銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(11) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十一話(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)
・第三十一話 まとめ読み版①
ホストコンピューターのマザーを使って、情報ネットワークを検索する。
コッペリ社をめぐっては、速乾洗剤フイールを使用中に人が死んだとか、デマとしか思えない話が溢れていた。
立てこもり犯だ、という顔写真と名前が次々と浮上しては消えている。
どれも、噂の域を出ていない。
人質を全員殺す、という、たちの悪い書き込みもあった。情報ネットワークを見ているだけで不安が増幅する。
さっき、レイターさんに言われたばかりだ。
「サブリナさんは、ありとあらゆる情報を先回りして集めないと不安なんだろ?」

その通りだ。心配性なわたしは、情報の収集と計算をやり尽くさないと不安で不安で仕方がない。
わたしが欲しいのは正確な情報だ。誤った情報をいくら集めても判断を狂わせる。
『コッペリ社 立てこもり情報』というまとめサイトに、大手メディアの情報が整理されていた。ソースが信頼できそうだ。
交渉人が対応に当たると書かれていた。
このフェニックス号にいれば、安全なのはわかっている。
それでも、最悪の事態、という恐怖に押しつぶされそうだ。
誰でもいい。そばにいて欲しい。
彼氏であるジョンの顔が頭に浮かんだ。

きょう、ジョンは大事な舞台に立っている。
連絡はできない。
でも、呼んだらあの人は来てくれる。
レイターさんに聞かれた質問が頭に浮かんだ。
「サブリナさんは、ジョン・プーのどこが好きなんだい?」
レイターさんに答えなかった本当の答えを、自分はわかっている。
ジョンはわたしを好きでいてくれる、それが答え。

わたしに惚れている彼は、わたしの頼みを何でも聞いてくれる。
わたしが側にいて欲しいと言えば、すぐに来てくれる。
無理を言っても、文句ひとつ言わない。
それが、わたしがジョンと付き合っている理由。
* *
コッペリ社十五階の総務部。
ティリーは、立てこもり犯のワトキンスに銃を突きつけられていた。
バッハと若い男性社員は、少し離れた床に座らされている。
オフィス机の上にある固定通信機のスピーカーから、男性の声が響いた。
「ノア・ワトキンスさん、聞こえますか。私は、今回の交渉を務めるネゴシエーターのアーサー・ブラウンと申します」
聞き覚えのある落ち着いた声。
ティリーは、急に目の前が明るくなったように感じた。

偽名を使っているけれど、アーサーさんだ。連邦軍将軍家の御曹司で天才軍師。友人チャムールの彼氏。
「ワトキンスさん、あなたの要求を聞かせてください」
犯人のワトキンスさんが受話スイッチを押す。モニターに黒髪を後ろで束ね、眼鏡をかけたアーサーさんの姿が映った。
「交渉人、よく聞け。要求を伝える。コッペリの社長とロットリンダをわしの前へ連れてこい」
「代表取締役社長とロットリンダ研究員を、本社の十五階へお連れしろということですね?」

アーサーさんがゆっくりと復唱した。
「そうだ、社長はフイールが産業スパイによって開発されたことを認めろ。そして、スパイのロットリンダは私に謝罪しろ」
ロットリンダさん。名前を聞いたことがある。思い出した。フイールの開発者。イケメンすぎる研究者だ。

「二人の所在を確認いたしますので、その間、お待ちください。金品の要求等はございませんか?」
「とにかく、わしの名誉を回復するんだ。早くしないと、人質を殺すぞ。これを見ろ」
ワトキンスさんが、五センチほどの透明なボトルを胸のポケットから二本取り出した。ガラス製だろうか。牛乳のような白い液体と、透き通った青い液体が入っている。
「白い液体は、XKZだ」
XKZ? 聞いたことがない。
人質のバッハさんが目を見開いた。
「ま、まさか」
ワトキンスさんがバッハさんに銃を向けた。
「お前、わかったようだな、これが何に使われているか言ってみろ」
(12)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」