銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十話(2) 修理のお礼は料理です
・第一話のスタート版
・第三十話(1)
部屋はちゃんと片づけてあった。
わたしはそんなに散らかす方ではないけれど、電気屋さんが来るとなれば、念入りに掃除をしてしまうものだ。
「随分、古いバージョンだな」
リビングの壁を見てレイターがつぶやいた。
レイターは古いと言ったけど、ソラ系へ出てきたときに買ったものだから二年ぐらいしか経っていない。
「あなたが新しいのばっかり買い換えてるから、古く見えるのよ」
フェニックス号の映像システムは、わたしが知る限り二年で三台は変わっている。最新式の高級機種に。
それでレース観戦を楽しんでいるわたしも、恩恵に預かっているのだから、文句を言ったら罰が当たるのだけど。
レイターが聞いた。
「工具ある?」

わたしは引き出しの中から、ドライバーのセットを取り出した。
手に乗る大きさのケースの中に、アタッチメントの工具が入っている。
「これだけかよ」
レイターが不満げにつぶやいた。
フェニックス号に置いてある工具と比較されても困る。
普通、女性の一人暮らしには、この程度の工具セットしかないものだ。
レイターは袖をまくると、一メートル四方の壁面パネルを外し始めた。
「手伝おうか?」
「大丈夫さ」
リビングの床は作業がしやすいように、掃除したときに空けておいた。
レイターは一人でパネルを取り外し、床に置いた。
力強い腕。わたし一人では絶対に無理だ。
レイターは床に直にすわると、パネルの裏蓋をはずし始めた。
大きな手で小さなネジや部品を次々とはずす。
はずした部品はすぐ横にきちんと順番に並べられている。フェニックス号の作業場を思い出した。
他の部屋は散らかり放題なのに、あそこだけは整理整頓されていて、空気が張りつめている。
その作業場とよく似た雰囲気が漂っている。
いつものだらけたレイターとは違って、基盤をのぞき込む顔が真剣だ。

職人のような美しい所作と丁寧な仕事。器用に工具を使うその姿から目が離せない。
「ティリーさん、端末貸してくれや」
「はい」
ノートサイズのホストコンピューター端末を渡す。
レイターが基盤と端末をタッチケーブルでつなぐとソースコードの文字列が映し出された。
「ふむ。思った通りだ。チューナーの接続プログラムにバグが出てる」
机上デバッグだ。
工学プログラミングの授業を思い出す。こうやって実際に使えるとは思わなかった。
「564エックスをグリゴロン解析すると?」
突然レイターがわたしに聞いた。
「321.72」
条件反射的に答えていた。
わたしたちアンタレス人は計算が得意だ。
「ほんと便利だな。虫取りが楽だ」
レイターは優しく笑った。
思い出し笑いみたいだ。気になる。
「何、笑ってるの?」
「前もこんなことがあったな、って思っただけさ」
レイターは端末に数値を打ち込みながら答えた。
こんなことがあった、と言うけれど、レイターとこんなやりとりをした覚えはない。気になる。
「ねえ、何を思い出したの?」 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」