銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(3) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話(1)(2)
・第三十話 まとめ読み版①
「店なんて予約しなくても、俺がプロ並みの料理作ってやったのに。ヨマ牛はうまくて有名なんだぜ。土産に買って帰ろうと思ってんだ」
「どうぞ、ティリー先輩と食べてください」
「そうするかい、ティリーさん」
普段はのんびりできるフェニックス号の居心地が悪い。頭痛がひどくなってきた。
「ティリーさん、どうした?」

レイターがわたしをじっと見た。
「な、何でもないわ」
わたしはあわてて答えた。
「お二人さん、あしたは、朝九時半に船を出るからな」
「よろしくお願いします」
サブリナが頭を下げた。
「サブリナさんが七階の開発管理課で、ティリーさんが十五階の経営総務課だよな。俺、サブリナさんについて行くけど、ティリーさん大丈夫かい? あんた方向音痴だから」
馬鹿にされている。
「大丈夫です。サブリナの契約の方が大切でしょ」

と言ってから、自虐的な発言だったと気付いた。
レイターは気にするでもなく明るく言った。
「じゃ、ティリーさんは仕事が終わったら、一階のロビーで待っててくれ」
どう考えても、サブリナよりわたしの仕事の方が早く終わる。
どうしてサブリナの契約の日に、こんな仕事頼まれちゃったんだろう。
*
翌日、レイターに連れられ、サブリナと一緒にコッペリ社へ向かった。
コッペリ社の自社ビルは、古めかしい石造りの建物だった。今時珍しいけれど、老舗らしいと言えば老舗らしい。
コッペリ社は、創業ニ世紀の大手洗剤メーカー。
去年発売した速乾洗濯洗剤のフイールが爆発的に売れて、今、話題の企業だ。とにかく洗濯物がすぐ乾くのだ。新技術を採用した、というその洗剤を、わたしも使っている。
白い液体洗剤のフイールはクールな香りがする。洗濯機にかけてから自動でクローゼットに並ぶまでの時間が圧倒的に速い。家事の時短は助かる。
「ティリーさんは、仕事が終わったらここで待っててくれ。迷子になるなよ」
「迷子になんてなりません」
一階ロビーの待ち合わせ場所を確認し、レイターたちと別れた。
最上階の十五階。
レイターが言うようにわたしは方向音痴だ。でも大丈夫、このフロアはドアが少ない。
経営総務課と書かれた看板をしっかり確認し、インターホンを押す。
「クロノス社のティリー・マイルドです。十時のお約束で参りました。バッハさん、お願いいたします」
「はいはい、バッハです」

観音開きのドアを開けて、年配の男性が出てきた。優しそうな人だ。カウンターの奥のオフィスにはほとんど人がいない。
「こちらへどうぞ」
資料を受け取るだけだと言うのに、応接室へと案内された。
「温かいお茶はいかがですか?」
笑顔で勧められると、断るのも悪い気がした。
「いただきます」
バッハさんは棚からカップを取り出し、丁寧にお湯で温め始めた。
「フレッドさんから、話は聞いていますよ。資料はこちらです」
ディスクの入った小さな封筒パックを受け取る。
「ありがとうございます」
仕事は終わった。
「わざわざご足労すみませんねえ。フレッドさんには転送しますよ、と言ったんですけどね」
バッハさんの何気ない言葉がわたしを傷つける。転送できる程度の資料ということだ。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」