小説:フルマラソンを5時間で走る約束をしてしまった(13)
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第7章 しょんべんかば子の回想 の1
「ねえママ、れこちゃん、かばさんに似てる?」
「カバさん?···似てないと思うけど···どうかしたの?」
「ううん···何でもない。」
れこちゃんはお歌が大好き。小学校はぜーんぶ楽しいけど、お歌の時間は特別。朝のごあいさつのあとで歌うのとか、おんがくの時間とか、発表会のれんしゅうとか、一生けん命お歌を歌うの。先生も「れいこさん、お歌が上手ねえ。」とほめてくれる。先生にほめられると、れこちゃんはうれしくてうれしくて、もっと元気に歌うんだ。でも、きょうは悲しくて涙が出てきた。
「みんな、れいこさんみたいにお口を大きく開けて、げんきに歌いましょうね。」最初はぜっこうちょうだったの。「れいこさんに、お手本を見せてもらいましょう。」それでれこちゃん、おおおおおきくお口を開けて歌ったの。でもね、かこちゃんが言ったの。「れこちゃん、カバさんみたーい!」そしたらみんな笑ったの。れこちゃん悲しくなって先生を見たら、先生も笑ったの。「そんなこといっちゃだめですよー。」って言ったけど、先生も笑ったの。れこちゃん涙が出てきたけどがまんして「えへへ」ってわらって自分の席に戻ったの。
それかられこちゃんのあだなは「かば子」になったの。お歌の時間になると、みんながれこちゃんの顔を見て笑うから、れこちゃんお歌が歌えなくなっちゃった。だって、おおきなお口が開けられないんだもん。でも、れこちゃん泣かないよ。泣くとね、もっと悲しくなっちゃうから。だから「えへへ」って笑ってみんなと遊ぶんだ。かこちゃんはちょっといじわるなところがあって、少し苦手なんだけど、遊んでくれるから一緒なの。いつも遊ぶのはかこちゃんといずみちゃん、それからのんちゃんとわたし。学校が終わると、かこちゃんの家のそばの公園で遊ぶんだ。
1年生のおわりくらい、公園で遊んだの。みんなでおにごっこして、けんぱして、すべり台してたらね、れこちゃんおしっこがしたくなったのね。それでね、トイレに行ったら「そうじ中、使えません」て書いてて、れこちゃん困っちゃった。かこちゃんに「ねえかこちゃん、おトイレかして。」ってお願いしたらね、かこちゃんイジワルな目になって「おうちに他の人をかってにいれちゃだめってママが言うから、かさなーい。」っていうの。そしたらのんちゃんもいずみちゃんも「そうだよ、勝手に人の家に入れないんだから。」っていうから、れこちゃんほんとに困っちゃって、トイレのうしろでおしっこしちゃったの。だって、おもらしするのはイヤだから。そしたらかこちゃんが「うわー、れこちゃん外でおしっこしたあ。わあ、きったなーい!でも言わないであげる。友達だから言わないであげるんだからね。」って大きな声で言うから、涙がどうって出てきちゃった。トイレ掃除が終わって出てきたおばちゃんに、かこちゃんが「おばちゃん、この子トイレのうしろでおしっこしたんだよ。」と言うから、言わないであげるって誰に言わないことなのか、れこちゃんわからなくなって、また涙が出てきた。おばちゃんは「あらあら、言ってくれればよかったのに···」と言ったけど、かこちゃんに注意してくれないからもっと悲しくなっちゃった。だけどね、かこちゃんにはんこうするのはイヤだから、涙をふいて「えへへ」って笑ったの。おしっこのことは忘れてがんばって遊んだの。
言わないであげるって言ったのに、2年生になったられこちゃんのあだなは「しょんべんかば子」になってた。学校は楽しくなくなって、お歌の時間も大嫌いになった。ほんとはれこちゃん、お歌が大好きなんだよ。でも、もう歌えないの。「あれれ、れいこさんお口が小さくなっちゃったわね。あんなに上手だったのに。」って先生が言うけど、先生はれこちゃんの心の中がわからないんだ。それでね、れこちゃんね。かこちゃんとも遊ばなくなっちゃったの。だって、「しょんべんかば子」なんてほんとにイヤなんだもん。
5月だったかなあ。ひとりで近くの公園にいったらね、別の組の男の子が4人で遊んでたの。「○○キーック!」とか「△△フラーッシュ!」とか叫んだり、4人で並んでポーズとってたりしてたの。れこちゃんブランコきいきいさせながら見てたんだ。
「われら5人、いにしえのたいこよりよみがえりし、その名も、ダイナソー、ファイブ!」
「やっぱ4人だと、なんかうまくいかないなあ。」
「も一回やろ。いにしえのたいこより···」
「でも、真ん中にゆうすけが立つでしょ?みぎとひだりが一人と二人で、合わないんだな。」
