暗黒竜に合うフィギュア|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第参話
暗黒竜を迎えてからというもの、どうも落ち着かない。植物を育てるという趣味は、もっと穏やかなものだと思っていた。朝起きて葉の様子を見て、土の乾きを確かめる。新芽が出たら、少しうれしくなる。そんな平和な暮らしを想像していた。
ところが実際には、暗黒竜をモロゾフの空きグラスへ迎え入れたあと、頭の中では園芸ではなく建国が始まっていた。

暗黒竜
桜竜
無刺王冠竜
名前を並べると、完全にRPGの中盤以降で出てくる面々である。主人公が旅の途中でうっかり封印を解いてしまい、村長から「おぬし、なんということを……」と言われるタイプの存在だ。にもかかわらず、彼らの仮住まいはモロゾフの空きグラスである。
プリンを食べ終えたあと、何となく捨てるには惜しくて残していたあの透明な器に、竜たちが暮らしている。世界観が追いついていない。魔王軍の幹部が、デパ地下で買った菓子折りの箱に正座しているようなものである。
これはいけない。植物に水をやる前に、世界を整えなければならないと決意した私は、休日の秋葉原へ向かった。
普通なら、多肉植物に合う鉢をまずは探すだろう。陶器の鉢、ブリキの鉢、アンティーク風の鉢。そういう順番が正しいことは分かっているが、うちにいるのは暗黒竜。鉢より先に仲間という名の「フィギュア」が必要である。城壁より先に四天王を探すのが、国家建設においての最重要課題となっていた。

ラジオ館に入ると、私の目は完全に浮かれていた。棚に並ぶフィギュアを眺めながら「これは暗黒竜の臣下としてふさわしいか」「このサイズ感で覇権を争えるか」と、誰にも頼まれていない審査を始めていた。
最初に考えたのはドラクエである。

竜といえばドラクエ。これはもう国民的常識に近い。ところが実物を見て、すぐに問題が発生した。
......スライムがでかいやんけ。
暗黒竜より大きいスライムが横にいたら主従関係が逆転してしまう。魔王軍の幹部として迎えたはずの暗黒竜が、スライムに飼われている珍しい観葉植物みたいになるのは避けなければならない。
次にポケモンを見た。

リーメントのミニフィギュアなら、サイズ感は悪くない。小さな草むら、小さな岩場、小さな世界。多肉植物との相性も良さそうである。しかし問題は中身が選べないことだった。
私が欲しいのはドラゴンタイプである。ところが箱を開けたら、ピカチュウが出てくる可能性もある。ピカチュウならかわいいけど、暗黒竜、桜竜、無刺王冠竜、ピカチュウ、ピカチュウ、ピカチュウと並んだ場合、竜の王国ではなく、電気工事前の現場みたいになる。水やりより漏電が心配な鉢植えなど、なかなか落ち着いて鑑賞できない。
ガンダムも候補に入れた。

モビルスーツの無骨さは、暗黒竜の横に置いても負けない。だが冷静に考えると、サイド7に暗黒竜はいない。宇宙世紀の年表をどれだけめくっても、モロゾフに封印された多肉植物型ドラゴンは出てこない。そこへ無理やり暗黒竜を投入するのは、シャアが序盤からジオングに乗るようなものである。
海洋堂にも入った。

そこでAKIRAのフィギュアを見つけたとき、心が揺れた。荒廃した都市、暴走する力、終末の気配。暗黒竜との相性は悪くないが、じっと眺めているうちに違和感が出てきた。AKIRAの世界は、人類がいろいろ頑張った末に壊れてしまった世界だ。暗黒竜はまだ何もしていない。プリンの余韻が残るグラスの中で、たまに日光浴をしているだけである。
退廃を背負わせるには、まだ人生経験が浅すぎる。多肉植物に人生経験を求めている時点で、私のほうがだいぶ遠くまで来てしまっていた。
ガチャガチャも見た。

竜を探していたら銀色のドラゴンが出てきた。翼があり、口から炎を吐き、いかにも強そうである。しかし、どうにも違った。それはドラゴンというより、中学生男子の「かっこいい」が部屋の片隅で結晶化した生き物だ。修学旅行のお土産屋で、木刀の隣にぶら下がっていそうな顔をしている。暗黒竜の仲間にするには、自己主張が強い。
私は何も回すことなく、そっとその場を離れた。
長い旅の末、最終的にブックオフで悟空を買った。しかも瞬間移動している悟空である。なぜそうなったのかは、自分でもよく分からない。暗黒竜に似合う仲間を探していたはずなのに、気づけばヤードラット星から戦士を瞬間移動させていた。
家へ帰り、モロゾフのグラスに入った暗黒竜の横へ悟空を置いてみると、意外と悪くなかった。むしろ砂岩の彫像みたいな色合いの悟空が、竜の重苦しさを中和していた。問題は、これがいったい何の世界なのか誰にも説明できないことである。ドラクエでもない。ポケモンでもない。ガンダムでもない。AKIRAでもない。ただ、暗黒竜と悟空が並んでいる。

私はしばらくその光景を眺めていた。秋葉原まで行き、フィギュアは見つけた。しかし肝心の鉢はまだ見つかっていない。どうやら多肉植物の世界で難しいのは、頭の中で始まった壮大な物語を、土の上へどう着地させるかである。
暗黒竜たちは今日もモロゾフのグラスで暮らしている。そして悟空は、いつでも瞬間移動できる姿勢のまま立っている。この小さな王国で一刻も早く逃げ出したいと思っているのは、プリンの残り香に苦しんでる悟空である。
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↩️ シリーズ壱話:多肉植物の名前が厨二病すぎる!🌵
