譲渡会のあと、事件は始まった!静寂を消した警報クイーン 💥
譲渡会でリンを迎えた日、我が家から静寂が消えた。
家にはトイプードルのココがいて、もちろんそれなりに騒がしい日もあった。しかし、リンの登場はそういう次元ではなかった。“静かな家に犬が一匹増えたなぁ”という話ではない。家の中に警報装置が設置されたのである。しかも高性能で、感度がやたらと良い。
リンは分離不安症だった。飼い主の姿が見えなくなることに強い不安を感じる。説明としてはそういうことになるのだが、実際に暮らしてみると、そんな落ち着いた言葉では到底おさまらなかった。
こちらが外出の気配を出すたびに、リンの様子が変わる。鍵を持つ。上着を取る。玄関のほうへ歩く。そのひとつひとつを、彼女は見逃さない。さっきまで普通にしていたのに、急にソワソワし始め、こちらの足元をうろつき、玄関までついてくる。
そして、ドアノブに手をかけた瞬間である。
\キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!/
それは鳴き声というより、非常ベルだった。火事でも起きたのかと思うほどの切迫感で、こちらの胸を一気にざわつかせる。最初は「甘えん坊だな」くらいに思っていたが、すぐに違うとわかった。これは甘えではない。リンにとっては、本気の別れなのである。
パパからすれば、たった五分の外出である。近所のコンビニへ行く。ゴミを出す。郵便物を取りに行く。その程度のことでしかない。しかしリンの中では、ドアが閉まった瞬間に世界が終わるらしい。
部屋の中では、帰ってくるまで鳴き声が続く。途中であきらめるという発想はない。まるで「この歌を歌い切るまでは帰らせない」と決めている歌手のようである。パパは出先で落ち着かない。たった五分なのに悪いことをしている気分になる。
そして帰宅すると、再会の祭りが始まる。
\カシャカシャカシャカシャッ/
ドアを開けた瞬間、リンは全力で走ってくる。しっぽはプロペラのように回り、前足でこちらの足をカシャカシャ掻きまくる。五分ぶりの再会とは思えない勢いである。まるで十年ぶりに生き別れの家族と会ったかのような大騒ぎだ。
巻き込まれるのは、いつもココである。リンが興奮して飛びつく横で、ココはなぜか頭をポコポコ叩かれる。本人は何もしていないのに、再会フェスのとばっちりを受けるのだ。犬の世界にも、理不尽はある。
パパの太ももは、リンの爪で傷だらけになる。痛い。かなり痛い。それでも「ただいま」と抱っこしようとすると、リンは逃げる。
そこがまた、ややこしい。
あれだけ泣き叫び、再会を全身で喜び、足まで傷だらけにしておきながら、抱っこは嫌らしい。近づいてほしい。でも捕まりたくはない。離れないでほしい。でも抱え込まれるのは違う。なんとも面倒くさい女である。
けれど、その面倒くささも含めて、リンなのだ。
たった五分。人間にとっては、たいした時間ではない。しかしリンにとっては、永遠に近い五分だったのだろう。家の静寂は消えた。代わりに、玄関にはいつも警報クイーンが待機するようになった。
ドアノブに手をかけるたび、今日も世界は終わりかける。
そして帰ってくるたび、我が家では小さな再会の祭りが始まる。
↩️ 前話はこちら:プロローグ|分離不安症とは?🐩
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