「新めんばー、誰かいないかなあ。」
お話してた男の子のひとりが、れこちゃんを見たから、れこちゃんあわてて違う方を向いたんだ。
「おい、あれ3組のかば子?」
「えー、知らない。」
「うん、かば子だよ、3組。僕登校班一緒だから知ってるよ。」
登校班が一緒なのは2組のそうたくん。他の人は知らない。
「あいつ、ピンクだね。」
「うん、ピンクだ。」
その時れこちゃん、ピンクのセーターだったの。
「誘ってみる?」知らない子が話してるのを聞きながら、れこちゃんドキドキしてきた。
「えー。かば子だぜ。」
「でも。ピンクだよ。」
4人が近づいてくるのを耳で感じて、きんちょうで逃げようかと思ったけど、そのままブランコきいきいしてた。そしたら知らない子が言ったの。
「あのー、ひまだったらちょっとダイナピンクやってもらえる?」
「だいなぴんくって何するの?」れこちゃん頑張って返事した。
「ゆうすけ、これレッドで真ん中でね。こうやって立つから、隣で、いやこっちじゃなくてこっち。そんでね。手をね、こうやって。足はこうね。」
「こう?」
「うん、そうそう、じゃあ、そのまましてて。」
他のみんなも並んで5人がお山の形になってね。そんで、4人がまた叫ぶの。
「われら5人、いにしえのたいこよりよみがえりし、その名も、ダイナソー、ファイブ!」
よくわかんないけど、みんな「決まったあー!」って喜んでるの見てたられこちゃんも嬉しくなっちゃった。何回か同じポーズで遊んでね、「かば子、今日の6時半からダイナソーファイブやるから、見とけな。」って言われて4人はどっかに行っちゃった。
家に帰って「ママ、ダイナソーファイブ録画して。」ってお願いしたらママはびっくりしたみたい。6時半になってテレビを見て、ご飯を食べてから何回も何回もダイナソーファイブを見たの。ダイナピンクが何をするかもわかってきた。
次の日から、れこちゃんは公園でブランコきいきいさせながら、4人が来ないかなあって待ってたの。そしたら何日かして、またダイナソーファイブごっこをしたから、れこちゃん嬉しくて、誘ってほしくてブランコをぎゅーんぎゅーんてこいだ。そしたられこちゃんに気がついて近くに来て、「かば子、ダイナソーファイブ見た?」と聞くから「ちゃあんと見たよ。」と返事したら、「本当にみたのか?」「ほんとうに見たよ。」「じゃあダイナピンクやってみて。」って言うから、れこちゃん、本気のダイナピンクを見せてやった。
「たいこのこうやに咲くいちりんのバラ、愛と情熱のおおおおおおおっ、ダイナあああ、ピンクう!」
れこちゃん一番大きな口で叫んで、パッてポーズ決めたの。そしたらね、みんなびっくりして口をあんぐりしてね、もしかして「かばみたい。」って言われるかとドキドキしてたら、逆にほめてくれたの。
「かば子、すげええええっ!」
「かあっこいいい!」
「すげえすげえ、もう一回やってもう一回。」
それかられこちゃんは毎日が楽しくなった。かこちゃんとは遊ばないけど、ダイナソーファイブのせいしきメンバーになったれこちゃんには、なかまがいるんだ。「かば子」と言われると心が少しちくっとするけど、「しょんべんかば子」って言わないかられこちゃんのじそんしんは傷つけられないで遊べたの。いつもは近くの公園で遊ぶけど、男の子はぼうけんしんが強いから、時々5人で遠くまで行っちゃうの。川沿いにどんどん歩いたり、知らない空き地の木材おき場に秘密基地を作って怒られたり、最初はれこちゃんびっくりしてたけど、だんだん慣れて、楽しくなってきちゃった。
だけど、夏休みの終わりにれこちゃんは京都に行くことになった。1学期の終わりに学年集会で「宮本玲子さんはお父さんの仕事の関係で京都に転校します。」と紹介されて、2組の方を見ると、ダイナソーファイブのメンバーは残念そうにしてた。
8月の終わり、最後に公園で遊んだときに、あきひろくんが牛乳のふたを5枚持ってきた。表がわを赤、青、黄色、緑、ピンクに塗った5枚のふた。ゆうすけくんが赤、おさむくんが青、あきひろくんが緑、そうたくんが黄色、それかられこちゃんがピンクをもらって、最後にキメポーズをした。
「われら5人、いにしえのたいこよりよみがえりし、その名も、ダイナソー、ファイブ!」
それから、「さらばダイナピンクよ。君のことは決して忘れない。」って言われて私は京都に引っ越したの。私もみんなのことを忘れないように、牛乳のふたの裏側に、みんなの名前を書いておいた。これはれこちゃんの一番の宝物だ。
(つづく)
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