銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(28) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27)
俺の師匠で元S1レーサーのカーペンターが隣に乗っていた。
あの頃とコースは変わってねぇ。

銀河一の操縦士になってS1で総合優勝する、ってのが俺の夢だった。
ダグは、俺の夢を叶える気は一ミリもなかったくせに、俺のためにS1コースを借り切って無免許操縦させた。
俺がやりたいって言えば、何でもやらせてくれた。
あの経験がこんなところで生きるとはな。
カーペンターは俺の飛ばしにさんざん文句をつけた。
「違う、そうじゃない」

「どう違うんだよ?」
「模範操縦してやるから、俺が何を聞いて操縦してるかちゃんと見ろ」
「はあ? 聞くのかよ? 見るのかよ?」
あの頃の俺は意味がわからなかった。
だが、今の俺はわかる。
口下手な師匠が話していたことの意味が。

見えるよ、カーペンター。あんたの体内の細胞が振動する感じが。脳内に浮かぶ『超速』の操縦の再現。俺の身体が機体と共鳴していく。
聞こえるよ、音を身体中がとらえている。
エンジンの回転、コーナーへの対処。
すげぇ的確なアドバイスだ。飛ばしのイメージが鮮明になる。
おかげで、ハールのもろい機体に負荷をかけねぇで済む。
流石、師匠だ。
「銀河一の操縦士になりたかったら、ここから出ろ」
あんたの最期の言葉、俺はちゃんと受け止めたぜ。
カーペンター、天国で見てるか?
あんたの弟子がS1で優勝する。それが、あんたの夢だったろ。
* *
スチュワートはピット艇でじっとモニターを見つめた。
さあ、二十周目、第二段階に突入したぞ。無意識のうちに手をきつく握りしめていた。

現在、俺のチームはコルバが六位、レイターが九位。こんなに興奮するレースは久しぶりだ。
トップのエースが、二回目の給油のためピットに入った。
続いてオクダ。

先頭集団が、次々とピットインする。
レイターは給油をしない。
ここで、どこまで先へ進めるか。先頭集団とは十秒以上あいているからトップには立てない。
エースがコースに戻った。
給油時間が、九秒0五。さすがクロノスは速い。あと少しで八秒台だ。
給油組が次々とコースに戻る。
ギーラルのオクダが二位、続いてべヘム兄弟の兄が三位でコースに出る。
べヘムの弟は四位でピットに入った。
うちのコルバも戻ってきた。
レイターはコルバを抜いて、まもなくホームストレートにさしかかる。
ここで、四位に入りたい。べヘム弟の前になんとか滑り込みたい。
ここは肝だ。
兄と弟の間に入れれば、『兄弟ウォール』の威力が半減できる。
壁を完成させたらだめだ。
あいつらはすぐにぶつけてくる。ボリデン合金のハールに衝突はご法度だ。
後ろからぶつけてくるのは前に逃げられるが、前方から押さえ込まれると、前を飛ばす船との差が開いてしまう。
どうだ? モニターに映る数値を見つめる。
「やった!」
計算担当のオットーが、ガッツポーズをした。

ピットに到着したべヘム弟とレイターとの差は、八秒。給油で九秒を切ることは無い。
よし、『兄弟ウォール』を阻止できる。
これでレイターは四位だ。
レイターのハールが、ホームストレートに入った。
と、ピットロードから合流する船がきた。
バカな。べヘム弟だ。あり得ない。

弟は六秒でピットから飛び出した。こんなに早く出てこられるわけがない。
エネルギーを半分しか充填しなかったのか。
完走する気がないということだ。
レイターを妨害するためだけに弟は飛び出した。
レイターは新人レーサーだ。そこまでする必要があるのか? 異様な執念のようなものを感じる。
べヘムの兄弟レーサーは、ジュニアクラスの頃は丁寧な飛ばしだった。
だが、プロになった途端、飛ばしのテイストが変わった。危険飛行もいとわない。兄弟のどちらかが失格になっても、どちらかを表彰台に立たせる。
べヘムの『兄弟ウォール』がレイターの前に完成した。
「何てこった」
オットーが肩を落とす。
アラン・ガランは無言のまま目を閉じた。

兄のアルファールが先行しているきょうは、弟のベータールが壁を作るのだろう。
こいつは面倒くさい展開だ。 (29)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」