銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(19) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)(最終話)
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
月の御屋敷で将軍家秘書官の僕は、アーサー隊長から変わった命令を受けた。
「カルロス、蠅叩き、いやもぐら叩きに付き合ってほしい」
「ハッ」
自分はどんな命令でも従うだけだ。

隊長とそれぞれステルス型機に乗り込んだ。偵察機ではなく戦闘機だった。
「どちらへ?」
「ナセノミラだ」
「ハッ」
ナセノミラ星系。きょうはS1レースの今シーズン最終戦が行われる。
『無敗の貴公子』の引退試合ということで一般ニュースでも報じられ盛り上がっている。
そのレースにレイターさんが、万年六位のチーム・スチュワートから出場する、という小さな記事を見た。
隊長機に続いて発進させる。
隊長はS1を観に行かれるおつもりなのだろうか。
軍のステルス戦闘機で…。
* *
ナセノミラ星系の宇宙空間。
S1レースのスタート地点となる第一惑星軌道上に、出場チームのピット艇がズラリと並んでいた。空母のように広い甲板にS1機が姿を見せ始める。
ピット艇のガレージの大窓からティリーは甲板を見た。クロノスのエンブレム付きの宇宙服を着たピットクルーが機体の最終チェックをしている。
ガレージ内は環境制御されていて宇宙服を着る必要がない。
S1コースに沿って浮かぶ広告パネルにエースの顔がアップで映った。見慣れた自社クロノスのCM。何度見てもかっこいい。
まもなく開幕だ。
『無敗の貴公子』引退の最後のレース。
そして、『銀河一の操縦士』デビューの最初のレース。

昨晩は緊張したのかよく眠れなかった。
でも、眠気はまるでない。
これから予選。午後から決勝だ。
少し離れたチーム・スチュワートのピット艇の甲板に、白いS1機ハールがガレージから出てきたのが見えた。
スポンサーのステッカーが本体を埋め尽くすように張られている。噂では聞いていたけれど本物の機体を見るのは初めてだ。燃費の良さだけが取り柄の安っぽい機体。そこにメガマンモスの高馬力エンジンを積んでいるという。
パイロットは見えないけれど、レイターが操縦しているのだろう。
小さくため息が出た。
営業時代は一緒にハールと戦ってくれたのに。どうして、そんなライバル会社の船に乗るのだろうあの人は。
本当は、銀河一の操縦士のデビュー戦を応援したい。
けれど、きょうは敵だ。

予選は、ナセノミラのコースを一周飛ばしたラップで決まる。三十機のうち二十位までが決勝に進出できる。
エースが乗るプラッタの準備が完了した。
スタート地点はレースを指揮するコントロールタワーと観客席の二つの小型宇宙ステーションの間だ。白いスタートラインが映し出される。
コースを一周飛んで、同じ場所でゴールとなる。
無敗の貴公子が予選落ちしたことはない。
それでも、何が起こるかわからないのがレースだ。宇宙塵が衝突するかも知れないのだ。この予選がエースの最後の飛ばしになったら大ごとだ。
指令基地となるピット艇のガレージにはずらりとモニターが並んでいる。
メインモニターにエースのオレンジ色の機体が映った。監督やジョン先輩、チームのスタッフと一緒に見守る。
わたしの心配は全くの無用だった。
すごい。さすが無敗の貴公子だ。予選一本目でナセノミラの最速記録を叩き出し、コースレコードを更新した。一分四十七秒。
人差し指を立てる一番のポーズ。

このポーズもきょうで見納めなのだ。目に焼き付ける。
エースの技能にクロノスの技術。無敗の貴公子が無敗なのは必然だ。
予選は二回飛んで、速いタイムを選択することができる。
けれど、メロン監督の判断で二本目は飛ばないことにした。予選落ちはありえない。事故を起こしたりマシントラブルを避けるためだ。
そして、レイターのハールがスタート位置についた。

正式にあの人がS1で飛ばすのは初めてだ。
銀河一の操縦士のすごい飛ばしが見たい。
いや、ポールポジションは渡したくない。期待と不安が入り混じる。
クロノスのピットでは、全員がモニターを凝視していた。
予選を終えたエースも帰ってきて、モニターの真ん前に陣取った。 (20)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」