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娘の体重が、パパを超えた日

脱衣所から「最悪やー!」という声が聞こえた。事件である。我が家の平和な夜に、ついに体重計という名の裁判官が判決を下したらしい。被告、娘。罪名、パパ超え。本人は体重を教えてくれなかったが、学校の健康診断の紙がリビングに堂々と置かれていた。

極秘文書をちゃぶ台に放置するあたり、情報管理がだいぶ甘い。私はそっと数字を確認した。たしかに、国境は越えられていた。

少し前まで、娘には妙な勝算があった。「うちはパパ似やから大丈夫」らしい。何がどう大丈夫なのかは本人の中でもふわっとしていたが、要するに食べても太らない体質を受け継いだつもりでいたのだろう。

たしかに小さい頃の写真を見ると、輪郭や鼻筋には私の面影があった。娘の中では、成長とともに自然と細くなり、風に吹かれても倒れないけど見た目はすらっとしている、都合のいい未来予想図が完成していたわけである。

ところが血筋というものは、思ったより自由契約制らしい。顔立ちはいつの間にかママ方面へ移籍し、食後の甘いもの探索がパパ方面からきっちり継承された。夜になると冷蔵庫を開け、棚をのぞき、何もないと世界に失望した顔をする。ここまでは完全に親子である。

問題はその後だ。私の場合、甘いものはどこか知らない宇宙へ消える。娘の場合、ちゃんと地球に残る。律儀である。

「ボディビルダーも一回増やしてから絞るやろ」と言ってみた。励ましとしては悪くないと思ったが、娘はしばらく黙ったあと「何それ」と言った。筋肉界の常識は、女子高生の脱衣所までは届かなかったらしい。

昔は、眠くなると抱っこしていた。買い物の途中で「疲れた」と言われれば、ひょいと持ち上げていた。あの頃の娘は軽かった。今それをやれば、親子の感動場面ではなく、父の腰椎引退会見になる。

だから私はもう何も言わない。体重計の数字には、食べた分だけではなく、背が伸びた分、働いた分、夜更かしした分、ちゃんと生きて大きくなった分も入っている。

とはいえ、そんなことを真顔で語れば「でも減らしたいねん」と返されるに決まっている。だからパパとして言えることはひとつだけだ。無印で買ってきたマドレーヌ。パパを超えた記念に、パパの分まで越境するのだけはやめてくれ。

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