銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十七話(1) 漆黒のコントレール
同期のチャムールから誘われた時は、気乗りがしなかった。
連邦軍の宇宙航空祭。
「結構、人気があるんですって」
「ふ~ん」

「アーサーから家族パスをもらったの。ティリーと来たらいいんじゃないかって」
チャムールの彼氏、アーサーさんは連邦軍最高指揮官である将軍の跡取り息子で次期将軍。
優しくていい人で、わたしがイメージする軍人さんとはかなりかけ離れている。

チャムールが彼氏の勤め先を見たい気持ちはわかる。
「うちの会社の軍艦も、こんな時じゃないと見られないわよ」
わたしが勤める宇宙船メーカーのクロノスには軍事部門がある。軍艦や戦闘機を製造し、連邦軍に納入している。
わたしはそんなこと、考えもしないまま入社試験を受けた。『無敗の貴公子』エース・ギリアムへの憧れだけで会社を選んだのだから。

でも、故郷を離れる時に父に言われた。「軍事部門に配属されたら、すぐ辞めて帰ってこい」と。
父は学生時代から反戦運動を続けていて、その背中を見てわたしは育った。
そんな生い立ちもあり、軍隊というものに心理的抵抗がある。
「ティリーは行きたくない?」
興味が全くないわけではない。
レイターは昔、戦闘機を飛ばしていたと言っていた。少しでもレイターのことを知りたいという気持ちはある。
「その日は空いているけど、軍艦や戦闘機って人を殺すためにあるでしょ。そういう目的で船が造られていると思うと、やりきれないのよね」
正直な気持ちを伝えた。
「でも戦闘機の開発部門はすごいわよ。わたしたち一般設計とは全然違う発想だから」
「人の命を奪うために、でしょ」
「その技術が人の安全に役立っているっていうのも事実よ。戦闘機のパイロットを守るために開発された技術が一般船にも利用されているから、最先端の船を見ておくのは勉強になるし」

「そうね」
チャムールに説得され、わたしは重い腰を上げることにした。
*
火星にある連邦軍基地に大型の宇宙軍艦が停泊していた。
空母フォレスト号。戦闘機部隊の旗艦だという。空母を見るのは生まれて初めてだ。甲板にずらりと戦闘機が並んでいる。
チャムールの後に続いて艦内へ足を踏み入れる。
「この空母はクロノス製なのよ」
「そうなんだ」
「今回の乗艦チケットは抽選で、かなりの倍率だったんですって。わたしも実際に乗るのは初めて」
業務の効率を最大限に追求した、狭い通路や急な階段。
隊員さんは慣れたものだけれど、移動しにくいし迷子になりそうだ。
家族連れの姿が目立つ。子どもたちが興奮して騒いでいた。
戦艦なんて子どもが乗るものじゃない。きょうはお祭りだとわかっているけれど、違和感を感じる。
「この空母の艦長のモリノさんは、アーサーとレイターの昔の上司なんですって」

二人は子どものころ一緒に戦艦で暮らしていたと聞いた。不思議だ。
将軍家の慈善事業、というようなことをレイターは言っていたけれど二人の関係はよくわからないところがある。
甲板に出ると、轟音が頭の上を駆け抜けた。
耳をふさぎながらオレンジ色の空を見上げる。
戦闘機だ。
前にハイジャックに遭った時、敵であるアリオロンの戦闘機を見たことがある。無管轄空域で豪華客船に攻撃を仕掛けてきたのだ。
それを、レイターが警備艇で蹴散らした。

あの時は、無我夢中で気がつかなかった。
今、空を飛ぶ戦闘機の姿に目が釘付けになる。
息をのむほど綺麗で美しい。極限まで無駄な物を排除した研ぎ澄まされたデザイン。目を見張る加速。なんて格好よく飛ぶのだろう。
わたしは泣きたい気分になった。人の命を奪うためにこんな美しさが生まれたという事実に。
S1のレース機も美しい。
最高速度を目指して試行錯誤を重ねた英知の結集だからだ。
共通した美しさが戦闘機にもある。それが許せない。
*
空母フォレスト号はわたしたちを乗せて宇宙空間へと飛び立った。
衛星軌道付近が宙航祭の会場だ。
家族パスのわたしたちには艦橋の一番前に席が用意されていた。
「本日は銀河連邦軍航空宇宙祭へご参加いただき、ありがとうございます。私はフォレスト号艦長のモリノです。戦闘機部隊の訓練の成果をどうぞご覧ください」
艦長のあいさつのアナウンスが終わると同時に、甲板から戦闘機が次々と飛び立った。ここは特等席だ。良く見える。
機体のボディが照明塗料でカラフルにペイントされていた。光の矢の様にそろって飛び回る集団のアクロバット飛行。
音楽に合わせ漆黒の宇宙空間に発光スモークで七色の虹を描く。
その隣に星の形がかたどられていく。
「すごい、きれい」
芸術的な模様が浮かんでは消える。わたし含め観客から歓声の声があがった。
最先端の技術と圧倒的な練習に裏付けられた操縦技術。この華麗な飛行のためにどれほどの訓練を積むのだろうか。
でも、その訓練の目的は曲芸のためじゃない。戦争のため。
胸が苦しい。 (2)へ続く
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」