銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(13) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話 まとめ読み版① ② (11)(12)
* *
フェニックス号の居間で、サブリナは携帯通信機の画面を何度もスクロールしていた。情報が更新されていないか、ネットワークのアップデートを繰り返す。

何かをしていないと、不安に押しつぶされてしまう。
ウウウウウウ・・・
テレビの中から響くサイレンの音に驚き、顔を上げてモニターを見る。
中継先で記者が慌てていた。
「避難命令です。コッペリ社から半径一キロの住民に、避難命令が出ました。立てこもり犯は強力な爆薬を持っているとのことです。われわれはここから撤収します。皆さんも逃げてください」
「ええっ?」
ティリー先輩はまだコッペリ社の中だ。

ホストコンピュータのマザーが言う。
「ここは、コッペリ社から三キロ離れているので対象外です。問題ありません」
問題ないはずがない。
頭の中がパニックを起こしている。
ティリー先輩が事件に巻き込まれているのは、わたしのせいではない。
けれど、先輩の仕事はわたしの契約から始まっているのだ。
わたしは耳をふさいで身体を縮めた。
間違った選択をしたら父にぶたれる。なのに、手持ちの選択肢がない。
*
厳格な父は潔癖症で、しつけと称して母とわたしに年中手を上げた。
些細なことだ。スプーンが曇っていた、とか、洗濯物にシワがあった、とか。
強く殴るわけではない。頬の腫れはすぐに引いた。それでもわたしは怖かった。
わたしはどうしたら父の機嫌を損ねないか、物心がついた頃から考えながら生きていた。家では息を凝らして父の様子を観察し、出来る限り先回りした。
間違ったらぶたれる。
そんなわたしにとって、学校の先生の意図を汲み取るのは容易なことだった。
低学年のころは、よかった。
よく気のつく優等生だと、教師にも近所の大人たちにも褒められた。
高学年になると状況は変わった。
わたしは相変わらず教師の受けが良かった。でも、それは、同級生の間では別の言葉で語られた。「えこひいき」と。
誰が言い出したかこの言葉は、子どもたちの間に一気に広まった。自分の何がいけないのか、今もよくわからない。
同僚から妬まれ、上司に受けがいいのは今も変わらない。
先回りをする性分のわたしは、妬まれやすい体質なのだ。
ティリー先輩を見ていて思う。あの人は、人から妬まれたことなどないのだろうな。
通信機が鳴った。彼氏のジョンからだ。

ダメだ。この通信に出たら「ここへきて欲しい」と口にしてしまう。
ジョンの出世に、悪影響を与える訳にはいかない。間違った選択をしてはいけないのだ。わたし自身のためにも。
着信音を無視した。これが正しい選択だ。
「どうぞ」
震えているわたしに、コンピューターのマザーがカップを差し出した。
ホットココアだった。
一口すする。甘い香りが頭の中に広がり、少しだけ気持ちが落ち着く。
* *
コッペリ社十五階の総務部。
犯人のワトキンスが、オフィスに設置されているテレビをつけた。
慌てた記者の声が画面から響いた。
「避難命令です。コッペリ社から半径一キロの住民に、避難命令が出されました。立てこもり犯は強力な爆薬を持っているとのことです。われわれはここから撤収します。皆さんも逃げてください」
ティリーはモニターを見つめた。
警察が住民を避難させている様子が映し出されていた。
現地対策本部も一キロ以上離れた警察署内へ移動した。アーサーさんもレイターもこの近くにはいないということだ。
なんだか見捨てられた気分だ。
わたしはバカだ。レイターが助けに来てくれるんじゃないかと、どこかで期待していた。

ちょっと考えればわかる。レイターは、警察官でもない民間のボディーガードだ。
この状況で、ここまで来られるわけがないのだ。 (14)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」