5分外出チャレンジ開始|村だからこそできた“鳴き放題克服法”🎤
リンの分離不安は、ただの寂しがりではなかった。
「行ってくるね」と言うと、玄関の前でパパを見つめる。犬は言葉を話さないが、目で十分伝わることがある。人間側からすると「ちょっと出かけてくるね」程度の外出でも、リンからすると事情が違う。「お前、本当に帰ってくるんだろうな」という、なかなか重たい視線である。
もしかすると「また置いていかれる」と思っているのかもしれない。そう考えると切ないが、切ない話で終わらせる訳にもいかないのである。
分離不安を克服するため、「短時間出て、ちゃんと戻る」というトレーニングを始めた。
名付けて『五分外出チャレンジ』である。
作戦はシンプルだった。外へ出て、五分後に戻る。ただそれだけだ。「大丈夫だよ。帰ってくるよ」を身体で覚えてもらう。世の中の教育法というものは、理屈の段階ではたいてい素晴らしいものである。
パパは玄関を閉めた。
すると数秒後──
キューーーン。
キューン。
キュイーーーーン。
まだタイマーすら押していない。
五分どころか、外へ出た瞬間に始まっていた。こちらも慌ててタイマーを押したが、もはや測定というより実況中継である。
「はい現在、開始十秒。リン選手、かなりのハイペースです」
その後も色々試した。
長時間噛める骨を渡し、「外出=ご褒美タイム」にしようとしたこともある。最初は夢中でガジガジしていたので、「これはいける」と思った。ところが外へ出た瞬間、骨への興味が消えた。帰宅すると、なぜかココが大満足そうな顔で噛んでいた。
なんでお前が食っとんねんと思ったが、犬の世界にも事情があるのだろう。
「音があれば安心するかもしれない」と、テレビつけっぱなし『タケモトピアノ作戦』もやった。しかし安心するどころか、リンの鳴き声がCMのテンポに合っていた。リズム感は、順調に育っていたのだ。
最大の幸運は、当時住んでいた場所だった。
沖縄の村である。
一フロア一世帯の四階建てアパート。しかも一階と三階は空室で、四階の人は夜しか帰ってこない。周囲は見渡す限りサトウキビ畑だったため、どれだけ鳴こうが苦情が来ない。
リン専用ボーカルスタジオである。
都会なら通報されていたかもしれない。そんな環境で毎日繰り返していたのは、外出の練習というより、「ちゃんと帰ってくる」という約束のリハーサルだった。
結局、犬に教えようとしていたつもりが、教えられていたのはパパのほうだった。
信頼というものは、一回の説明では伝わらない。毎日帰ってくることの積み重ねでしか、証明できないのである。
そして今日もリンは、玄関でこちらを見ている。
「五分やろな?」
↩️ 前話はこちら:第一話|お留守番が出来ない! 🏡
➡️ 次話はこちら:第三話|リンはストーカー👀
