおおおおおおっ」と唸り声を上げ、僕たちもびっくりしたがショッカーも勢いに飲まれて一歩後ずさりした。天狗の「うおおおお」はまだ続いているが、立ち尽くしたままの天狗が攻撃する気配はない。
「うおおおおおおおおおっ、足がつったあああああ!」天狗は仰向けに倒れこんだ。すぐに修が天狗の足を押さえ、アキレス腱伸ばしにかかる。足がつった天狗と人命救助をしている修が脱落し、2対3になった。不利だ。
「仕方ないねえ、ここは僕の出番だね。」そう言うと、ウクレレが激しく鳴り響いた。これは闘牛の時に出てくる音楽だ。
「ジャンジャカジャンジャカジャンジャカジャンジャカ、あ、き、ひ、ろう!つ、よ、い、ぞう!あ、き、ひ、ろう!ま、け、な、いい!」
「ウクレレさん、戦わないの?」
「僕の使命は応援することさっ!」
「はーっはっはっは!何の戦力にもなりゃしないわ!」徹也が高らかに笑った。それを聞いたウクレレのメガネがキラリと光り、「なら、これはどうかな?」と言うと、2曲目が始まった。今度はバラードだ。
「おかあーさん、んがあ~、泣いてえーいーる~。ジャカジャン。あんたわあ~すなおーでえー良い子おーだーよ~。ジャカジャン。かあーさん、んわ~、しってえーいーる~。」
「それがどうした、音楽なんぞ、無駄無駄無駄無駄あー!」徹也が叫ぶ。しかし3号は確実に戦闘力を削られている。3号は肩を震わせうっうっうとしゃくり上げ、「うわーん、僕が悪かったよおおお!」と叫んで走り去った。いいぞウクレレ。これで2対2だ。
「くぅっ、敵ながらあっぱれだ。しかし、まだ2対1だ。」
そうだった、ウクレレに戦闘能力はないのだ。実質1対2でまだ敵が有利だ。
そこへ玲子さんのクソ親父が通りかかった。
「なにしてんの?」
「ああ、お父さん助けて下さい。邪魔されて先に行けないんです。」
「ほお、そうかそうか。んじゃ、頑張って。」そのままクソ親父は走っていった。
「薄情者おーっ!」と叫んでやったら、
「法的な後始末はしてやるからー、自力で乗り越えろー。」と遠くから聞こえた。
「そーれ、怪獣オタク、かかってこーい!」徹也が不敵な笑みを浮かべている。こうしてる間にも時間はどんどん過ぎていく。
その時、へろへろになったガンダムが追いつき、突然ショッカー1号に飛び蹴りを食らわせた。
「ぐわあ」と声をあげた1号はどうっと倒れ、2号いや徹也と僕は何が起きたか理解できず、立ち尽くすだけだ。ここまで巨大な着ぐるみを着て走ってきたガンダムは、膝に手をつきゼーゼーと肩で息をしていて苦しそうだ。
「何だお前は!」
我に返った徹也が叫ぶと、ガンダムはゆっくりと徹也に向き直り、ガンダムの頭部を外した。
「私だよ。」
玲子さんだ!わーい玲子さんだ!わーいわーい、やっと会えた!玲子さーん!
でもなぜ玲子さんがここにいる。なぜ走ってる。僕は混乱した。
「なぜ美しい体力は玲子さんがガンダムの購入したキックのすばらしい切れ味なのか?」
徹也も混乱しているようだ。
「何言ってるかぜんぜん分からん。質問はひとつずつしろ!」
巨大なガンダムの躯体からちょこんと出た玲子さんの顔は、やっぱり美しい。汗にまみれた髪の毛がほっぺにへばりついてる様も含めて、どんなシチュエーションでも玲子さんは完璧だ。ああ、僕は世界一幸せだ。
「そのガンダムはどこで売ってるんだ!」徹也の質問は妙に外してる感があるが、彼にとってそれが最重要課題なのだろう。
「これは非売品だ。私が自作したっ!」
すごい完成度だ。その時僕の脳裏に浮かんだのは、玲子さんと僕が一緒に怪獣フィギアを作成している光景だ。玲子さんが僕の趣味でも戦力になることがわかり、僕は有頂天だ。
「お前、会社の資材を勝手に持ち帰ったなあ。」
「はっはっは、お生憎様。これはあったらしい事業展開の試作品よ。きちんと許可を取って勤務時間内に大阪支社で作ったのでごっざいまあす。」
「また上司に顔面15センチ攻撃をしたなあ!」
「知るかぁ!勝手に腰砕けになる方が悪い!」
「それから、お前のその体力と戦闘力はいったい何だ!」
「ヒーローは常に修練を怠らないものよ。さあ、いくわよっ!」
攻撃の構えをした玲子さんに僕は「玲子さん、そのまま、ストォォォップ!」と叫んだ。
「なになに、どうしたの明弘くん。」
僕はウエストポーチからスマホを取り出し、玲子さんと徹也、そしてピクピクしてる1号の周りをぐるっと回り、撮影した。こんな素晴らしい光景を記録しないなんて考えられない。360度撮影したから後で3D処理できる。玲子さんとショッカーのフィギアを作るんだ。
「何してんのよ明弘くん。時間ないんだから!」
液晶画面ごしにポーズをとる玲子さんを見ながら、僕はこの光景をどこかて見たような、妙な感覚に囚われた。これ、見たことある。なんだっけ、どこだっけ、リアルに身近なことだっけ、テレビの中だっけ。ぼくは頭を抱えて必死に思い出そうとした。
「明弘くん、どうしたの!」
「ちょっと待って····今、何か思い出しそうな···」
「だからあ、時間ないんだってばっ!」
「玲子さんの、その、、、デジャヴ感が····」
「もういい!私が疑問を解いてやる。」
「へ?」
「私、かば子だよ。」
世界が凍結した。ピンクのかば子だって?かば子はかば子だろ?美しくないだろ?
「かばこおーっ? 玲子さんが、、あの、、しょんべんかばこおー? お前整形したのか?」
次の瞬間、玲子さんの回し蹴りが僕の胸にヒットし、僕は2m飛ばされた。
「しょんべんて言うな! それから、整形なんぞしてないわい!」
(「第7章 しょんべんかば子の回想」へつづく)
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