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ドッグラン🌳それは“自由”と“監視”の交差点 👁️‍🗨️

ドッグランとは、犬にとって自由の象徴である。

リードを外され、広い場所を走り回り、好きな方向へ行き、好きなだけ匂いを嗅ぐ。人間でいえば、やっと仕事が終わって居酒屋の一杯目にたどり着いた瞬間に近い。あれほど開放的な時間はない。

ところが、リンにとってのドッグランは違う。

自由ではある。たしかに自由なのだ。リードを外した瞬間、リンは弾丸のように飛び出していく。ボールを追いかける姿は見事なもので、年齢を感じさせない速さで芝生の上を駆け抜ける。耳を揺らし、足を跳ねさせ、全身で「今、私は犬である」と宣言している。

🎾 走って、遊んで、確認して──を延々ループ🐾


その自由は五秒で一度中断される。

リンは走りながら振り返る。

パパはいるか。ママはいるか。ちゃんと見える場所にいるか。

ボールを追いかけているはずなのに、目線は忙しい。前方のボールを見て、横の犬を無視し、後方のパパとママを確認する。完全にバックモニター付きのスポーツカーである。しかも、安全確認がしつこい。

普通、ドッグランに来た犬は、他の犬と挨拶したり、匂いを嗅いだり、なんとなく群れの空気に混ざったりするものだと思っていた。ところがリンには、その気配がほとんどない。他の犬が近づいてきても、ほぼ無視である。犬見知りというわけでもない。ただ興味がないのだ。

リンの世界は、ボールと家族でできている。

その潔さは、見ていて少し羨ましいほどである。人はやれ人間関係だ、空気だ、世間体だと、いらぬものまで抱えて歩く。リンは違う。必要なものだけを見ている。ボール。パパ。ママ。以上である。シンプルすぎて、もはや哲学である。

👀 パパとママが見えない=世界の終わり


興奮しすぎると、リンはたまにパパとママを見失う。

その瞬間、楽園は終わる。

さっきまで芝生を駆けていた犬が捜索犬になる。顔つきが変わり、耳が動き、目が人間を一人ずつ確認しはじめる。あれは何なのだろう。まるで空港の到着ロビーで、迎えに来ているはずの家族を探す人の顔である。

「パパか?」
「違う」
「ママか?」
「違う」
「この人か?」
「知らない人だ」

そうやって、人間一人ひとりを確認していく。こちらから見ていると、かなり失礼な視線である。じっと見るだけ見て、「違う」と判断した瞬間に興味を失う。相手にしてみれば、急に面接され、不採用を言い渡されたようなものだ。

それでも見つからないと、リンは鳴く。走る。探す。また鳴く。

普段はココのことなど頼りもしないのに、こういう時はココの方へ行く。ココもココで、「え、今さら俺?」みたいな顔をする。兄妹というものは不思議である。普段は適度に距離を取っていても、困った時だけ思い出される存在がいるのだ。

そして、ようやくパパとママを見つけた瞬間、リンのテンションは一気に戻る。

いや、戻るというより爆発する。

「どこに行っていたんだ」と言いたげな顔で走ってくる。こちらとしては一歩も動いていない。ずっと同じ場所にいた。それなのにリンの顔は完全に被害者である。自分が勝手に走って、自分が勝手に見失い、自分が勝手にパニックになったのに、最後はパパが悪者になっている。

犬は、なかなか都合がよい。

けれど、その顔で飛びつかれると、パパの心臓は簡単に撃ち抜かれる。文句を言う気など消え、むしろ「見つけてくれてありがとう」という気持ちになる。完全に立場が逆転していたのだ。

🌈 リンにとっての自由は、“見える安心”の中にある


リンにとって、自由とは「どこへでも行けること」ではない。自由とは、安心できる場所が見えていることなのだ。

パパとママが視界にいる。その範囲なら、リンはどこまでも走れる。ボールを追いかけられる。芝生を蹴って、風を切って、犬らしくいられる。けれど、その安心が消えたとき、広いドッグランは不安な空間に変わる。

人も案外、同じなのかもしれない。

自由になりたいと言いながら、完全な自由を渡されると不安になる。誰にも縛られたくないと言いながら、誰にも見られていないと心細くなる。好きにしていいと言われるほど、どこへ行けばいいのかわからなくなる。

リンは、それを全身で教えてくれる。

ドッグランで全力疾走する白い犬を見ながら、自由とは、孤独のことではなく、好きな場所へ走っていけることと、戻る場所があることはセットなのだと感じた。

今日もリンは走る。

ボールを追い、家族を確認し、他の犬を無視し、また走る。広いドッグランの中で忙しく自由を楽しんでいる。

ドッグランとは、運動場ではない。
リンにとっては、自由と監視が交差する確認会場である。

↩️ 前話はこちら:第五話|大脱走💨
➡️ 次話はこちら:第七話|ペットカメラはホラー👻

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