銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十七話(2) 漆黒のコントレール
*
一旦、全ての戦闘機が甲板へと帰還した。
アナウンスが流れる。
「続きましては、模擬宇宙航空戦を実施します。赤、青、黄三つのチームに別れて対戦し、最後まで生き残ったチームが勝利となります」
隣のチャムールがわたしの耳元でささやく。
「宙航祭で一番人気の催しよ」
アクロバット飛行とは違う戦闘機の姿がそこにあった。
蛍光色のピンク、水色、黄色の三色に輝く戦闘機が飛び立ち、宇宙空間に円を描いてズラリと並んだ。

機体には番号がホログラムでくっきり描かれていて、赤の一番機、青の二番機、といった具合に識別できる。各チーム五番機まであった。
敵の模擬レーザー弾が当たると機体の蛍光色が消え、戦線を離脱するというバトルロイヤル方式。
「皆さん、何色のチームが優勝するか、予想して投票してください」
携帯通信機を使って投票する。
わたしは蛍光ピンクの機体がかわいいと言う理由で赤チームを選んだ。チャムールは青チームを選択した。
「戦闘開始!」
艦長の合図とともに戦闘機が一斉に動き出した。
三色の光が入り乱れる。
チームによって作戦があるようだ。
水色の機体は集まって編隊を組み、ピンクの機体はバラバラに飛び出した。
人気の理由はすぐにわかった。これはスポーツだ。
宇宙を舞台とした高レベルな鬼ごっこというかシューティングゲーム。チームの色に合わせたカラフルな模擬レーザー弾が飛び交う。
「危ない! 赤、がんばれ!」
思わず声が出る。
わたしたちが乗っている空母の目の前まで機体や模擬弾がかすめるように飛んでくる。
観客は大盛り上がりだ。
レースとは違い戦闘機は縦横無尽に移動する。パイロットには三百六十度全方位が見えているのだろうか。
『銀河一の操縦士』のことが頭に浮かんだ。
レイターは戦闘機に乗っていたと話していた。
実際の戦闘に参加したことはあるのだろうか?
少しずつ機体が離脱していく。
徐々に一対一の対戦が増えてきた。
一番機は三チームとも残っている。おそらくエースパイロットだ。残りは五、六機。
その中で、ピンクの五番の機体からわたしは目が離せなかった。
何てきれいに飛ぶのだろう。
獲物をねらう鳥のように無駄のない動き。ピンクのレーザー弾で青や黄色の一番機を次々と撃ち落した。
美しい飛行姿。
まるでバトルの時のレイターの飛ばしのようだ。
「あのピンクの五番機、レイターが操縦してるみたい」
隣のチャムールに声をかけると不思議そうな顔をした。
「よくわかったわね」
「え?」
「あれ、多分、操縦してるのレイターよ」

「どういうこと?」
「きのう出場予定のパイロットが急に熱を出して、困ったアーサーがレイターに声をかけたのよ。いつもはアーサーの言うことなんて聞かないけれど船に乗れるって話だから二つ返事だったらしいわ。秘密だけれど、ティリーが気づいたのなら仕方ないわね」
チャムールがクスッと笑った。納得がいかない。
「でも、レイターは民間人でしょ」
「予備役登録しているから、軍規的に問題はないそうよ」
知らなかった。
予備役ということは、有事の際には軍隊へ戻るということだ。
気持ちがざらつく。
ピンクの五番機が水色の機体にレーザー弾を命中させる。
黒い宇宙空間にはもうピンクの二機しか残っていなかった。一番機と五番機。
「勝者は赤チーム」
わたしが応援したチームの勝利が宣言された。
*
模擬宙航戦を終えた戦闘機がライトアップされた甲板に着艦し、滑走路脇にずらりと並んだ。
「甲板に環境制御をかけました。どうぞ、ご自由にご覧下さい」
空気と重力が地球基準に設定されたとアナウンスが入る。
観客が移動を始めた。チャムールとわたしも席を立った。
「チャムール・スレンドバーグさん」
チャムールを呼ぶ声がした。振り向くと階級が高そうな将校さんが立っていた。背筋がまっすぐで、目つきが鋭い。

「艦長のモリノです」
思わずこちらの背筋も伸びた。
「先日は、将軍の就任二十周年祝賀会に出席できませんでした。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
「とんでもありません」
「トライムス中佐をよろしくお願いいたします」
軍人らしい軍人さん。少年時代のアーサーさんの上司という話を思い出した。
「モリノ艦長、こちら私の同期のティリーです」
チャムールがわたしを紹介した。
「初めまして。あなたが、ティリーさんですか。お会いできて光栄です」
「初めまして」
緊張しながら挨拶をする。
「きょうは、楽しんでいって下さい。あいつも久しぶりに暴れて浮かれているでしょうから」
と目を細めて笑った。あいつ、というのはアーサーさんのことじゃない。レイターのことだ。艦長の怖い印象がみるまに消えて行った。
*
人の流れに沿って歩き、甲板へ出た。
戦闘機の横に立つパイロットは子どもたちの人気の的だ。握手を求められ、一緒に写真を撮っていた。
一流スポーツ選手を見るような目で、少年たちが群がっている。
「すごい人気ね」
チャムールがわたしに声をかけた。わたしは複雑な心境で答えた。
「スポーツ選手ってわけじゃないのに」
「でも、宇宙船乗りだから」

そう、子どもの人気の職種なのだ。宇宙船乗りは。レイターも子供の頃からずっと憧れていたという。
甲板を歩きながら、レイターが乗っていたピンクの五番機を探した。
あの美しいピンクの軌跡。その飛ばしの興奮がまだ胸の中でうずいている。レイターに一言感想を伝えたい。「すごい飛ばしだった」って。
でも、ピンクの五番機の姿はなかった。 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」