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ペットカメラが見た“留守番の真実”📹

外出中、リンはいったい何をしているのだろう。

分離不安症の犬と暮らしていると、この疑問はずっと頭の片隅に居座り続ける。出かける前にあれほど鳴くのだから、玄関のドアが閉まったあとも騒いでいるのだろうとは思っていた。けれど、実際のところは見えない。見えないものは、都合よく想像できる。しばらく鳴いたあと、疲れて眠っているかもしれない。ココやフクと一緒に、パパの部屋のベッドで丸くなっているかもしれない。そうであってほしい、という願望もかなり混じっていた。

そこで、ペットカメラを設置した。

🚪 ペットカメラ、リンをロックオン。


最初にカメラを向けたのは、犬たちがいつも寝ているパパの部屋のベッドだった。スイッチを入れると、画面には静かに寝ているココとフクが映った。実に平和な映像である。まるで「犬のいる暮らし」というタイトルの癒し動画のようだった。

ただし、そこにリンはいなかった。

画面の外から、かすかに聞こえてくる声があった。

\キュゥゥゥゥン!!!!/

遠い。だが、確実にリンである。画面には映っていないのに、声だけが聞こえる。静かなベッド、眠る犬たち、そしてどこからともなく響く悲しげな声。もう胸がギュッと張り詰めてきた。

リンは、ドアの前にいる。

カメラの向きを変えると、そこには小さな白い犬がいた。リンである。ドアの前で必死に前足を動かし、カシャカシャと引っ掻きながら、声の限りに鳴いていた。

分かっていたつもりだった。リンが外出を嫌がることも、ひとりになるのが苦手なことも、分離不安症という名前も知っていた。けれど、知っていることと、見ることは違う。頭で理解していたものが、画面の中で小さな体を震わせながら鳴いていると、知識では済まなくなる。

たまらず、カメラ越しに声をかけた。

「リーン、聞こえる?」

その瞬間、画面の中のリンはさらに混乱した。姿は見えない。けれど、パパの声が聞こえる。人間なら「スピーカーから聞こえている」と理解できるが、犬にそんな理屈は通じない。

リンからすれば、これは怪奇現象である。

大好きな人の声がするのに、どこにもいない。呼ばれているのに、触れない。探しても見つからない。

考えてみれば、これほど残酷なこともない。

リンはさらに鳴いた。つられて、ベッドで寝ていたココとフクまでワンワンと騒ぎ出した。静かだった画面は、一気に犬の合唱会場になった。見守るつもりが、こちらから混乱を増やしてしまったのである。

ペットカメラ越しの声かけは便利そうに見えるが、少なくともリンにとっては安心ではなくホラーだった。

🫶犬たちを 「見守る」って、難しい。


見守るというのは、思っていたより難しい。

カメラがあると安心できると思っていた。外出先でも様子が分かれば、こちらの不安が減ると思っていた。ところが実際には、リンが必死に耐えている姿を見せられるだけだった。助けられるわけではない。抱きしめられるわけでもない。ただ、画面越しに、待っている姿を見続けることになる。

外出中、リンは休まなかった。鳴いて、泣いて、疲れるとドアの前でうつ伏せになる。それでも眠るわけではない。かすかに「キューン、キューン」と呟くように鳴きながら、ずっと耳を澄ませている。

物音がすると、すぐに顔を上げる。車の音、階段の音、玄関まわりの気配。とくにパパやママの車の音には反応が早い。娘の足音も聞き分けていた。人間なら聞き逃してしまうような小さな音の中から、リンは家族の気配を拾い上げる。

その姿を見ていると、これはただの不安なのだろうかと思った。

もちろん、分離不安症である。病院でそう言われたし、実際に暮らしていてもそう感じる。けれど、画面の中のリンは、ただ怖がっているだけではなかった。帰ってくると信じて、音を聞いていた。ドアの向こうを見つめ、家族の気配を探していた。

ペットカメラは、便利な道具である。けれど、リンにとっての救いにはならなかった。むしろ、こちらが知りたくなかった現実をはっきり映しただけだった。

それでも、設置してよかったと思う。

見えなかった時間の中で、リンがどんなふうに待っていたのかを知れたからだ。玄関を開けた瞬間、しっぽを振って大騒ぎする理由も分かった。あれは単なる甘えではない。ずっと耳を澄ませ、ずっと待ち続けた末の再会だったのだ。

外出から帰ると、リンはいつものように騒ぐ。カシャカシャと足を掻き、キュンキュン鳴き、なぜか抱っこしようとすると逃げる。こちらは「なんでやねん」と思う。だが、ペットカメラの映像を見てからは、その騒ぎ方の意味が変わった。

あれは怒っているのでも、ただ甘えているのでもない。

「帰ってきた」

その事実を、全身で確認しているのだ。

ペットカメラが教えてくれたのは、留守番の真実だった。そこに映っていたのは、分離不安という言葉だけでは片づけられない、小さな犬の信頼だった。

見えない時間にも、犬は家族を待っている。

そう思うと、玄関のドアを開ける音ひとつにも責任が宿るのである。

↩️ 前話はこちら:第六話|犬よりパパとママ❤️‍🔥
➡️ 次話はこちら:第八話|分離不安症の治し方🏥

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