銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第二話 花咲く理論武装(最終回)
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フローラが熱弁を振るう。
「Aという事象とBという事象があって、掛け合わせることで新たなCという事象を発見することができるとするわ。レイターの部屋はAもBも目に見えるように置いてあるのよ。棚の中に入っていたら、AとBの化学反応を思いつかないでしょ。散らかっているのは、それを見つけだすためのシステムなの。だから、レイターは天才なのよ」

積読によるプライミング効果か。あいつの発想の源が、あの散らかった部屋にあったとは気が付かなかった。
フローラはよく見ている。
*
バブさんによれば、レイターは学校が休みの日にはフローラの花の手入れを手伝っているらしい。
それ自体は問題ないが、バブさんは明らかに不快感を示していた。
「お嬢さまに、あの馬鹿が伝染しそうで困るんです。お言葉遣いもこのところ乱れていらっしゃって」
「言葉遣い?」
「あの馬鹿のことを『レイターのバカ』と呼んだりしているんです」
私は思わず笑ってしまった。
「馬鹿をバカと呼ぶのは仕方がないでしょう」
「笑い事じゃございません。お嬢さまが、他人をバカなぞと呼んだことは、生まれてこのかた一度も無いんでございますよ! それだけじゃありません。あの馬鹿の部屋にある、お下劣な漫画とかもお嬢さまは読まれたようですし・・・」
まあ、そのくらいの経験はフローラにも必要かもしれない。
ただ、人間関係においてほとんど免疫の無いフローラにとって、レイターは影響が大きすぎるのではないか、という不安は私も感じていた。
バブさんもおそらく同じことを心配している。
私がアレクサンドリア号に乗って月を離れた四年前。

わたしが十二歳、フローラが十歳だった。
彼女と別れる時、もう私はフローラに生きて会うことはないかも知れない、と覚悟をした。それほど妹の命ははかなげだった。
それが今、レイターのことを嬉しそうに話す時、フローラから生命力があふれているのを感じる。
人見知りが激しく、これまで友人もいなかったフローラにとって、レイターが楽しい話し相手であることは間違いないが、おそらく、それ以上の存在になりつつある。
私は知っている。
レイターは女性なら誰にでも優しい。(ただしバブさんは除く)
それだけではない。
夜遊びをして朝帰りするあいつに、ハイスクールからきた「不純異性交遊の禁止」という通達を見せたら、あいつは「避妊すりゃいいんだろ」とけろっとした顔で言ってのけた。

あいつがフローラに手を出したら許さない。
フローラは、学術的な知識や読み解く思考力は優れているが、人間関係においては純粋培養で育っているのだ。
大丈夫だろうか。
かと言って「レイターだけはやめておきなさい」と言うのも、まるで娘を心配する父親のようだ。
レイターは、あいつはどう思っているんだ。
私はレイターを問いただした。
「お前、最近フローラと仲がいいそうじゃないか。どういうつもりなんだ?」

「あん? どういうつもり? って、今からフローラの部屋で宙航論文読むんだよ。あんたよりわかりやすく教えてくれるぜ。フローラはかわいいし、あんたに顔が似なくて、ほんと良かった」
わざとはぐらかす態度に苛立つ。
「そういうことを聞いているんじゃない」
レイターはにやりと笑った。
「恋の始まりに理由は無ぇ」
私の背中にスッと寒いものが走った。こいつは全部わかっている。
私がどうしてこんな質問をしているか、何を心配しているか。フローラがレイターに惹かれていることも。
そう、レイターは、フローラとは対極の人生を送ってきた。
嫉妬と欲望と裏切りの人間関係の中で育ち、おそろしく人の機微を読むのが得意だ。
「あんたが兄貴じゃなかったら、嫁さんにしたいくらい、いい娘だよな」
冗談とも本心ともつかない、不安をかき立てる答えを残して、あいつはフローラの部屋へ向かった。
その背中を見ながら、フローラが誤った選択をしないよう、祈ることしか私にはできなかった。 (おしまい)
※第三話「秘密の音楽室」は飛ばして、第五話「掃き溜めに姫君」へ続きます その前に、「第三話と第四話のこと」をどうぞ
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」