銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十話(3) 修理のお礼は料理です
・第一話のスタート版
・第三十話(1)(2)
「あん?」
レイターはねじをくわえたまま、チラリとわたしの顔を見た。

そして、視線を手元に落とすと、何も答えず作業を続けた。意識的にわたしの質問を無視した。
「ちょっと、気になるじゃないの」
裏蓋をはめながらレイターがつぶやくように言った。
「昔のことさ」
『愛しの君』の姿が頭に浮かんだ。

「フローラさん?」
「・・・・・・」
レイターは答えなかった。
間違いない、当たりだ。
さっきレイターが優しい表情をしていた。
だから、彼女のことに思い当たった。
フローラさんは、レイターの前の彼女。『愛しの君』と呼ばれている。アーサーさんの妹で将軍家のお嬢さまだ。七年前に亡くなったという。
レイターは、婚約していたという彼女のことを今も愛している。

先日、レイターと彼女が暮らしていた月の御屋敷に出かけて、そのことを強く確信した。
わたしには関係ない。
なのに、なんだろうこの不快感。
*
「ほら、直ったぜ」
レイターが壁面にパネルをはめ込んだ。
「レースチャンネルを映して」
ホストコンピューターに話しかけると、モニター画面が起動し、きょうのレース映像が映し出された。
見違えるように画像が美しい。それだけじゃない。
「あれ? 音が違う」
「あんた、折角のサラウンドシステムをなんで使わねぇんだよ」
「そんな機能がついてるなんて、知らなかった」
「マジ?」
レイターは部屋の家電に触りはじめた。
「ったく、もったいねぇなあ」
*
わたしはリビングとつながったキッチンで、二人分のポトフを温めた。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎ、キャベツをざくざく切って入れただけ。安いインスタント食品だけれど、香りがいい。料理が苦手なわたしの強い味方だ。
このクイックレシピのポトフが、修理の料金というのは悪い気がしてきた。電気屋さんの見積もりは結構、高かったのだ。
RRRRR
通信機が鳴った。
調理機を止めて、リビング側で受信する。
同期のベルからだった。卓上モニターに映る表情が真面目だ。察するにこれは仕事の話。
「ティリー。今、時間ある? 休みのところごめん」

「えっと、あると言えばあるけれど・・・」
ちょっと言葉を濁す。
「あら、お客さん?」
「お客さん、と言えばお客さんだけど・・・」
ベルの通信に気がついたレイターが、モニターの前にやってきて手を振った。
「は~い。ベルさん」
「あら、レイターだったの」
「これからティリーさんの手料理を食べるところ」
「ごめん、明日の仕事の話を、ちょっとだけティリーとしてもいい?」
「どーぞどーぞ」
ベルは、明朝予定されている会議の話を始めた。わたしも参加する予定の会議だ。ベルのクライアントは随分と難題をふっかけてきていた。
「代替案を示せってうるさいのよ。だから、ティリーも提示できることを考えて、援護して欲しいの」
「わかったわ」
会議は紛糾しそうだ。
「あの客、こんな休みの日まで連絡入れてきてさあ、最低だよ」
ベルが話す内容の大半は愚痴だった。
*
わたしとベルが通信をしている間、レイターがキッチンで何かしていた。
冷蔵庫を開ける音がする。勝手にのぞかないで欲しい。

電気屋さんが来ると思って部屋はきれいにしたけれど、さすがに冷蔵庫の中までは気が回っていない。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」