銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(30) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① ② (29)
葬式で気丈に喪主を務めたアルファール兄さんは、泣き続ける僕の肩を抱いた。
「ガンマールが死んだのはお前のせいじゃない。本当は僕が言うべき言葉だったんだ」

いくら兄さんがなぐさめてくれても僕の気持ちは沈んだままだ。ガンマールは、僕の言葉を聞いてアステロイドベルトへ向かったのだ。
あんなに強く言わなければよかった。
もっと優しく話せばよかった。
競技レースに誘わなければよかった。
後悔だけが、僕の中に残った。
「ガンマールの操縦が…ずっと怖かった。あいつは僕や兄さんとは違う世界で飛ばしていた」
それを自分はわかっていた。なのに、弟を傷つけ殺してしまった。
僕は子どもの頃からガンマールの飛ばしに嫉妬を感じていた。最速を求めて飛ばす彼にどうしても追いつけない。自分はあんな風に操縦することはできない。
だが、競技レースなら僕はガンマールの上に立てる。だから、あの時僕は彼を誘ったのだ。
僕の醜い欺瞞にガンマールは気が付いたに違いない。
弟を犠牲にして、僕と兄さんはプロのレーサーになった。
喪に服した黒のレーシングスーツはいつしか『兄弟ウォール』のイメージカラーと化した。

スタートの前に必ず兄さんと二人でガンマールの写真を見る。一緒に飛ぶぞ、と声をかけてS1機に乗りこむ。それが僕たちの償いのルーティン。
僕たちは、危険飛行でも何をしてでも表彰台を取りにいく。その表彰台は、ガンマールに捧げるためのものだ。
僕たちの後ろを飛ぶチーム・スチュワートの新人、レイター・フェニックス。
彼こそがガンマールが憧れた裏将軍だ。
ガンマールのはずんだ声が、耳の奥で聞こえる。
「すごいんだぜ裏将軍は。兄さんたちより絶対速いぜ。俺、尊敬しているんだ」

裏将軍の飛ばしは、情報ネットに動画がたくさんあがっていた。ガンマールの死後、兄さんと一緒に見た。
確かにすごい。命知らずとはこのことだ。レースなら危険暴走行為で間違いなく失格だ。
ガンマールが裏将軍に惹かれた理由はすぐにわかった。二人は同じ世界で生きている。
だが、ガンマール見ていてくれ、銀河最速はこのS1だ。
「僕が裏将軍をブロックする」
* *
レイターは、前を飛ばすべヘム社の二機を見つめた。
アルファールとベータールが本気で俺に『兄弟ウォール』をぶつけてくることはわかっていた。
俺はガキの頃から、宇宙船の情報は全て知りたいと思って生きてきた。
ジュニアチームの情報も、もちろんチェックしている。だから三兄弟のことも知っていた。
七年前、俺が裏将軍を名乗っていたころ、三兄弟の末弟ガンマールと一度だけ対戦した。
ちょうど兄二人が、プロとしてS3の契約に入る頃だった。
ガンマールは、飛ばし屋のチームには入らず、フリーで飛ばしていた。
ギャラクシーフェニックスの縄張りでいい顔をさせておくわけにはいかない。
側近のアレグロがお膳立てし、あいつとアステロイドベルトでバトルをした。

俺は久しぶりに興奮した。
ガンマールは船を操ることにかけて、兄たちよりよっぽど才能がある。
思いっきりがいい。
センスが抜群な上に、ジュニアチームで基礎から叩き込まれた操縦技術を兼ね備えていた。
技の一つ一つが正確でブレがない。
こいつ、御台より速い。
飛ばし屋じゃもったいねぇ。
連邦軍で戦闘機を飛ばしたらいいのに。
俺に余裕を与えねぇ飛ばし屋は初めてだ。
俺たちは、ゴールギリギリまで接戦を繰り広げた。
最後は、俺が経験値でねじ伏せた。
「裏将軍、また、バトルしてくれ。今度はリベンジする」

勝負を終え、ガンマールの声は弾んでいた。あいつとのバトルは間違いなく俺の飛ばしを進化させる。俺はつい、
「ああ、またな」
って答えちまった。
アレグロに裏将軍は喋るなって言われてたのに。
だが、その機会は訪れなかった。
それからすぐのことだった。
ガンマールは事故で死んだ。小惑星に激突して即死だったという。
それを聞いて、俺は身体が震えるほどうらやましかった。操縦桿握りながら死ぬなんて、何て理想的な死なんだ。
どうして死んだのがあいつで、俺じゃないんだ。

俺は、ガンマールを妬みこそすれ、悲しむことはなかった。 (31)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」