銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(12) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話 まとめ読み版① ② (11)
答えるバッハさんの声が震えていた。
「弊社の製品、速乾洗剤フイールの主原料です」

XKZという液体は、乳白色で確かにフイールと似ている。
銃を向けられているからなのか、秘密にしていた自社製品の原料を明かしたからなのか、バッハさんは異様なくらい怯えている。
「その通りだ。そして、この青い液体がアロルウム溶剤」
さえぎる様にバッハさんが叫んだ。
「やめてください!」
ワトキンスさんが愉快そうに笑った。
「お前に質問だ、XKZとアロルウム溶剤が混ざると何が起きる? さあ、答えろ」
バッハさんの唾を飲み込む音が聞こえた。
「ば、爆発します」
「え?」
わたしはのけぞって驚いた。

「正解だ。私がこの二つのガラスボトルを床に落とせばこんな古いビル。すぐに吹っ飛ぶ」
ワトキンスさんが脅すようにボトルを振った。
爆発の炎に巻き込まれるイメージが頭に浮かび、身体がすくむ。
バッハさんが恐る恐る口にした。
「そ、それでは、あなたも助かりませんよ」
「いいんだ、わしはどのみち死ぬ気でここへ来てるんだ」
ワトキンスさんは、通信機のアーサーさんにボトルを向けた。
「そういうことで交渉人、言うことを聞かなければ、このビルごと爆破する。わかったら、早く社長とロットリンダを呼べ。映像でのやりとりはここまでだ、あとは音声のみにする。防犯システムを全館オフにしろ」
「わかりました」
静かな声でアーサーさんが応じた。
天井に設置されていた防犯カメラの電源が落ちた。
「交渉人、社長とロットリンダが来たら、音声スピーカーで連絡を入れろ」
それだけ言うとワトキンスさんは、通信機のスイッチを切り、窓のブラインドを下ろした。
* *
コッペリ社の地下一階、警備室のモニターが一斉に真っ暗になった。
「まずいな」
通信機の前のアーサーがつぶやいた。

「おい、なんだよあの液体は?」
レイターがたずねる。
「XKZは十年前に発見された新物質だ。ワトキンス氏の持つ液体がXKZとアロルウム溶剤だとすると、二つが接触した瞬間、このビルは吹き飛ぶ」
「何い? 液体爆弾かよ」
アーサーはカルロスが用意した報告書のタブレットペーパーを、常人では読めないスピードでスライドさせた。
「ワトキンス氏はハルタナ社でXKZの研究をしていたようだ」
「はったりじゃねぇ、ってことか・・・」
警察の責任者であるバルダンに、アーサーが丁寧な口調で指示をした。
「バルダン隊長、ここから半径一キロに避難命令の措置を取ってください。我々もいったん退避し、警察署に前線本部を置きましょう」
「わかった」
「ちょっと待て、俺はここから動かねぇぞ」

レイターが不満げな声で言う。
「死にたければそうしろ。さて、コッペリ社の方、社長とロットリンダさんは、どちらにいらっしゃいますか?」
コッペリ社の担当者が青ざめた顔で答える。
「社長は出張中で、ほかの星系へでかけています。ロットリンダは、郊外の研究所です。とりあえず警察署へ向かわせます」
レイターがアーサーに話しかけた。
「アーサー、あいつの目的はカネじゃなくて、社長とロットリンダを殺すことだろ。心中覚悟だな」
「おそらく」
「じゃあ、早いところ、ワトキンスを殺ろうぜ」
「どうする気だ」
「生体反応照準器を使って、ティリーさんに当たらないように隣のビルから、頭ぶち抜いてやる」
「お前の腕ならできるだろうが、ワトキンスがボトルを床に落としたら爆発するんだぞ。ティリーさんを救う策があるのか?」
「それを考えるために、あんたに天才の頭がついてんだろがっ」
二人のやりとりを見ながら、バルダン隊長が苦笑した。

「お前ら、ガキの頃から全く変わらんな」 (13)へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」