銀河フェニックス物語<裏将軍編>第一話(7) 涙と風の交差点
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>「花は咲き、花は散る」(1)
・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1) (2) (3) (4) (5) (6)
帰りの船の中でじいさんが俺に聞いた。
「よくグリゴロン解析に気づいたな。お前、『燃料の流れ』についてリーダーのルーギアより先に見つけていたんじゃろ」

老師は気づいている、ルーギアの奴が俺のアイデアを盗んだことに。でも、そんなことはどうでもいい。
「さあな、あいつがいつ気づいたのか俺は知らねぇし」
「お前、どこで設計論を覚えた?」
「あん? 軍の船だって前も言ったろ」
「軍のメカニックでも研究所でなければあそこまではせん。お前は最新の論文も徹底的に読み込んどる。一体誰に教えてもらったんだ?」
「誰にも教わってねぇぞ」

「お前が一人で読んだというのか?」
じいさんが納得できないという顔をした。
次の瞬間、俺の身体が震え始めた。
「違う」
「どうした?」
「俺一人じゃねぇ。…フローラと読んだ」
俺は消え入りそうな声で口にした。
「誰じゃと?」
「俺の……死んだ彼女」
それだけ伝えるので精一杯だった。
「ふむ、お前に随分といい宝物を残してくれたものじゃな」
身体の奥から衝動がわきあがる。なぜかわからねぇが、俺は自分から老師に話しかけていた。ずっとフローラの名前を口にするのも苦しかったのに。
「あんたも知ってるだろ、将軍家の天才少年」

じいさんがうなずいた。月に住んでいれば将軍家のことを知らない者はいない。その息子のアーサーが天才であることも。
「あいつの妹が俺の彼女だった」
「ほう、インタレス人か」
老師は納得したようだった。
天才的な高知能を持つ絶滅民族。少し考えれば妹も頭がいいに決まっている。だがフローラが兄同様に天才だったということは、ほとんど知られていない。
「フローラだったら、もっともっと早くグリゴロン解析に気づいたはずだ」
誰かに聞いてもらいたい、俺の自慢の彼女のことを…
「俺とフローラは毎日延々と宇宙船の話をしてたんだ。あいつは宙航理論も設計論も完璧に理解しててさ。フローラの故郷のインタレスへ行くための船について、俺たちは部品の一つ一つまでとことん話し合ってた。『銀河一の操縦士』の船、俺たちの船さ。二人でいくらしゃべっても飽きることは無かった。最新技術や新しい理論が出るのが待ち遠しくて、学術誌は隅から隅まで読んだ。俺の仮説をあいつが木っ端みじんに否定して腹を立てたこともあったけど、毎日がとにかく楽しかった。フローラは体が弱くて家からほとんど出られなかった。けれど、俺たちは数式と言語の中で宇宙を旅してた…」

顎ががくがくと震え始めて、それ以上話すことができなくなった。もう涙も枯れたと思っていたのに、計器が滲んでよく見えない。呼吸ができなくて苦しい。
正気を保とうと、俺は操縦棹をぎゅっと握りしめた。
老師が俺を見た。
「そのすべてがお前の糧となっているのだな。彼女がお前の中に生きているのがわしには見えるぞ」
俺の中にフローラが生きてる。
老師の言葉はチューブから絞り出された充填材みたいだった。
ボコボコにあいた俺の胸の穴を埋めていく。仮止めかもしれねぇ。それでも、息ができる程度には補修された。 最終回へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」