銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(29) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28)
* *
べヘム兄弟のベータールは、前を飛ばす兄のアルファールに通信を入れた。
「アルファール兄さん、こいつだね」
「ああ、ベータール。間違いない。彼が『裏将軍』だ。僕らは負けるわけにはいかない」
「わかってるよ。僕が『裏将軍』をブロックする。兄さんは先へ行って優勝を狙ってくれ」

ベータールは操縦桿を握りしめた。
裏将軍には負けない。
*
僕たちは三兄弟だった。
僕はその真ん中だ。兄さんはアルファール。弟はガンマール。両親は幼いころ事故で亡くなったが、莫大な遺産が残されていた。きちんとした後見人の弁護士に、僕たち三人は育てられた。
僕たち兄弟は仲が良かった。
三人で宇宙船レースのジュニアチームに入った。
一番下の弟ガンマールは兄弟の中で一番操縦が上手く負けず嫌いだった。兄である僕たちは年下のガンマールになかなか勝てなかった。
ガンマールは「S1レーサーになる」が口癖だった。
だが、競技レースの本番になると危険走行を取られてすぐに失格となった。
「あんなの全然危険じゃないじゃないか」
と、ガンマールはいつも怒っていた。
「お前は腕がいいから危険と感じないのかもしれないが、ルールで禁止されていることは守らないとだめさ」
「それじゃあ最速で飛べないよ」
兄である僕たちは、どんどんとランキングがあがり上のクラスへ転入した。だが、ガンマールのランキングは思ったように上がらなかった。
ガンマールは自分の速さにプライドを持っていた。
自分より遅いとバカにしていた選手にランキングを抜かれた日、ジュニアチームをやめると言いだした。
弟は一度言い出したら聞かない。
もったいないと思ったが、止めることはできなかった。
レースチームはやめたが、ガンマールは船を飛ばすことが好きだ。
十八になり免許を取ると公道で飛ばし始めた。
「兄さん、すごいんだぜ裏将軍は。飛ばし屋のギャラクシーフェニックスは負けなしなんだ。彼とバトルしたけど兄さんたちより絶対速いぜ。俺、尊敬しているんだ」

あいつは目を輝かせて僕たちに話しかけた。
意外だった。
船を操ることに対してプライドの高いガンマールが、飛ばし屋を崇拝するとは。

ちょうどその頃、兄である僕たち二人にプロへの誘いが来ていた。S3に乗らないかと。弟が法規違反の飛ばし屋というのは好ましい状況ではない。
アルファール兄さんが、困った顔をしていた。
僕は兄さんのいる前で、ガンマールにはっきりと伝えた。
「ガンマール、飛ばし屋を止めてくれないか」
弟は目を見開き、悲しそうな瞳で僕たちをじっと見た。
ガンマールは僕たちの状況をよくわかっていた。なぜ、僕がその言葉を口にしたのかも、理解していた。
プロのレーサーになることは、僕たち兄弟の幼いころからの夢だ。
「もう一度、お前も競技レースを始めないか」
優しい弟はうなだれながら言った。
「わかった。もうやめる」
それが、弟の最後の言葉だった。
その日、ガンマールは小惑星帯で単独事故を起こし、両親のもとへと旅立った。
高速で小惑星に激突した。
遺書は無かった。事故か自殺かわからなかった。
自暴自棄になって突っ込んだのか。
ショックで操縦を誤ったのか。
僕にとっては、どちらでもよかった。
僕が弟を殺したのだ。
船を飛ばすことはガンマールの生きがいだった。競技レースとは違う世界で飛ばすことに彼は人生の活路を見出していた。
ガンマールが「わかった。もうやめる」と口にした時、彼がどれほどの絶望を感じたのか。
兄である僕は、もっと思いを致すべきだった。
悲しげなガンマールの瞳が僕を責める。 (30)へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」