銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十三話(2) 気まぐれな音楽の女神
・第一話のスタート版
・第二十三話(1)
レイターが笑った。
「ハノン練習曲三十九番とも言う」
「ハノン! 懐かしい」
ハノンの楽譜は運指の練習として、毎日わたしも弾かされた。
単調なフレーズを繰り返し繰り返し弾く。つまらなくて、好きじゃなかった。
「ハノンじゃなくて、わたし、ショパンとかリストとか好きなんだけど、弾ける?」
「いくらくれる?」

レイターがにやりと笑った。腹が立つ。
「結構です。このピアノ、また弾いてもいい?」
「一回、一万リルで」
「もういいです」
「冗談だよ。マザーに言えば倉庫の鍵開けてくれるから。好きな時、使えばいいさ」
**
同期で設計士のチャムールの趣味は、合唱だという。
研究ばかりに没頭しているのかと思ったら、
「声を出すのはストレス発散になるし、いいアイデアが浮かんだりするのよ」
と、歌の効用を聞かせてくれた。

「練習がしたいのだけど、いい場所がなくて」
というチャムールに、フェニックス号を教えた。
「ピアノがあって、大声出しても平気よ」
「まあ、うれしい」
「場所代がぼったくられないか、聞いてみるわ」
レイターに連絡を入れる。
「チャムールさんの頼みなら何でも聞いちゃうよ。カネなんていらないさ」
愛想のいい返事が返ってきた。
**
仕事帰りに、チャムールの合唱仲間の女性七人が、フェニックス号にやってきた。わたしも立ち会う。
レイターは大喜びだ。

「こんな素敵なお嬢さんたちに囲まれて、幸せだよ」
チャムールが恥ずかし気に言った。
「今度の日曜日、わたしたち、タイタンでチャリティコンサートやるのよ」
土星の衛星タイタンにはチャムールの実家がある。
「そこで、こちら幼馴染みのリウミンが作ったオリジナル曲を、初披露するの」
背の高い女性が頭を下げた。
「リウミンです。チャムールとは自宅が近いんです。今日は練習場所を提供いただきありがとうございます。助かります。ちょっと弾いてみてもいいですか」

リウミンさんがピアノの前に座った。
前奏を弾き始める。
何これ、合唱曲の伴奏とは思えない。
ピアノ協奏曲じゃないの。まるでプロのようだ。

チャムールが教えてくれた。
「リウミンはセントラル音楽学院のピアノ科を卒業して、今はピアノの先生をしているのよ」
セントラル音楽学院と言えば、銀河最高峰の音楽大学だ。入学するだけで音楽家としてデビューが決まると言われている。
上手なはずだ。
「すげぇ」
レイターが興奮している。

リウミンさんが作曲した曲は『四季と幼子たちの情景』というタイトルで四つの楽章からできていた。
きょうは、第一楽章の『はる』を練習するという。
ピアノが春の穏やかさと突然の嵐を表現し、その間にチャムールたちがタイタンのわらべうたを歌う。
チャムールたちは決して下手ではないけれど、素人感がある。
一方で、リウミンさんの演奏は立派すぎだ。
楽譜をのぞいて見ると、小さな音符がぎっしりと詰まっていて真っ黒だった。わたしの腕では弾ける気がしない。
「そこの出だし、もう少し丁寧に、って言ったでしょ」
リウミンさんが細かく指示し、五分程度の第一楽章『はる』を何度も繰り返す。
チャムールたちが、一生懸命に声をそろえてついていく。 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」